テイスティング・ルーム第5回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1988年マッカラン12年(アデルフィ)
- 1980年モートラック19年(アデルフィ)
- 1972年アードベッグ28年(キングスバリー)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。
おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。
以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。
仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。
?代の男性。
1988年マッカラン12年(アデルフィ)
今日は、ポピュラーな蒸留所の、ちょっと興味深い3本をセレクトしてみました。
まず最初は、アデルフィのマッカランから行きましょう。
先日、アデルフィの新しいボトルが14種類入ってきたのですが、その中で最も気になる1本が今回セレクトしたものです。
マッカランの12年、ヴィンテージは1988年、シェリー樽仕上げですね。
アルコール度数は57.5度とやや高めです。
(マスター、ウィスキーを注ぎながら、説明を続ける)
アデルフィと言えば、4年ほど前にリリースされた
16年物のアードベッグが非常に
良い出来であったことから、
近年、独立瓶詰め業者としての人気・地位を確立していますね。
最近、相当数のボトルを出してきていて、かなりマイナーなものまで、ラインアップするようになっているようです。
(各自、注がれたウィスキーを眺めながら、ノージングを始める)
色は、赤っぽくて、シェリー樽の色がしっかりと出ていますね。
最初は、ちょっと溶剤っぽいかも知れませんね。
消毒液のような香り、でもフルーティーな印象もありますね。
シェリー香の甘い印象もありますよ。
あっ、だんだんフルーティーさが増してきましたね。うん、甘~あい。
甘くて、深みのある香り。香りの印象を、色に喩えると「こげ茶色」のイメージだね。
セメダインの匂いの他には、これと言って際立ったものは感じられない。
強いて言えば、「麦茶」の香りかな。
深入り麦茶、焙煎麦茶の感じだよね。
やっぱり焦げた感じしますか。
(テースティングに移って)
味わいは派手な印象。
華やかで、膨らみのある味。でも、度数が高い分だけ、口の中でワァっとくる感じがする。
ドライフルーツ。
わかる、わかる。あと干し葡萄の味もある。
あとが甘いですね。
だんだん甘みが増してきている。
でも、ベタベタした不快な甘みではないね。
やっぱりドライフルーツの印象は、ありますね。
「端っこが炭化したバナナチップ」
後味の甘みの中に、ビター感もありますね。
飲み終わった後の口残りはチョコレートの印象ですね。
うん、上顎に薄いチョコレートが貼り付いたみたいな(笑)。
舌の痺れ感にも、ビターっぽいところがあるようにも思います。
辛い。…、強い。…、うまい。
でも、あっさりしていますよね。
オイリーなところもないしね。とっても面白いね。
うん、面白いね。
マッカランって、こんな感じだったっけ?。
ちょっと違うよね。
オフィシャルのマッカランほどには、マッカランらしさが出ていないかも知れませんね。
オフィシャルのコテコテした味わいを、すっきり爽やかにしたような感じがします。
加水してみましょうか。
甘い。丸くなってきた。
穏やかさが増してきた。旨みも出てきたけれど、ちょっと渋味も感じるようになってきた。
オフィシャルで出ている10年物の57度とは随分印象が違うようには思われませんか?
オフィシャル10年の方は、あまりフルーティーさを感じなかったような気がしますが。
そうですね、フルシェリーで、ビニールっぽい質感が前面に出ていて。
こちらの方は、軽やかで、スッキリしていますからね。
これは、「自己顕示欲の無くなった扇千景」だね。(笑)
今日は、政治家で行きますか。タイムリーで、いいね。
1980年モートラック19年(アデルフィ)
次の1本も、アデルフィからの気になるボトルです。
モートラックの19年ですね。
モートラックと言えば、ダフタウンの古典的蒸留所として有名ですね。
これも、色は、随分と赤くて、期待が持てそうですね。
きれいにビーズ(泡粒)も立ちますね。悪くない。
土っぽい。草とか、植物とかの香りかしら。
確かにワラみたいな香りがする。
でも、葡萄っぽい印象もあるよ。
(ノージングからテースティングに移っていく)
これは濃いなあ。
すっごおい。
アルコール度数が60度近いからねえ。
強いけれど、嫌な強さじゃないよ。
引きが早い感じがしますね。
確かに先ほどのマッカランの方が後味は長いですね。
最初の香りの印象と、度数の高さの割には、舌に乗せてからスウーっと消えていってしまう感じ。
舌に乗せるまでは、ボディも余韻もしっかり有りそうなんだけれど、
実際に味わってみて、気持ちよく裏切られたような。
舌に残る、かすかな甘みは心地よいですね。
この最後の甘みは、「ツユクサの露」だね。
たしかに、やさしい甘さですね。
ウフフフ。
加水してみようか。
モートラックの若いものはゴム臭さを感じることがありますが、これには無いですね。
一番最初の溶剤っぽいところだけですね。
後味は長くなってくるような感じがする。
する、する、する。
余韻の残り方や、舌への刺激は、加水した方が強くなってくる。
