テイスティング・ルーム第14回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- イラック(ヴィンテージモルト社)
- 1975年アードベッグ25年(ジョン・ミルロイ)
- 1979年ポートエレン22年(オフィシャル ポートエレンモルティング)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今日は、新年早々に大変に好評だった シングル・カスクの逸品をお出ししようと思っていたのですが、 あまりに売れ行きが良くて、残念ながらテイスティング・ルームには 間に合わなくなってしまいました。
キングスバリー瓶詰めのボウモア35年熟成、1966年蒸留なのですが…。
これが、その空きボトルです。
残念ですね。
匂いを嗅がせてもらっていいですか? (と言いつつ、ボトルの首に鼻を近づける、クンクン) ああ、良い香りですね。
TさんとKさんには、飲んで頂きましたね。
飲めなかったIさんに、飲まれた印象を教えていただけますか。
ええ、とっても美味いモルトでしたね。
アルコール度数は43.7度で、熟成感がしっかりとありました。
色は、浅めの琥珀色、おそらくバーボン樽での熟成だと思います。
香りは、最初の印象は、白っぽいフルーツ。
白ぶどうとか青林檎とかでしょうか。
後から、上品なレーズンとかの特徴も感じられました。
味について言えば、本当にアイラ・モルトなのか、 ボウモアなのかといった飲み物のように感じられました。
なんだか上質なラム酒を飲んでいるような、糖蜜感に満ちていて。
爽やかですっきりとした飲み口と、甘い心地よさとが、うまく共存している感じで。
ボウモアらしさは、味の底にあるキャンディーとか シロップのようなフレイバーでしょうか。
後口は、初めさりげなく、しだいにしっかりと強まってくる余韻でした。
加水すると一時的にアルコール感は強まるのですが、 アルコール度数があまり強くないので、すぐに腰が折れてしまうところだけが難点ですね。
星は、5つ星満点の4つ半以上でしょうか。
Tさんはいかがでしたか。
甘さのある、別の飲み物のように思ったけど、本当に美味いモルトだよね。
ただ、最初ゴムっぽい印象があったのは、ちょっと残念だったかな。
あ~ぁ、本当に残念です。
もう、酒屋さんの店頭では完売となっていますので、 もし、バーで見かけたら、是非飲んでみてください。
そうですね。
また、必ず飲みたいですね。
イラック(ヴィンテージモルト社)
それでは、テイスティング・ルームの本編を始めましょうか。
今日は、アイラ・モルトを3本用意しました。
うわ~い、やったやった。
うれし~い。
最初のモルトは、 イラック(ILEACH)というボトルです。
日本語に訳すとすれば、 「アイラの男」といった意味でしょうか。
ボトラーは、スコッチ・ウィスキー・カンパニー・リミテッド というところになっていますが、 実はヴィンテージ・モルト社ではないかと言われています。
アルコール度数は40度。
熟成年数・ヴィンテージともに 表示はありませんが、 国際ワイン&スピリッツ大賞の 1999年金賞受賞となっていますね。
ほら、ラベルのここに金メダルが付いています。
ああ、本当だ。金メダル付いてる。
ラベルにわざわざ「ピーティー」と書いてある。御愛敬だね。
ノン・ヴィンテージのモルトですし、 価格的にも廉価品に属する部類ですね。
ヒントになるのは、アイラ島、シングルモルト、ピーティーといったところでしょうか。
さて、蒸留所はどこでしょうか。味わってみて、推理してみてください。
ああ、久しぶりの推理ゲームですね。
じゃ、テイスティングしてみましょうか。
ええ。
色は、ゴールド。キラキラした感じ。
香りは梅酒かな。ほのかにピートの香り。
キャンディーっぽい印象。アイラ・モルトの中では、わたしの好きな香りです。
果実酒のフルーティな印象、杏とか梅とか。
次に来るのは、オーク樽の個性と、ピートの香り。
味の方は、いかがですか。
煙のような味。
まろやかな味。後から薫製の印象。
すごくおいしいし、かっこいいと思える味。
甘みを感じる、まろやかさとピート感がしっかりとある。
オイリーな舌触りも感じる。
まさにわたし好みのお酒です。
何といっても、「世界で金賞」ですから。
蒸留所の方は、わかりましたか?
え~っと、他に何かヒントを頂けませんか?
ラベルについているこの絵でしょうかね。
海沿いの蒸留所の絵ですね。
絵柄をみるとラフイログ蒸留所に似ているような…。
八王子の某酒販店さんが開設しているHPでは、 はっきりと「ラフロイグ」と書かれていましたね。
言われてみれば、そんな感じもしますが。
消去法でいくと、まずボウモアはないですね。
アードベッグの個性も感じられません。
ポートエレンも、個性豊かではありますが、このような物は出てこないと思います。
そうなると、ラフロイグか、ラガヴーリンのどちらか。
ただ、私自身は、これはラフロイグではないと思います。
その理由は何ですか。
ラフロイグ固有の個性としてフェノール臭があげられますが、 このイラックには、フェノール臭が感じられません。
なるほど。
そうなると、推理クイズの残った答えは、ラガヴーリンってことだね。
ラベルの絵柄は、ラガヴーリン蒸留所なんでしょうかね。
あくまでも仮説として聞いて頂きたいのですが、 この絵が昔のラガヴーリン蒸留所なのだとしたら、どうでしょうか。
よく見るとと、この絵柄は、現在のラフロイグ蒸留所でも、 現在のラガヴーリン蒸留所でもないように思えるのです。
へぇ~っ。
最近のラガヴーリンと、ラフロイグは、ピート感が前面に出ていて、 あまり個性の差がなくなってきてしまっているようですね。
飲み比べとかしてみないと、その差が認識できなくなっているようで。
確かに、強烈な個性の差は無くなっていますね。
元々はどちらも個性が際立つモルトなんですが。
でも、あんまり好きじゃないな。
その理由は?
