テイスティング・ルーム第18回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1979年ポートエレン22年(シグナトリー)
- カリラ カスクストレングス(オフィシャル)
- 1976年アードベッグ25年(オフィシャル)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。
仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今回は、お久しぶりのテイスティング・ルーム通常版になりました。
いやあ、「本当に、どうも、お久しぶり」です。
そして、マスターは「お帰りなさい」ですよね。
えっ、どちらかに行っていらっしゃったんですか?
また、恒例のスコットランド詣でに、1ヶ月ほど。
そういうわけで、今日テイスティングするモルトは、現地で入手した掘り出し物です。
スコットランドお土産特集、ってことですね。
わーい。
1979年ポートエレン22年(シグナトリー)
最初の1本は、シグナトリー・ヴィンテージが新しくボトリングしたポートエレンの22年です。
蒸留年はいつですか?
1979年ですね。
これは、アイラ島に向かう途中に立ち寄った 「ロッホ・ファイン・ウィスキー」という 店のオーナーが薦めてくれたものですね。
「一押しはこれ」と言って、飲ませてくれて 自分なりに納得して購入してきました。
特にフレーバーがすばらしくて、 良いんじゃないかなと思いまして。
ところが日本に帰ってきて、 ウイスキー・マガジンの最新号を見ていたら、 「New Release」欄のテイスティング・ コメントでは酷評されていました。
どんな感じのコメントだったんですか?
やせている、薄いといった感じですかね。
まあ、43度に加水調整されているので、 薄いといえば薄いのですが。
香りの特徴は、なかなかだと思うんですが。
みなさんの印象は、いかがですか?
(と言いつつグラスに注ぐ)
まあ、嗜好の違いによって、評価が分かれることはよくありますからね。
色は、確かに薄いですね。飴色を水で薄めたような。
サラサラした感じの液体ですね。
ラベルの記載によれば、リフィールのシェリー・バットなのですが。
それにしては、本当に薄い色ですね。
良い匂い。
フレッシュジュースのように、フルーティー。
高級な梅酒のように、上品なフルーティーさ。
紀州の生産者の方が、丹精こめて育てた南高梅を一粒一粒手摘みして、 一樽一樽丁寧に漬け込みました、っていう感じの。(笑)
梅酒ねえ、う~ん、なるほど。
これは、香りだけでしばらく楽しめるねえ。
また「香りだけで5分」かな。
ちょっと大げさだけど、そんな感じだね。
うん、確かに。
甘い。
味自体は、結構、甘露な印象。
甘い。
でも強烈な感じではなく、穏やかな強さ。
果物の汁みたい。
絞りたての果汁を舐めているような。すごいおいしい。
甘さ自体も、穏やかで上品だと思いますね。
なんで酷評されてたんでしょうかね。
たしか味わいが薄くて、平板だといったようなことだったと思いましたが・・・。
口に入れると、ピーティーで複雑さもあるように思いますが。
でもね、しっかりとした存在感とか、ウイスキーらしさを求めたら、 ちょっと点数の評価は低くなるかも知れない。
熟成が22年とかなり長めなので、そういった部分への期待感からすると、 ちょっと違う部分はあるかも知れませんがね。
なるほど。
ただ、色合いの薄さからすれば、しっかりとした香りと味はあると思いますが。
うん、うん。
これは食前酒向けだな。
どちらかと言うとあっさりしたタイプ。
こういうような、スッとした切れあがりというのも悪くないな。
アルコール43度だったら、加水しないほうが良いんですよね。
ただねえ、ウイスキー・マガジンのコメントによれば、加水するとピーティーさが 戻ってくるとありました。
げ、それじゃ加水してみなくちゃ。
本当ですか。勿体無い。
加水すると、スパイシーさとアルコール感が強まってくる。
Iさん、これ、飲んでみる?