不思議だね、これは。
そうですね。
やさしい華やかさが無くなって、個性的な印象が前に出てくる。
加水した方が、お酒としての楽しめる部分が増えてくるような感じだね。
モートラックは、本来40度前後で楽しむことが多いモルトですからね。
ブランデーっぽくなってくるようにも思う。今日のは、ちょっと難しいなあ。
マッカランは、何を飲んでもマッカランという共通した部分がありますが、
モートラックは、物によって、全然違うんじゃないかと思うことがありますからね。
モートラックの蒸留器は、3セットあるんですが、それぞれに形が違うんです。
形の異なる蒸留器で作られたスピリッツがすべて同じタンクに入れられていくということで、3つの異なるスピリッツが交じり合うことも、物によって個性が異なってくる理由と言えますね。
色は赤っぽいんですが、味わってみて、シェリー樽仕上げとはちょっと違うように思いますが。
赤い色はシェリー樽の特徴なんですが、どうも違うようですね。
バーボン樽の味わいに近いように感じられます。
噛めば噛むほど味のでるモルトですね。
おいしいかどうかの判断とはちょっと違うんだけれど。
これは「権力志向の無くなった菅直人」。(笑)
うまいねえ、なんか昨日から考えてきてたんじゃないの。
1972年アードベッグ28年(キングスバリー)
決まったところで、今日の三本目に行きましょうか。
アードベッグの、1972年蒸留、28年です。
樽詰めはキングスバリーですね。
キングスバリーは、3ヶ月ほど前に、「ケルティック・ラベル」シリーズでアードベッグの73年と74年を出してきているのですが、
それからちょいと遅れて、このアードベッグ72年だけを「ハンドライティング・ラベル」という特別扱いする形で出してきています。
「ハンドライティング」で出てきたのは、これ1本だけですか。
そう、まさに特別扱いの1本です。ちょっと気になるでしょう?
気になる、気になる。
前評判では、今回出されたキングスバリーのアードベッグ3本のなかでは、
この72年が最も穏やかだと聞いていますが、いかかでしょうか。
(色を見ながら、ノージングを始める)
色はしっかり出ていますね。
う~わァ。(溜息)
驚嘆してますな。
まさにアードベッグだ。THE ARDBEG。
香りはアッドベッグの個性そのものだね。
ウフフ。(微笑)、
なんか、あの、とっても良いアードベッグ。
確かに非常に良い出来のアードベッグだね。
28年のナチュラルで、49度くらいですから、落ち着いていますね。
落ち着いている感じが素晴らしいですね。
この香り、すごぉい感動。
スモーキーさが、少し饐えた感じになっていますね。
うん、アードベッグの酸っぱいような個性ね。
(テースティングに移って)
味の方も、饐えた感じがあるかな。
口の中に入れた最初は、ビニールっぽい溶剤の感じもあるね。
でも甘くて、しっかり麦の味が出ているよ。
飲み終わった後味はとても印象的。
すごぉ~い、スモーキーな余韻。そして、すご~く広がっていく。
度数がそれほど高くないから、これほどの広がりになるのかしら。
でも、ちょっと表現が悪いけれど、水っぽい感じもするね。
確かに香りの強烈な印象ほどに、舌の方の印象は強くないかも知れない。
焦げ臭さと苦さの間に、うすい甘い砂糖水が挟まれている感じ。
薄い砂糖水ね、なるほど。(嘆息)
うん、サンドイッチみたいに挟まれている。
真ん中の層が、水っぽくて、甘くて、とても軽い印象。
その印象は口に入れた時にしか判らなくて、
口の中にあった軽い液体の層が消えてしまうと、
後はただひたすらスモーキーな厚さの二層だけが上と下から張り付いてくるような感じだね。
うん、うん。(感心しきり)
でも、余韻に残る、このヨードっぽさ、ピート感、饐えた感じはアードベッグだよね。
逆に言うと、舌のうえに乗っかっているときの甘い砂糖水のちょっと不思議な感覚の方が、
このボトル独自の個性のように思うね。
とても興味深いのだけれど、評価するとなるとちょっと難しいな。
最初の香り、三層の微妙なバランスと、後に残るアードベッグらしい余韻。
飲んだ最初は、派手でいてスッキリした感じなんだけれど、後味はコクがあって。
うん確かに面白いですね。
後味に厚みとコクがあって。
舌の上に、三層が成り立っている間は、まったく感じないんだけれどね。
液体自体が口の中にある時は、軽くて薄いですよね。
うん、そうそう。
うん、うん(確かめながら)。
でも、この余韻、飲み終わった後、ずーっと口の中にありますよ。
これ、好きな人もいるけど、逆にこの余韻がイヤだって言う人もいるかもしれないな。
これを、心地よいっていうか感じをもつか、心地よくないって思うかで評価は分かれるだろうね。
余韻があるのがダメだって人、いますからね。
あと、スパって切れる方が好きだという人もいるんですよ。
加水すると、三層の感覚が無くなって、後味ばっかり残るね。
甘い砂糖水の心地よさが、薄まってしまうね。
49度ですから、あえて加水する必要はないんでしょうね。
いずれにしても、古風なアードベッグという印象は強くありますね。
今風に言えば、やぼったい感じ。
でも、この「やぼったさ」がアードベッグの個性でしょうから。
これはね、「思い出の中の田中角栄」。
ウワッハ、ハッ、ハハハ(爆笑)
セピア色かかってますか。
田中真紀子さんの思い出でしょうかね。(笑)
吉田茂が飲んでいても似合いそうな感じだね。
そこまで歴史を遡っちゃいますか。(笑)
そろそろ総括にいきましょうか。Iさんは、どれが気に入ったの?
