テイスティング・ルーム第19回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1966年グレンリベットRaw Cask(ブラックアダー)
- 余市シェリー&スウィート(オフィシャル)
- ラフロイグ12年(ハート・ブラザーズ)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。
仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1966年グレンリベットRaw Cask(ブラックアダー)
今日の最初の1本は、ブラックアダーが新しく出してきたグレンリヴェットです。
1966年の蒸留で、熟成期間は35年ですね。
これは、ブラックアダーの、 ロウ・カスクシリーズの新しいボトリングです。
ロウ・カスクシリーズと言えば、昨年の11月に、 ブラックアダー社のオーナーであるロビン・トゥチェック氏に、 テイスティングセミナーに来ていただいて、 その魅力を語っていただきました。
あの時には、昨年秋の最初のボトリングを 一通り試飲していただきましたが、 今年4月になって、その第二弾が新たにボトリングされました。
その中の1本です。
今回は、何種類くらい入ってきているんですか?
6種類から8種類くらいだと思いますが、 その中で、今日のグレンリヴェットは、 特に注目すべきものだと思います。
このグレンリヴェットの何が凄いかと言うと、 35年も熟成されているにも関わらず、 アルコール度数が64.2度と極めて高いところですね。
スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティの、ちょっと前のスペシャル・ボトリングに、 グレンリヴェットの1966年蒸留で、65%くらいのアルコール度数のものがあって、 大変に出来が良かったので、このブラックアダーのグレンリヴェットも 期待できるのではないかなと思っているのですが。
皆さんの、ご感想を聞かせてください。
まあ、この色からして、シェリーだろうとは思うんですが。
確かに赤みがかって、濃い良い色ですね。
私、64.2度なんて高い度数のお酒を飲むの、初めてじゃないかと思うんです。
カスクの種類は、ラベルに表示されていますか。
ええっと、「シングル・シェリー・カスクNo.3898」と書いてありますね。
シェリー・バットか、ホッグスヘッドかの表示はありませんが、 ただ114本しかとれなかったということですから、ホッグスヘッドですね。
と言うことは、フレッシュ・シェリーではなくて、リ・フィールということですね。
そういうことになりますね。
ああ、すごい香り。何でこんなに。
ああ、すごい香りだ。
液体自体はサラッとした印象だけれど、香りはハッキリとして華やかで濃い印象。
品の良いオーデコロンの香り。
(しばし、沈黙)
Iさん、何でニコニコしてるんですか。
ウフフ。
最初にアルコールとゴムの混じった香り。
ちょっと後になって、花、フローラルの香水の香り。
ちょっとね、ゴム風船の香り。
ほんとだ。
でも、シェリー樽の個性、特徴と、麦汁の香りが交じり合って、うまくバランスしている感じ。
時間が経ってくると、ドンドン表情が変わってきそう。
ドンドン良くなってくるようだね。 角が取れてきて。
ああ、シェリーだ。
あまくさ。
あまくさって?
