テイスティング・ルーム第4回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1971年グレンカダム28年(キングスバリー)
- 1983年タムドゥー16年(SMWS)
- 1978年ポートエレン22年(オフィシャル UDレアモルト)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1971年グレンカダム28年(キングスバリー)
今月は、最近のラインアップから自信作ばかり、3本用意しましたから、味わってください。
まず最初は、キングスバリーの「ケルティックコレクション」からの1本です。
今回、このコレクションから6種類の魅力的なモルトが出されたのですが、今日はそのなかで一番マイナーと思われるグレンカダムの1971年を選んでみました。
(ボトルを眺めながら)キングスバリーというと、
紋章のような格調高いラベルが見慣れたものですが、
これは随分違いますね。
これは、ケルティックコレクションという別シリーズですので、
ケルト文字を使ったラベルになっています。
なるほど、そういうことですか。
1971年の蒸留、28年熟成で、
樽は「ホッグスヘッド」としか表記されていませんから
種類までは判らないんですが…。
グレンカダムは、蒸留所ブランドのボトルで売られていませんから、
あまり馴染みが無いかも知れませんが、バランタインの原酒の一種として有名です。
蒸留所は、東ハイランドのブレチン市にあるのですが、
この町の蒸留所としては、このグレンカダムと、
もう既に無くなった「ノースポート」が知られていますね。
最初の印象はいかがでしょうか?
(ノージングをしながら)
甘いボンド。といっても、007じゃないけど。(一同、無反応)
うーん、あまい香り、白ぶどうと大麦のような。
香りはキャラメルのような印象です。
やっぱりボンド。
確かにボンドとかセメダインみたいな感じもある。
樽は、バーボンかな。
(テースティングに移って)
年数の割には、ちょっとピリッとくる。
辛いわ。
きっと度数が高いからだろうね。
ドライで、スパイシー。後に甘さが長く残る感じ。
そうですね、度数は55.6度ありますから。
28年と言ってもそんなに極端に度数は落ちていないですね。
塩っ気が強い感じもあるね。
確かに塩辛さはあるんだけれど、蜂蜜っぽい甘さも感じる。
そして、クリーミーな印象も。
塩っ気を感じて、ピリピリ来るんだけれど、後味に炭と松脂の感じ。
サラッとしているというよりは、トロリとした舌触り。
ルーティーさとかは感じませんか?
バランタインの30年を連想する味なんですけど。
30年なんて飲んだの、もう随分前だから憶えてないよ。
杏とか、みかんとか。酸味のある果物のような。
やっぱり辛い。舌に触った瞬間からピリピリする。
ちょっと加水してみましょうか。
最初の香りはやっぱりキャラメルみたい。
確かに、キャラメルのような印象ありますね。
あっ、加水したら、ヘザーハニーっぽくなってきた。
ほんとだ、蜂蜜みたいになってきたわ。
うん、蜂蜜のような、栗のような。
加水したら、辛さもマイルドになってきたわ。
このモルトを水を入れないでストレートで飲むというのは、
熟成された「通(つう)のオトナ」という印象がするのだけれど、
加水すると、やさしい味の好きな女性とかでも大丈夫じゃないかな。
おとなしくなった感じかな。
「おとなしい」っていうのは当たっていますね。
加水でこんなに変わるのは、面白いですね。
モルトそのものの個性は、さほど強烈ではないですから、加水での変化は、
度数が下がって、やさしくなるという部分かも知れませんね。
これは、見立てが難しいな。
加水前の印象は、苦みばしったチャールズ・ブロンソンかな。
加水したら、女性的になったような感じ。
グレンカダム自体のモルトの個性としては、女性的なものだと思いますね。
今日のモルトは、度数が高いために、辛さやスパイシーさが前面に出ているのではないかと思います。
私は、これ、すごく好きなモルトですね。
僕は、ちょっと違うかな。
僕は、好きな部類に属します。
シングルモルトの割には、上質なブレンドのような印象がありますよね。
味の複雑さは、ブレンド程には絡まりあっては来ないんだけれど、全体的な雰囲気は軽く、爽やかでいて、しっかり味は出ていて、余韻が残る。
先ほど、バランタインの30年といいましたけれど、そこに通じる部分があるのではないかと思いますね。
何故、シングルモルトを、自社のブランド・ボトルで出さないんでしょうか?
こじんまりした蒸留所で、ポットスチルも小さいですから、生産量が少ないんじゃないかなと思いますね。
建物自体も、エドラダワーとあまり変わらないくらいの規模ですし。
蒸留器は、ちいさくて、ちょっと変な形をしていますね。
先ほど、Tさんが「炭っぽい」とおっしゃっていましたが、モルティングの工程で、ピートの炊き込みとかはしているんでしょうか?
年代的には、使っている可能性は高いですね。
グレンカダムの喩えは難しいなあ。「あとで、まとめて」にしても良い?