あ、本当だ。
ピリピリしてきた感じ。
加水したら、逆に度数が高くなってきた感じがする。
香り、味ともに刺激が強まってきた。
アイラっぽくなってきましたか。
ちょっと硬さが出てきたような感じもある。
加水しない時には、頼りなげな印象もあるけど、 加水するとそれが無くなって強さが出てくる。
幼いモルトと大人のモルト。でも、私は幼い方が好きです。
加水しても、余韻は残らないですね。
加水しても、シェリー・バットの味わいとかは出てきませんね。
「リフィール」というところがミソですね。
シェリーの種類は何か、何度目の樽なのかがわからない。
これは気楽に飲める感じの味わいだから良いですね。
ただ、ポートエレンですから、そこそこ高いんですよ。
やっぱりねえ。
カリラ カスクストレングス(オフィシャル)
次のモルトに行きましょうか。
これは、今年のアイラ・フェスティバルで発表された カリラのオフィシャル・ボトルのカスク・ストレングスですね。
今回、発売となったカリラは、12年、18年、 そしてこのカスク・ストレングスの3種類でありまして、 現在はアイラ島限定発売で、 一般販売はされていません。
(※現在イギリス内で発売) 年数表示がありませんので、 ある程度の量をヴァッテッドしたものだと思われます。
アルコール度数は、カリラにしては 意外な感じがする55度です。
オフィシャルだからということで、 遠慮したのではないかと思います。
加水はしない。
だからカスク・ストレングスということでしょうね。
そうですね。
オフィシャルで出してきておりますので、 カリラ蒸留所に1つだけある熟成庫の中の樽を 選んできたものだと思います。
どういうことですか。
カリラに限らず、ほとんどの蒸留所で蒸留された モルトの大半は、タンクローリーで親会社であるUDVの 集中熟成庫に搬出されていくわけです。
その集中熟成庫には行かず、カリラ蒸留所の熟成庫に残された 樽のなかから、今回のオフィシャルが 瓶詰めされたのではないかと思うのです。
なるほど。
カリラで生まれ、カリラで育ったカスクストレングス。
いかがでしょうか?。
サラリとした液体の印象。色はカリラ特有の薄い色。
液体表面のビーズもきれいに残りますね。
煙~い。
うん、こりゃ、けむい。
鼻にくる。
おがくず、シンナー。
個性的な力強い香り。
まもなく一般販売されるとは思いますが、味の方はいかがですか?
あんまぁ~い。
黒蜜。後味もすごい甘い。
強い甘さ。
口に入れたときには、黒蜜の甘さなんだけれど、 後味になると人口甘味料みたいになってくる。
カリラにしては、ピーティーさが強くないですね。
ピーティーさの印象は、後味の方に炭っぽい感じとしてありますね。
二口目からようやく炭の感じがわかってくる。
飲み込んで鼻に抜けた時に、炭の香りがしてくる。
ちょっと、渋さを感じる。
後味がずうっとしょっぱい感じ。
これは、アイラ・モルトが苦手な人にも薦められそうですね。
オフィシャル・ボトルとしての中庸を守っているような印象です。
外側の輪郭はカリラになっていますが、ボトラー物にあるような、 強烈で飛び跳ねるような個性はありません。
それでも、味わいは複雑。
黒砂糖、お砂糖のなかに木炭と塩が混じりこんでいるような。
自分だったら続けて2杯は飲まないと思う。
確かに気楽に飲むようなモルトではないよね。
さっきのポートエレンが食前酒だとしたら、 こちらのカリラは、明らかに食後酒ですよね。
加水してみますか。
そうしましょう。
加水してみたら、しょっぱいばかり。
口に入れたら、しょっぱさが残りますね。
ううん、塩がどんどん前に出てきて、 先ほどの強い甘さはどこに行ってしまったんだろうっていう感じだね。
塩もそうだけれど、渋みも甘さも、それぞれに強まってきたように感じる。
スパイシー感も出てきた。
僕は、甘さだけが後退して、他の個性が前に出てきているように感じられます。
ピリピリして、唇の感覚が麻痺してきました。
そこがカリラの良い所ですよ(笑)。
余韻は随分と長いですね。
さっきのポートエレンとは正反対ですね。
一本買ったら、しばらくは楽しめるだろうね。
うん、わかります。
食後酒としては、どんな料理に合うだろうね。
脂っこいもの。
肉料理とか。
食後酒としてではないですが、剥きたての生牡蠣に掛けたいですね。
うん、2、3滴たらしてね。よだれがでてきそう。
とっても、おしゃれですね。
1976年アードベッグ25年(オフィシャル)
それでは、最後の1本に行きましょう。
注目のモルトです。
いよいよ大トリ、真打ちの登場ですね。
アイラ・フェスティバルで限定発売されたアードベッグ。
1976年蒸留の熟成25年です。
シェリー・バットで一樽のみの限定ボトル。
カスクNo.2390です。
アルコール度数は53.1度で、 このボトルは蒸留所でしか買うことできません。
シェリー樽の25年熟成なので、 いわゆるアードベッグの個性というよりは、 シェリー寄りだと思いますね。
よくあるシェリー・長めの個性ですね。
アードベッグのマネージャーズ・チョイスは、 いつも76年蒸留のシェリー・バット、 シングル・カスクなんです。
それで、今回蒸留所を訪ねた際に、 マネージャーのスチュアート氏に 「あなたはシェリー・バットの長熟が好きなのですか。
」 と聞いてみた。
って聞いみたら?
