テイスティング・ルーム第16回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1972年ブルイックラディバレンチ(オフィシャル)
- 1992年ロングロウ9年(ケイデンヘッド)
- 1979年ブナハーブン20年(ジェームズ・マッカーサー)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今回も前回に引き続きコメンテーターとして、 スペシャルゲストをお招きしております。
モルト・ファンの皆さんならお馴染みのサイト、M’s Barのオーナーであります、 MUNEさんこと、吉村さんに来て頂きました。
まあ、MUNEさんという方が通りが良いので、 今日は「MUNEさん」と呼んでいただければいいと思います。
M’s Barはすごいサイトなんですが、 あそこのテイスティング・ノートへの掲載は何本くらいになりましたか?
(MUNEさん:以下M)今、アップしてあるのは200種類くらいですね。
全部、ご自身のテイスティング・コメントですよね。
そうですね。
コーナーのタイトルは「ベスト150&ワースト150」になってませんでしたか。
タイトルはそうなんですが、全部埋まっていないんですよ。
ベスト150の方は一応埋まっているんですが、 ワーストの方はかなり空いちゃっていて(笑)。
それにしても、サイトの情報量たるや、とんでもないレベルですね。
本当にそう思いますね。
いえ、いえ。
1972年ブルイックラディバレンチ(オフィシャル)
Iさんがちょっと遅れていますが、 今日の最初の1本からテイスティングを始めていきましょう。
ブルイックラディの1972です。
先日、ブルイックラディのボスである ジム・マキューワン氏が来日し、 記念パーティーとセミナーが開催されました。
今日テイスティングする、このブルイックラディ1972は、 そのパーティーの招待客だけに配られた会場限定ボトルです。
ボトリング数は何本ですか。
72年蒸留の一樽から詰められた限定404本で、 マキューワン氏のサイン入りです。
マスターも、まだ飲んでいないんですか。
ええ、そうです。
ブルイックラディでは、ひとつの樽から限定瓶詰めをしたものを 「バレンチ」と呼ぶシリーズでリリースしています。
同蒸留所が2001年春に新しい体制でスタートした際に、 オープニング・セレモニーで発表し大変な評判となりました。
昨年の「ウイスキー・マガジン・ライブ」でも出ましたね。
ブルイックラディ72のバレンチ。
ええ、確かに最初のバレンチが出されていました。
その話題を集めたバレンチと同じヴィンテージである1972年のものを 再びバレンチにしたと、マキューワン氏は言っておりました。
と言うことは、バーボン100%ですね。
どんな感じでしょうか?(と言いつつ、グラスに注ぐ)
バレンチのシリーズというのはあまり聞きませんが。
そうですね。
ブルイックラディが始めたのが最初で、最近になって、シグナトリーが始めたみたいですね。
そうなんですか。
500mlの小さなボトルで、麻布にくるまれた形で、既に店頭に並びはじめています。
もともと「バレンチ」というのは、樽からサンプルを抜き出すときに使う 細長いシリンダーのような道具のことを指すようですね。
ほお。
蒸留年が1972年で、29年の熟成、アルコール度数は49.3度ですね。
色はどうかな。明るい琥珀、飴色かな。
甘くて、ちょっとフルーティーな香り。
梨の入ったキムチの香り。
また、難しい喩えですね(笑)。
あと、柿も入っているみたいだ。
確かにフルーティーで、ドライな香りがする。
この時代の、ブルイックラディの個性である、ピーティーじゃないけれど、 潮の香りがするという特徴が良く出ていますね。
ああ。
なるほど。
確かに潮っぽい。
まあ、オフィシャルですから、正真正銘ブルイックラディの熟成庫に入れられていたわけで、 この時代の特有の個性が出てきたというわけですね。
この塩っぽさは、アイラ・モルトとしての個性でもありますね。
あと、他のアイラ・モルトにはない、ブルイックラディ独自の特長として、 ボトリング前の加水調整にアイラ・ウォーターを使っているそうです。
これは先日のセミナーで、マキューワン氏が強調しておりました。
原酒の樽をメインランドで加水調整する際には、ボウモアも、ラガヴーリンも、 メインランドの水を使っているのですが、ブルイックラディだけは、 わざわざアイラ・ウォーターをタンク・ローリーで運んでいるそうです。