私は、二本目のモートラック。
私も、個人的な好みから言うとこのモートラックですね。
お二方、御趣味が合いますね。(笑)
三本目のアードベッグは、まさにアードベッグですし。
モートラックの方には、個性の多彩さとか、デリケートさとかがあって。
今までに経験したことのない絶妙な感覚、
感動を与えてくれたという意味ではアードベッグを評価したいですね。
三層の真ん中に砂糖水を感じて、後で長い余韻が残って。
う~ん。
気楽に飲むんだったらマッカランですかね。
うん、僕もそう思いますね。
Tさんは、いかがですか?
好き嫌いではなくて、味わいの興味深さでは、モートラックかな。
アードベッグは、最後にちょっと焦げ過ぎる感じがあって。
モルトの持っている良い個性が一番出ているのがモートラックだと思いますね。
アードベッグの方は、アイラモルトで28年も長熟させる必要があるかという感じはしますね。
ここまで長熟させるとアイラモルトが本来持っているパワーが無くなってしまうのではないかと。
アードベッグについて言えば、最初の香りは、大麦と饐えたスモーキーさだったんだけど、舌に乗せると、三層の甘い砂糖水と焦げ臭さ・苦さのバランスが心地よくなってきて、最後の、上下二層の長い余韻に伝わっていくという変化の方を評価したいですね。
どんな時に飲みたいですか。
モートラックは、三本のなかで一番好きなのだけれど、自分から注文するのではなくて、
好きな人に奨められて飲んで、幸せって感じかしら。
でも、ここにきて自分がオーダーするのは、多分マッカランだと思うんです。
アイラ好きのIさんが珍しくスペイサイドを選択したね。
アードベッグは、すごくおいしかったんですけど、自分には、ちょっと縁がないような味に思うんです。
僕は、やっぱりアードベッグを選ぶと思いますね。
Kさんは比較的、長い余韻が続くものが好きでしょうからね。
そこに、それぞれの強烈な個性があっても苦にはしない感じですもんね。
さすがプロ、よく見てらっしゃいますね。(笑)
このモートラックも悪くはないんだけれど、自分自身の持っている、これまでのモートラックの印象で持っている、葡萄っぽい感じとか、芳醇とか、馥郁とか言った部分を楽しみたいんですよね。
確かに、このモートラックはボディの厚さはないですね。
加水することで得られる、舌の上の味わいや触感の変化は面白いんだけれど。
まあそれだけって感じで。
そういう訳で、僕にとっての一番がアードベッグ、二番目がマッカラン、三番目がモートラックですかね。
Tさんはいかがですか。
マッカランは、ちょっとおいしいモルトが飲みたいなっていう時に。
モートラックは、ちょっと贅沢に飲みたいなっていう時に。
アードベッグは、お金が一杯余っているときに。
思い出の田中角栄ですか、ピーナッツなんぞをつまみに。(笑)
一杯だけ飲んだ時の満足感で言えばアードベッグじゃないですか。
モートラックは、2~3杯飲んで幸せっていう感じですよね。
マッカランは、いつでも飲める。
モートラックは、たまには飲みたい。
アードベッグは、一度飲めばいい、とか。
あっ、これはオフレコにしとかなきゃいけないかな。(笑)
「アードベッグは、一度は飲んでおかなければならない」に訂正しましょう。(笑)