テイスティング・ルーム第2回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1988年カリラ カルヴァドスフィニッシュ(ゴードン・マクファイル)
- 1990年ボウモア10年(ミルロイ)
- 1995年アイル・オブ・アラン5年NSシャリー・ウッドF(オフィシャル)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1988年カリラ カルヴァドスフィニッシュ(ゴードン・マクファイル)
今日の三本は、いずれもちょっと個性の強いものということで選んでみました。
最初は、このカリラから始めてみましょうか。
ゴードン・マクファイル(以下GM社)のプライベート・コレクションのうちの1本です。
これは、1988年蒸留の全く同じ時のカリラを、3種の異なるフランスの酒樽でフィニッシングしたものです。
ひとつが、今日のカルヴァドスで、残りがボルドーワインと、コニャックになっています。
カルヴァドスのものは、今までに他社もほとんど出していないという点でも珍しいと思いますし、
GM社がカリラを選んだという点でも興味深いと思います。
ウッド・フィニッシュを多数手がけているグレンモーレンジは、モルト自体が柔らかいんですけど、
カリラそのものが、アイラモルトの強い個性を持っていますから、この1本が果たして、どんな風に仕上がっているかをテイスティングしてみてください。
(一同、ノージングを始める)
ちょっと回しているだけで、すごく立ち上ってくるよ。
林檎の香り。
うん、まさしくカルヴァドス、ノルマンディーの香りやね。
30cm以上離れていても感じられる香気。隣の席にいる人まで包んでしまう感じだよ。
鼻を近づけるとスモーキーだね。カリラの個性かな。
(テースティングに移って)
うまあ~い!
(椅子からずり落ちそうになりながら)
最初からそれじゃ、駄目ですよ。
ところで、カルヴァドスって、どんなお酒なんですか。
フランスの林檎のブランデーだよ。
補足すると、フランスの三大ブランデーっていうと、葡萄を使ったコニャックとアルマニャック、
そしてノルマンディー地方で林檎から作られるカルヴァドスと言われていますね。
最初に来るカルヴァドスの林檎の香り・酸味・甘さから、違和感なくカリラの個性に繋がる感じがする。
最初に来る口当たりがすごく爽やかですね。でも後から、カリラの辛さ・スパイシーさが追いかけてくる。
今まで、カルヴァドス仕上げが無かったと言うのは、やはり難しかったと思うんですよね。
ポートやシェリーは、濃厚さと甘さが強いので、モルトとの相性が良いと言えるんですが、
カルヴァドスは、サラリとしていて、酸味が前に出てきますから。
異なる2つの個性が絶妙にマッチングして、1つの素晴らしい世界が出来上がってしまうというのはうれしい驚きですね。
これは、また飲みたくなる1本だね。
爽快なのに、後味をしっかり楽しめる、しかも嫌味が無い。
ちょっと加水してみましょう。
スパイシーさが増してきたぞ。尖ってくる、口の中に胡椒をまぶした感じ。
ピリピリ来る、変わるって来るね表情が。
Tさん、何かに喩えてみてよ。
う~ん、岩下志麻なんて、どうかな。
ストレートで飲むと、清楚に笑っている感じ。加水すると、修羅場で凄んでいる感じ。
面白い。
ウッド・フィニッシュ物はどちらかと言うと高いイメージですが、GM社と言うこともあって、
値段的にこなれているところも魅力ですね。
残りの2種、ボルドー仕上げ、コニャック仕上げもありますが、次の機会にして、2本目に行きましょうか。
1990年ボウモア10年(ミルロイ)
ミルロイのボトリングしてきた、若いボウモアですね。
最近のボウモアの特徴としてキャンディっぽいフレーバーがあると思うんですが、
ちょっと違う個性が出ていると思うので、その辺りを、テースティングしてみてください。
(ノージングしながら)
これは、アルコール臭なのかな、ピート臭なのかな。
最初は、あまり香りが立ってこないぞ。
どちらかというとピートの香りかしら。
これ、本当にボウモアですか?