1983年タムドゥー16年(SMWS)
それでは、2本目に行きましょうか。
スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティーのタムドゥー16年です。
年数は16年ですが、色は、しっかり乗ってきています。
度数は56.3度ですね。
先日のソサエティーの試飲会では、このタムデュが一番人気でした。
香りは、しっかりとしたシェリー。
うん、強烈なシェリーの香り。色の方も赤みを帯びている。
タムドゥーのシェリー樽仕上げについては、30年以上のものがとても人気が高いのですが、16年で、ここまでしっかりシェリーが乗っかって来れば十分ではないかなと思いますね。
う~ん、おいしい。(笑)
甘い感じもするんですけど、華やかさの方をより強く感じますね。
確かにそうだね。
以前飲んだタムドゥーもそうだったんだけれど、華やかさというのはタムドゥーの特長・らしさだよね。
「葡萄畑の中にいるような」華やかさとでも言うような。
うん、葡萄畑は当たっているかも。印象は、かわいらしい女の子。
でも、しっかりしたところもある。
パーッと来るけれど、しっかり主張してくる。後味はすっきりとして。
まろやかだけれど、いやらしい残り方はしないっていう余韻はいいね。
後、クリームっぽい印象も。
空気に触れると甘い香りが増してきた。
本当だ、すっごーい。
16年よりも、もっと年数が長い感じの厚みがありますね。
加水すると、さらに甘みが強くなってきますね。
加水したら、香りの立ち方が強くなりますね。硬さが取れてくるんだろうな。
硬さが取れて、まろやかになるね。
喩えるなら、20代後半になった「花の子ルンルン」って感じかな。
(爆笑)
なるほどぉ(感心する)。
鼻を嗅ぐと麦の香りはあるんだけれど、
舌の乗せると、もうほとんど麦の味はしませんね。別の飲み物みたいだ。
やさしくて、かわいいけれど、包容力のあるような。
加水しないとしっかり主張もするし。
うん、おいしい。(笑)
禁句だけれどね。(一同、爆笑)
これは、結構「当たり」でしょう?値段も安いし。
タムドゥーって、ポピュラーなところでは、それほど評価されていないですよね。
オフィシャルで10年のシングル・モルトは出てますが、これといって、際立った個性がある訳ではないですからね。
あと、ブレンデッドの「ダンヒル」の原酒のひとつと言われていますね。
蒸留所の場所は、スペイサイドのど真ん中ですし、系列のハイランド・ディスティラーズでいうと、近くにはグレンロセスやマッカランがありますから、樽が行ったり来たりしていて、特徴が似通ってくるということはあると思いますね。
1978年ポートエレン22年(オフィシャル UDレアモルト)
それでは、最後に、ポートエレンに行きましょうか。
UDのレアモルトシリーズに、今回新しくラインアップされた78年蒸留の22年物です。
ポートエレンといえば、昨年から、物凄い人気になっていて、出れば即日完売、売り切れとなり、「猫も杓子もポートエレン」という状況になっています。
UDレアで言えば、前回の20年の出来が素晴らしかったので、今回の22年も、前評判は高いようですね。
香りは、すばらしいよ。ピート感と甘み。
いい香りだ。香り高い。華やかな、ヨード臭だ。
本当に良い香り。ヨード臭が、華やかだなんて。
まさにアイラ・ピートですね。
あとフルーティさも感じる。
ポートエレンは、色はあまり濃くならないですけれど、これはしっかりと出てきていますね。
確かにポートエレンにしては、赤みも出ていますね。
香りのまま、こうしていたい。
うん、香りのまま、ビニール袋に入れてしゃがみこんで座っている。
それも良いかも知れない。
ヤンキー。ウ〇コ座り。青春の一齣。(笑)
味は香りほどには、ピーティーじゃないですね。
味の方は、粉っぽくて、フルーティ。
甘みもあるし、苦みも出ているし。
前回の20年の方は、ピート感が前面に出ていたんですが、それに比較するとウィスキーとしてのバランス・完成度は、今回の22年の方が良いのでないかな。
これは。いやいや。(嘆息)
どうしよう。(感嘆)
みんな5つ星を付けてしまったら、テースティングにもなりゃしないって、感じじゃないの?
(冷静に)今日のは、みんな5つ星を付けてもらって構いません。
最初にすっきりとした甘み。後から、フルーティとヨード臭とピート感が順番に出てくる感じ。
甘さ、フルーティーさもあるんだけれど、最後にチョコレートっぽい甘みもある。
ほろ苦い甘さみたいな。
確かに感じる。ココアパウダーみたいなの。
この余韻は面白いですね。
最初には、アルコールは、全然舌を刺さないんだけれど、余韻として舌が痺れてくる。
これは素晴らしい。(感涙、大袈裟?)