「いや、そんなことはない。
バーボンバレルの若いのが最高だ」って。
「それはおかしい。
あなたの選ぶのはいつも76年の シェリー・バットばかりじゃないか」って言うと、 「いや、それはそれで」って、笑ってた(笑)。
濃い色だなあ。
赤いですね。
ビーズの立ち方も綺麗だ。
・・・強烈な香り。
除光液、シンナー。
本当だ。
強烈な香りはシェリー特有の刺激臭。
その背後に貯蔵庫の麹、カビのような香ばしさ。
アードベッグ蒸留所自体には、もう古い樽はあまり残っていないみたいですね。
今後は、90年以降に蒸留されたものが主流になるみたいですよ。
養命酒のような、濃い香り。
甘い。ウッフッフッ。
しっかりとした甘い香り。
とんがったところが全然ない。
さすが。
このアードベッグ、口に含んだときフルーティーですね。
甘くて、上品なフルーツ。
スモーキーさや煙っぽさは、ほとんど感じない。
後味にほんの少しピート感が残る。
ちなみに、既にYahooのオークションで売りに出ていまして、4万円以上だそうです。
へー。
渋みも出てきた。
タンニンの味。
例の、樽特有の個性ね。
わたし、シェリー熟成はあまり得意ではないですけど、これは大丈夫です。
あまり甘くなくて。
そうですね、酸味、フルーツっぽさが前に出ていて。
スッキリとした酸味、サワー感ね。
ゴムっぽさもほとんど感じなくて。
香りには少しゴムっぽさもありますが、味わいの方には感じないですね。
かすかに錆のような味が、赤錆の。
タンニンの渋みが、ちょっと錆びっぽいかな。
加水すると溶剤っぽさが消えていく。
そうですか。
でも、わたし、加水はちょっと…。
うん、華やかな印象が強まってきた。
すいぶんと派手になってきた。
味の変化のスパンが短くなって、すぐに渋みに変わってしまう。
私は、最後まで加水しないでおきます。(きっぱり)
それにしても、完成度が高くて、素晴らしいモルトですね。
スコットランドに行って、熟成庫で樽から直接抜き出して飲むと、 これがたまらんのですよ。
うう、行ってみたい。
飲んでみたい。
現地に行かなくちゃって思いますね。
一番最初に飲んだポートエレンは、ますますジュースのようになってきました。
なんて素敵なお酒だろう。
でも、別の飲み物としてだね(笑)。
なんかリンゴジュースのようで。すっごぉ~い。
子供に飲ましてもよかったりして。
ダーメ、ダァメ(笑)。
二番目のカリラは、今飲むとミルクっぽくなってきた。
濃厚なスキムミルクのような印象が出てきている。
本当だ。
すごい、これ感動かも。
そろそろ総括しましょうか。Iさん、いかがでしたか。
え~っと、意外にも一番良かったのはポートエレン。
その次がアードベッグで、そして最後がカリラでございました。
ポートエレンは身体にスッと馴染んでくるのです。
とても身近な感じで、お友達になれそうな印象です。
アードベッグは、初めて出会ったおいしいシェリー熟成のモルト。
とても意外な驚きでした。
カリラは、アルコール度数の高さ・強さが魅力的でした。
そうですね。
私としても3本とも、パワーのあるモルトでしたね。
香りの強さ、アルコール感とか、 そしてそれぞれに甘さが味わいの基調となっていて。
ただ、飲んでみると個性は微妙に異なっていて、 ポートエレンは華やかだけど、フルーティで、穏やかな存在感のある甘さ。
カリラは、強いアルコール感と濃厚な甘さ。
初めは、糖蜜のような甘さ。
後になってミルク・クリームのような甘さ。
アードベッグは、シェリー特有の特徴が強く前面に出てきても、 その個性・味わいは多様な点が興味深い。
しかも背後には、いつものアードベッグの個性、 スチュアート・トムソンがきっと好きであろう バーボンカスクの若い特徴なども感じられて。
それぞれが掘り出し物、限定品ということを知らないで評価したとしても、 4つ星から5つ星の間にランクされるのではないかと思います。
個人的な趣味で順番を付けると、 カリラとアードベッグが肩を並べて甲乙付け難い。
そして、ちょっと遅れてポートエレンですね。
Tさんは、いかがでしたか。
どれも甘かったけど、いやな甘さでは無くて、おいしい甘さだった。
3本の順位は付けられないです。
どれも個性的で良かった。
それぞれの印象をまとめると、 ポートエレンは、「俺は蝶々じゃないっ!」、 カリラは、「俺はカブトムシじゃないっ!」 アードベッグはちょっと苦しいけれど 「俺は、炭鉱に住んでる飴好きの子供じゃないっ!!」
ソサエテイ・ボトルの「煙突掃除人のバスルーム」みたいなもんですね。
まあ、それに近いもんですかね。
それにしても、素晴らしいモルトでした。
お土産ありがとうございました。
また、来年もよろしくお願いします(笑)。