それは新体制になってからの話なんでしょうか?。
ええ、マキューワン氏になってからです。
へえ、気合が入ってますね。
(テイスティング)
塩っぽさ、華やかさ。そして、フレッシュ。
ええ、フレッシュですね。
香りからだと甘さを期待しちゃうんだけれど、あまり甘くはない。
すっきりしていて。
甘くはないですね。
かなりフルーティーで、さっぱりとして。
口残りは、スっと消えていく。淡雪のように。
10年、15年くらいの熟成で感じるモルティさは無いようですね。
そうですね。
香りの方では麦っぽさも感じますが、口の方ではほとんどありませんね。
ちょっと苦みを付け加えた塩飴みたいな感じ。
若干、喉越しに苦みがありますね。
(遅れてIさん、登場)
すいません。遅くなりました。
今、ブルイックラディの1972をテイスティングしています。
・・・ああ、フルーティーで、フレッシュですね。
若々しいよね。
29年熟成というと、もう少ししっかりと残るものがあってもいいのかなとも思いますが。
もっとヘビーな感じですよね。
ただブルイックラディは、熟成が長くなってもあまり化けないんですよ。
確かに熟成が長くなればなるほど、アイラ・モルトの個性が際立つのではなくて、 おいしい長熟のウイスキーになってしまいますね。
まあ、ブナハーブンとかもそうですが。
空気に触れると、次第にフルーツっぽさが増してきたように感じます。
塩味とか苦みより、甘さが強くなってきた。
加水してみましょうか。
加水すると、後の苦みがハッキリしてくる。
そうですか。私は飲み易くなったと思いますが。
確かに飲み易くなっているのですが、後に残る苦みはしっかりとなってきます。
なるほど。
そうだね。
加水したら、飲み易く、おいしくなりました。
飲み易くなって、個性が際立ってくる感じで。
そうですね。
1992年ロングロウ9年(ケイデンヘッド)
それでは、2本目に行きましょうか。
ケイデンヘッドのボトリングなんですが、 ロングロウの9年、蒸留年は1992年です。
ナチュラル・カスク・ストレングスで、 アルコール度数は56.8度ですね。
ロングロウ=スプリングバンクで、 ケイデンヘッドの瓶詰めですから、 まあオフィシャルみたいなものです。
ロングロウのカスク・ストレングスは、結構珍しいんで、 これは、あまり日本には入ってきていないみたいですね。
色は結構乗っていますね。
シェリーみたいに濃いなあ。
シェリーではないんですが。
このビーズの立ち方が嬉しいですね
最近のオフィシャルのロングロウは、 言われているほどにピーティーじゃないんですよね。
穏やかですよね。
すごく薬品のような香りがする。
ちなみに、既にご存知だとは思いますが、 ロングロウは、スプリングバンク蒸留所で作られている ハード・ピーテッド・モルトで、2回蒸留です。
この香りはカルヴァドスだ。
ピートの香りも結構しますね。
最初に来るのはピート感ですよ。鼻がムズムズするくらい、香りがアタックしてくる。
これを香りだけ嗅がされたら、ブランデーだと思うんじゃないかな。
ブランデーってあまり飲んだこと無いから、ちょっと…。
ロングロウにしては、クセの無い方じゃないですかね。
昔の1972あたりだと、牧草臭いというか、変わったピート香があったんですが。
そうですね。
アイラ・ピートというよりは、ごく普通のピートに近いですね。
おいしい。香りのままですね。
いいですね。
うん、こりゃあ良い。
厚みもあるし。
香りが全然分からなかったけど、味の方はすごく良いと思う。
アイラ・ピートでも、キルンが動いていて町に漂っているときの香りは、 海草ではなくて、この香りがしていますよ。
久しぶりに、力強いロングロウを飲んだって感じがします。
甘さと煙りっぽさ。
わかったよ。これって、天津甘栗だ(笑)。
あのドラム缶みたいなので、グルグル回ってるやつね。
あの匂いありますね。
舌の横に感じる渋味と甘みが混じったような。
加水させてもらいますね。
加水するとヨード感が際立ちますね。
後も長いですね。
ああ、キャラメルを口に入れているみたい。
おいしい。
加水した方がいい。
全然へたってこない。
まだ加水していないけれど、天津甘栗の個性として、 栗の持つコクみたいなのがありますよね。
ああいう感じもします。
少しモッサリとしたようなところですか?