結構、多彩な味がしていますね。
自分の意識をどこに持っていくかによって、ラガブーリンにもなるし、ラフロイグにもなるし、ボウモアにもなるし。
それぞれの匂いとか、味とかが、こんなにも独立して出てきているのに、総合的にみて、全体が壊れていないっていうのは、凄いことですね。
さっきのマスターの説明に通じる部分だよね。
喩えて言えば「その人の舌の向きだけで、味が変わる」っていう部分じゃないのかな。
うん、その人の意識によって変わるんだろうね。
アイラ島の蒸留所の個性が、この一杯にいろんな形で顔を出してくるようですね。
唯一、ブナハーブンだけは感じないですけれど。
そう言えば、アードベッグらしい「饐えた」感じもありますね。
このHPを読んだ人は、飲んではいけないね。
すくなくとも、「アイラ」では飲んで欲しくないね。 僕らが飲むから。
あ、このポートエレンの部分は、全部カットしちゃおうか?(笑)
前の2本はシングルカスクでしたが、このUDレアは、ヴァッテッドモルトなんですよ。
だから、様々な表情がこんな形にまとまってくるのでしょうね。
バーボンカスクのものや、シェリーカスクのものを混ぜるような可能性もありますし。
でも、原酒の蒸留所は全てポートエレンで、蒸留年は1978年のヴィンテージと言うことですね。
そういうことです。
なるほどぉ。(感心)
加水してみませう。
そうしませう。
後の残りが、チョコレートのビター感ですね。
こういうチョコレートっぽい後味は、僕はあまり知らない。
経験したこと無いと思うなあ。
苦さと甘さが残っていて、苦さが勝ってはいるんだけれど、甘さもちゃんと残っている。
チョコレート味のソフトクリームとか、どう?
わかる、わかる。
ところで、Iさん、バレンタインのチョコは本命に贈ったの?
言わぬが花かも知れませんね。御想像にお任せします。
ホワイトディは大歓迎。(笑)
ああ、だんだん、カブトムシのエサの味になってきたぞ。
ゼリーとかシロップみたいなやつね。(笑)
加水すると確かに派手さは出てくるけれど、チョコレートっぽさはじんわり残る。
一体化して、ひとつの溶けて行くような印象もありますね。
そうだね、ストレートの時に、いろんな表情であったのが、加水したらひとつの世界にまとまってくるね。
でも、加水しないで、多彩な表情のある方が、僕は好きかな。
ああ、貴方に会えて良かった。(溜息)
これは喩えていうと、「大人になった魔女っ子メグちゃんのライバルの女の子」。
名前は忘れちゃったけど。(笑)
今日は、アニメキャラで行くんですか。
結構リスキーだね。
最初の印象、時間が経ってからの印象、加水後の印象、後の余韻。
どの表情も、確かに全部ポートエレンなんだけれど、「一本でアイラモルトを感じられるボトル」って言って良いかもしれませんね。
そうですね。
そもそも、ポートエレンの個性・味って何なんだろう?
飲むたびに、ボトルによって受ける印象が違うんだけれど。
僕のイメージは、節度のある病院臭と華やかさ、軽さですかね。
ポートエレンは、本当にバラ付きが大きくて、難しいんですよね。
良いときには、本当に「The アイラモルト」なんですけれど、出来の悪いのに当たると、ひたすらアルコール臭かったりね。
ああ、幸せ。同性の友人には紹介したくない、とっておきのカレですね。
3本を総括してみて、いかがですか。
本当に、すべて素晴らしいですね。
グレンカダムは、まさに「ハイランドのスコッチ」という感じですね。
年配のスコッチファンは、これに少し加水して飲むのが一番というのではないかと思いますね。
僕の好みでは、タムドゥーが良いな。
ポートエレンは、おいしいけれどウィスキーではないみたいだ。
グレンカダムは、僕にはまだよくわからない。はっきりした印象が無い。
ああ、本当に素晴らしい3本ですね。
瞬間的に飲みたい、そして満足させてくれる、すばらしいお酒がポートエレン。
長く付き合いたいのが、タムドゥーかしら。
この包容力・温かさがとても気になりますね。
そして、最後に行き着くところがグレンカダムなのではないかしら。
僕としては、グレンカダムを愛せるようなカッコ良いおじさんになりたいなって思うね。
そういう意味では、過小評価されてるのかなと思いますね。
タムドゥーはおいしいのだけれど、このレベルの出来のスペイサイド・モルトは、他にもあると思いますね。
そういう意味では、希少性・個性・完成度を評価して、ポートエレンに星5つですね。
今日は、何に喩えようかな。
スコッチウイスキーに喩えれば良いんじゃないですか。
そういうことであれば、グレンカダムは、「ハイランドの神髄」、タムデューは、「スペイサイドの本質」、ポートエレンは、「アイラの結晶」なんて言うところでしょうか。
ちょっと、きれいすぎない?