初めてだわ、こんなボウモア。
アイラっぽい感じの強く出ている香り、男性的な印象。
(一同、テースティングに移る)
ピートの固まりを口の中に突っ込まれた感じ。
する、する。強烈なピートの印象。
奥に甘さも感じる。ハニーヘザーのような。
10年で50度という割には、ギンギンしたというか、ピリピリしたところがない。
Tさんは「ピートの固まり」という表現をされたけれど、僕は、ピートの清涼感を強く感じますね。
ピートの個性でいうと、ボウモアは草の香りが強いですからね。
余談ですが、1本目のカリラについて言えば、石炭とかコークスとかに喩えられますね。
ちょっと加水してみましょう。
口のなかで弾ける感じ、ピチピチとか、パチパチッとか。
ヒリヒリ感に近いのかな、焼ける感じ。
うん、本当だ。すごいね、これは。ドラゴンクエストの「焼けつく息」だね。
最近のボウモアとしてはやはり変わり種だと思いますね。
でも、アイラモルト好きには堪らないんじゃないかな。
うん、わかるね。その感じ。
1995年アイル・オブ・アラン5年NSシャリー・ウッドF(オフィシャル)
では、3本目のアイル・オブ・アランに行ってみましょうか。
5年物のシェリー仕上げですが、自信作なのでしょうか。限定版399本という貴重品です。
鳴り物入りですね。
すごい色だわ、この濃さ。
色の深さは、ブランデーみたいだね。
フレッシュな良い樽を使ってるんだろうな。
(ノージングしながら)
強烈なシェリーの香り、それでいてエレガント。
木の香りもしっかり出ている。
度数は、ナチュラルで57.8度ですね。
(テースティングに移って)
口当たりが、とても上品。
これ、すごい。
禁句だけれど、すごくおいしい。
(一同げらげら笑う)
味は、スウィート。
肝油ドロップとか、チョコレート。
とても強烈な個性。
この派手さは、アラン・モルトの個性というよりは、仕上げの樽の強さから来ているんだろうな。
きらびやかで、華麗な衣装をまとって出てきた舞台女優みたいな感じ。
「マイ・フェアレディ」のオードリー・ヘップバーン。
うん、うん。わかる。
紅白の小林幸子。
そこまではイッちゃっていないでしょう。
「キャバレー」のライザ・ミネリ。
あー、近いかも知れないね。
加水してみましょうか。
シェリー樽の個性が強まった気がする。
シェリー樽が作られ、熟成された歴史とか、自然環境が目に浮かぶみたいな。
加水の変化は、香りよりも、口当たりの方にあると思う。
口のなかに沁み込んで来るような、より大胆さが増すような。
いや、香りの方も、ヨード臭とか、ピート感が出てきている。
言われてみれば、確かにヨードだわ。
アラン・モルトをテースティングした時に、ジム・マーレーがピートを感じると言ったら、隣にいたマイケル・ジャクソンが驚いて「おまえは、これにピートを感じるのか?」と言った。
マイケル・ジャクソンは「自分自身はピートを感じないが、ピートを感じるのはすごいことだ」と言って、ジム・マレーの舌に敬服した。
アランのモルトは、ノン・ピートなんだけれど、仕込水がピートウォーターを使っているんです。
「アイル・オブ・ジュラ」と同じですね。
なるほど。
加水すると、ボディの方は、泥臭くなってくる。
少しずつキャラメルの印象が出てくる。
ザラついた感じとでもいうのかな。加水しない方が僕は好きだな。
全体としての、出来の方はどうですか。
とても5年物とは思えない。熟成12年から15年はある印象ですね。
ジム・マーレーの評価でも、「とても5年物とは思えない。誰でも黙って飲めば、
10年以上のスペイサイドを感じる」となっていますね。
(感心して)へ~っ。
最後に、今日テイスティング3本を並べての印象は、どうですか。
加水して、はっきりと変わる個性が印象深かったのは、カリラですね。
「一粒で、二度おいしい」みたいな。
なつかしいね。アーモンドグリコ。
私にとって最も満足感のあるのは、ボウモアですね。
今まで飲んできたボウモアよりも、ずっと素晴らしい。意外性がある。
僕は、ストレートで飲む、アランかな。
燃え盛る暖炉の前で、彼女とゴージャスな時間を過ごすみたいな時に。
季節で言うなら、重厚さのあるアランが冬ですかね。
夏に飲むなら、軽くて、爽やかなカリラでしょうね。
ボウモアは、春と秋かしら。アイラ島の風を感じるわ。
それなら、スコットランドでは、1日に全部飲まなきゃ。
うまいね。マスターに座布団一枚。
まとまったところで、今日のテイスティングルームはここまでにしましょうか。
じゃ、みんなで、カリラのコニャック仕上げとボルドー仕上げを飲んでみましょう。
わ~い。(笑)