後味がオイリーで、舌の印象がいやらしい感じ。着火剤みたいで…。
昔のラガヴーリンは、火薬の味がしました。
私は、とても好きです。
最初の香りから、最後まで気に入りました。
「世界で金賞」というだけのことはあると思います。
1975年アードベッグ25年(ジョン・ミルロイ)
それでは、二本目のアイラモルトに行きましょうか。
アードベッグの25年、蒸留年は1975年ですね。
ボトラーは、ジョン・ミルロイです。
ミルロイって、あの評論家の?
モルト評論家で有名な、 あのミルロイの弟がやっている瓶詰会社です。
アルコール度数は、ナチュラルの58度ですね。
樽熟成は、Sherry Buttです。
(グラスを眺めつつ)
色は薄めの琥珀だね。
うわっ、すごい香り。
ちょっとヒノキみたいな。
シェリー樽の個性。最初のアタックは強烈な印象。
フルーティーな印象。
メロンの香り。
この強烈さは、マスクメロンの熟した発酵臭。
ああ、わかります。マスクメロンの印象。
味の方はどうですか?
味の印象は甘みが最初にきます。
甘くて、しょっぱくて、苦い。
プラムとか、プルーンとか。
後味がしょっぱい。
うるめいわしの後味。
う~ん、わかるけど、わかんない。(笑)
これもおいしい。加水したくない。
じっくりと味わいたい余韻。
ひなたに、雨がパラパラって降った時の匂い。
ああ、夕立ちの匂いね。
ちょっと埃っぽくって。
なるほど。
でも、加水してみましょう。
加水したら、焼き芋の焦げた皮の匂い。
なるほど。
加水しても、締りが無くならなくて心地良いですね。
香りの個性も弱まらないし。
僕としては、加水した方が好きだな。
フレイバーは多彩で、はっきりとして来るし。
硬さの方も取れてきて。
いやみな部分、いやらしい部分が出てこないのも良いね。
ナッツっぽい個性も出てきたね。
ああ、シェリー樽の特徴だね。
本当に美味いモルトだ。
後の余韻の中に、アードベッグ独特のカビっぽさを感じますね。
度数58度というのは、ちょっと硬かったかな。
加水した後の変化が面白いですね。
確かに。
1979年ポートエレン22年(オフィシャル ポートエレンモルティング)
それでは、今日の3本目に行きましょう。
ポートエレンの22年、蒸留年は1979年です。
これまで、ポートエレンといえば ボトラーズの物が中心で、正規品と言えば、 UDVのレアモルト・ シリーズであった訳ですが、 蒸留所部門閉鎖後にモルト・スターとなった ポートエレン・モルティングが、 近年、オフィシャル・ボトルを出すようになってきました。
今日のこの1本も、ポートエレン・モルティングが出してきた オフィシャルで、6000本の限定版ですね。
アルコール度数は56.2度です。
シリアルナンバーは259番ですか。
6000本の量ということは、 シングル・カスクでは無いということですね。
そうですね。
色方は、薄めのゴールド。
すごく良い香りです。
とても華やかな香り。畳み掛けて来る力を感じる。
ピーティーさは、ほとんどないでしょう?
そうですね。
(各自、テイスティングに移る)
口の中に、自然に入ってくる。馴染んでくる感じ。
チョコレートっぽい甘さ。
だんだん甘くなってくる。
チョコとか、トフィ。
やわらかなフルーティさ。
ピーティーな甘さ。
わあ、喉が癒されてきた。
ああ、肩のコリが取れてきた。
後は、僕の鼻が通ってくれれば。(笑)
ああ、美味しい。
もう飲めないのかな。
これほどのポートエレンは。
しばし絶句。(笑)
ポートエレンって、こんなに上品でしたっけ。
魅惑のポートエレンって感じで。
結構、自信を持って出してきているんじゃないんでしょうか。
値段も高いですから。
加水しようか。
いやだ、いやだ。
なんだか、とっても勿体無いような。
(と言いつつ、水を加える)
煙っぽくなってきた。
ポートエレンらしくなってきた。
甘さが強くなってきた。
わたし的には駄目かも。
ピートっぽさが出てきましたね。
加水すると、個性の部分が引き伸ばされてしまう。
薄くなってしまうようで。
さっきのアードベッグが、表情豊かになってきたのとは対称的だね。
水を足さない方は正解だったかな。
甘くなってしまうし。
そろそろ、まとめに入りましょうか。
今日のは、高水準で、甲乙付けがたいと思います。
3本すべて、香りに引かれました。
ポートエレンは、夢のようでした。
絶句。
アードベッグは、衝撃的においしかった。
イラックは、カジュアルでしたけど、わたし好みのアイラです。
ポートエレンは別格の美味さですね。
包み込むように癒してくれる。
口の中にも自然に馴染んできて、余韻もしっかりとあって。
アードベッグは、加水して多彩な表情を楽しみたい。
饐えたカビっぽさがもう少し強い方が僕の好みだけれど。
イラックは、「世界で金賞」だけのことはある。
廉価品としては非常に完成度が高い。
僕も順番としては同じかな。
イラックは、ピーティーだけど、オイリーで、着火剤みたいなところが僕の好みじゃない。
アードベッグは、おいしいモルトだよって、人に言えると思う。
ポートエレンは、どっかの店であれがおいしいって言ったら、ただのイヤなヤツ。(笑)
あまりにも美味いし。値段も高いし。
今日開けてしまったら、結構足が速いと思いますね。
これがHPにアップされたころには飲めるかどうか。(笑)
(*注:空になりました)