ええ。
加水すると、アイラっぽくなってきますね。
ヨード感が強まってきます。
さっき話題になっていたアイラ・ピートの個性を感じます。
しますよね。
一説によると、ロングロウはアイラ島のピートを使っているという噂もあります。
そうなんですか。
年代、蒸留年によっては、そういうこともあったという程度かも知れません。
キャンベルタウンの立地では、「ありえないとも言い切れないなー」って感じですね。
本当においしい。
これは、これは。
自分は加水する前の方がいいかな。
ちょっと時間が立ったら、粘土っぽくなってきた。
しょっぱさと一緒に、苦みも出てきて。
それが、かなり後を引くかなって感じです。
ロングロウは、この位の長さが良いんでしょうかね。
ガツンと来て。
若いから、ピーティーな奥に、モルティな感じもありますね。
加水しても、加水しなくても、良いですね。
三人とも気に入っていただけたようですね。
最近の流れから言って、これほどまでにピーティーなロングロウが 飲めるとは思っていませんでした。
はっきり言って、驚きました。
1979年ブナハーブン20年(ジェームズ・マッカーサー)
それでは、3本目に行きましょう。
またアイラ島に戻るのですが、ジェームス・マッカーサー瓶詰の、 オールド・マスター・シリーズのブナハーブン1979、 20年熟成でシェリー・カスクです。
色は濃いですね。
すごい。
濃くて、赤い。
これまでのボトラーズ物でも、 時々黒っぽい濃さのものが出ていましたね。
うわぁ、すごい香り。
これはね、椎茸、ナメコ。
キノコの香り。
あまりモルトにはない香りですよね。
うん、椎茸の香りがする。
あと藁っぽいような。
これ、かなりの粘着力ですよ。
ちょっと甘くなってきた。
濃いねえ。
粘ってる、粘ってる。
黒糖のようになってきた。
甘くなってきたけど、香りがちょっと椎茸だから。
お嫌いですか?
椎茸は大好きなんですが、この香りはちょっと馴染めないです。
ちょっとアルコールの刺激がありますよね。
ただ、椎茸臭の方が強いけれど。
椎茸臭っていうのは、ヤミツキになるんですよ(笑)。
香りだけでも、随分持ちますよ。
そう言っているとテイスティングが進みませんよ。
味の個性は、最初フルーティーで、途中から鍋料理。
ゴム、ゴム。
椎茸の入ったゴム。
存在感のある椎茸、ゴム。
この位のゴム臭なら、許せる範囲だと思いますが。
MUNEさん位に、沢山飲んできちゃうと何でもOKになっちゃう。
いやいや、そんなことないです。
だんだんカラメルっぽくなってきた。
本当だ。
かなりの粘着力なんですが、口に入れてしまうと、後に引かないんですよね。
液体自体は、足が長いじゃなくて、膜になってしまうんだけどね。
シチュエーションとしては、夜にたき火をしながら、飲みたいね。
タイプとしては、口に含んでウッとなって、また口に含んではウッとなって、 それでもまた含みつづける感じですね。
その「ウッ」がだんだん心地よくなってくるんだよね。
「えっ、何これ」とか思うんだけれど、ついつい手が出てしまう。
自分としてはもう随分心地良いですが。
そうですよね。
後を引かないところも良いよね。
2本目のロングロウは、口に含んでからしばらく手を出さずにいられると思うんですが、 こちらのブナハーブンは、口に含んでから、しばらくすると何だっけって、 手を動かさずにはいられなくなる感じがしますね。
そして、またしばらくすると何だっけを繰り返して。
もう2杯、3杯と(笑)。
今日は切り立てですから、ちょっとエグミがありましたが、 しばらくしたら、もっと良くなるんではないかと。
加水したくない。
水を足したら、ゴムくさくなってきそうで。
加水したら、椎茸が舞茸になるかも(笑)。
(と言いつつ、水を注ぐ)
あまり変わらないね。
やさしくなって飲み易くなったような。
加水しない方が良かったかな。
椎茸のダシが濃くでていて。
飲み終わってから、アルコール感の戻ってくる感じがあって。
濃い方が楽しめるかもしれませんね。
今日の3本は、3本とも個性があって良いですね。
ロングロウは意外でしたし。
ブナハーブンは、好きな椎茸臭でしたし。
ブルイックラディは、爽やかな塩っぽさで。
Iさん、ブルイックラディだけ、ちょっと残っていますね。
今の味はどうですか。
これが一番おいしかったりして(笑)。
本当に、すっごくおいしい。
清楚で、さっぱりとしていて、フルーティーで。
これは驚きです。
その前のブナハーブンがしっかりと濃かったから、その反動でしょうね。
本来、ブルイックラディとブナハーブンって似た者同士だと思うんですが、 今日飲んだものが両極端にあるというのは、不思議ですね。
本当ですよね。
樽によって、こんなに変わってしまうというのは。
樽による変化は大きいなあ。
それにしてもブルイックラディの新体制がスタートして、今後が楽しみですね。
本当ですね。
「ポートシャーロット」でしたか、ピーテッド・モルトを使って、 新しいブランドで出すみたいですよ。
そうでしたか。
個人的には、「ロッホインダール」を使ってくるのかと思っていましたが、 「ポートシャーロット」で出すことになったようです。
楽しみですね。
それが売り出される頃には、自分は既に引退しているだろうと、 マキューワン氏は語っておりましたが。
まあ、10年くらい待てば出てくるでしょう。
10年の辛抱ということですね。
じゃ、そろそろまとめに行きましょうか。
私は、やっぱりロングロウが一番好きです。
ピート感がしっかりとあって、個人的にもともと好みの味です。
その次にブルイックラディが美味しいと思いました。
爽やかで、清楚で。
最後はブナハーブンです。
初めは、シェリー樽で自分の好みじゃないなって思っていたのですが、 でも、気がついたら全部飲んじゃってました。
ブナハーブンは刺激的で、ついつい進んでしまうんです。
今日は3種類とも、加水してもいいって思いました。
じゃ、次はTさん。
僕の今日の順番は、飲んだ順番の通りです。
ブルイックラディ、ロングロウ、ブナハーブンの順。
ウイスキーとしてみて、おいしいと感じる順にしちゃったんですが。
一般的なスコッチとしてみれば、一番うまいのはブルイックラディだと思うし。
確かにブナハーブンをうまいというのは、異端かもしれませんね。
でも、個人的にはブナハーブンの魅力を否定する訳ではなくて、 さっきも言ったように、たき火のようなシチュエーションにおいては 飲みたくなる1本ではあるわけで。
毎日は飲めないですか。
これがモルト・ウイスキーだと言って出されたら、「それは違う」って言うと思います。
確かに。
それではKさん、どうですか。
これまで隠し通してきましたが、今日ここで、僕はカミング・アウトしなければなりません。
えっ、どうしたんですか。
今日、ここに宣言します。
長年、スコッチ・ウイスキー・ファンのふりをしてきましたが、 本当はモルト・ウイスキー・ファンだったんです。
順番を付けると、ロングロウ、ブナハーブン、そしてブルイックラディです。
なあんだ。そういうことですか。
ロングロウについては、加水してから「しまった!」と思いました。
加水せずに、ロングロウ独自の個性、存在感やしっかりとしたボディ感を楽しみたいですね。
それからブナハーブンは、最初の椎茸の香り、 その引き込むような魅惑的な印象、そして飲み込んでしまってから 喉から戻ってくるような余韻まで、十分に堪能できます。
ブルイックラディの特徴は、正統のスコッチに属するものだと思いますが、 ちょっと物足りないように感じました。
それでは、特別ゲストのMUNEさんのコメントをお願いします。
そうですね。
3本に共通して私が思ったのは、どれも欠点が無いなあということです。
例えば加水してしまうと、いやなところが出てきてしまうモルトが割にありますが、 今日の3本にはそういうところがなかったように思います。
それと3本とも違った個性があって、とても良かったですね。
ブルイックラディはやや凡庸なところはありますが、 フルーティーで繊細な風味を楽しむことができます。
ロングロウは、頭からガツンと来て・・・。
ブナハーブンはちょっとマニアックだけれど、とてもうまいし。
甲乙つけがたいですね。
しいて1本選べと言われれば、この椎茸ですかね。
どちらかというと珍味系ですか。
そうかも知れないですね。
モルト・ファン向けに、テイスティングの心構えとか、 アドバイスとかあったら、いただけませんか。
私、もうご存じだと思いますが、けっこう異端もの、変わりもの好きなんで、 あまり参考にはならないかも知れませんね。
最近になって判ったんです。
自分のサイトの「ベスト150&ワースト150」もあまり皆さんには 参考にならないんじゃないかって(笑)。
今、サイトのナンバー・ワンは何ですか。
ちょっと恥ずかしくて、ここでは言えないです。
えっ、こんなのが、って言われそうで。
ここだけの話、強烈な椎茸臭のする昔のモルトです。
じゃ、あとでこっそりと見てみます。
MUNEさん、本当にありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
また機会があれば、遊びに来てください。
こちらこそ。