甘くて、臭い(笑)。
確かに、甘さが強いね。
あとは苦さ。
プワーってくる、この甘さと香り。
甘みと苦みが並んでますね。
口の中に最後に残る香気が心地よいですね。
芳しいというか。
ああ、ほんとに。
不快じゃないけれど、とても派手ですね。
確かに華やかですね。
それでも、ボディ感はあまりなくて。
軽やかで、そしてフルーティ。
でも、不思議に余韻は苦くて長いんだよね。
確かに、後味はビターですね。
口に入れた瞬間は甘いんだけれど、後に残るのは苦み。
シェリー樽はちょっと苦手なんですけれど、これはとっても美味しいです。
冒頭にお話したソサエティのスペシャルボトルは素晴らしかったんですが、 値段がちょっと高かったんですよね。
こちらの方は、それなりにリーズナブルなので、お勧めだと思うんですよね。
昨年に、限定版の小さめの瓶で出ていたグレンリヴェットですよね。
あれは、熟成香と染み込んでくる感じ、長めの余韻が素晴らしかったです。
うまいわ。
自分としては、最初の甘さの印象よりも、 加水したくない。
加水したくないに、もう一票(笑)。
加水すると、甘い匂い。
バニラ、キャラメル。
ちょっと軽くなった分だけ、グイグイと飲んでしまいそう。
あっ、加水したらダメだ。
すっごく水を足してしまいました。
ちょっと、あのイヤな感じの個性が出てきたような…。
加水すると、甘さが強まって、トロミが出てくる。
舌の周りがピリピリしてくる感じがする。
香水を口に入れた感じが強まってきました。
基本的にはフローラルの香水なんだよね。
加水したほうが、アルコール感が強くなってような感じがする。
そういうことって、ありますよね。
時間を掛けて、そのままでゆっくりと飲むのにいいのかもしれませんね。
かなり変わってきた。
この味わいと香りは、デザート向きなんじゃないかな。
いや、この軽さは、食前酒にいいんじゃないかな。
でも、この一杯が、一食分よりも高くついたりして(笑)。
そうかもしれない。
余市シェリー&スウィート(オフィシャル)
それでは、次のモルトに行きましょうか。
ニッカが出してきた余市のシングル・カスクです。
新しく出た「シェリー&スウィート」 というシリーズの1本ですね。
ニッカは、余市のシングル・カスク10年を、 自社のサイトでネット販売しています。
そして、昨年の「ウイスキー・マガジン」において、 世界中の著名な評論家・プロ達によるブラインド・ テイスティングで、モルト部門でのハイスコアを 獲得したのが、この余市10年であったわけですね。
でもその後で、慌ててネット販売で買った人が、 そのロットの樽を入手できた訳ではなかった。
ええ。
ロットは販売終了次第、別の樽に変わっていきますので。
まあ、似ている個性のものを選んでいるとは思いますが。
その後で、ニッカは余市シングル・カスクの15年と20年を発売し、 20年の方は好評のうちに完売となりました。
そして?
そうして、今回、ニッカが出してくるのが3種類の個性を持った、 余市のシングル・カスクです。
6月に出たのが、今日テイスティングする「シェリー&スウィート」。
7月には、「ピーティー&ソルト」。
8月には「バーボン」と毎月続くわけです。
今回の「シェリー&スウィート」も、シングル・カスクですから、 今後は販売次第で、ロットが変わっていくことになると思います。
アサヒショップのサイト上には「400本限定」と表示あり)
サントリーがネット販売していたのは、限定でしたね。
そうですね。
サントリーの方は、一樽だけの限定ボトリングでしたので、 本数限定の早い者勝ちになります。
今日の、この「シェリー&スウィート」は、熟成年数は11年くらいでしたかね。
えっと、蒸留が89年のボトリングが2001年ですから、12年ですかね。
アルコール度数は55.1度になってます。
ニッカの余市10年は、全てスモークボトルに入れられているので、 外観では色が判りにくいのですが、シェリーの色は出ていますか?
随分と濃い色が出ていますね。
赤い色。
ビーズも綺麗に出ている。
まだ飲んでいないけど、この香りはIさんにはダメかもしれない。
まさにフルシェリーですね。
やっぱり、だめ?
ええ、ちょっと。…。
いかにも、シェリー。
ゴムっぽい、タンニン香。
エグみと甘さ。
香りからして、黒砂糖っぽい甘さですね。
土にまみれた果物みたいな。
味わってみましょうか。
焦げ焦げ砂糖、いただきます。
う~ん、いいねえ。
ああ、こりゃあ。
ウフフ。
良い樽、選んでるね。
シェリーのエグみが適度に抑えられていて、 シェリーの個性はそのままあって、とても美味しい。
最初に、口に入れた瞬間にはエグみがグワって来るんだけれど、 すぐに引いてしまって、後にはチョコレート、香ばしい味わいが残る。
最初にきたアタックはすぐになくなる。
後に嫌らしさは残らない。
スッとした印象、カカオの味わい。
言い古された言葉だけれど、「まったりとして、それでいてしつこくなく」(笑)。
それでも、「スウィート」というほどの甘さはないですね。
甘いけれど、すっきりして嫌らしさの残らない甘さですね。
甘さと苦さのバランスの取れたチョコレートだね。
チョコレートもわかるけど、「生姜糖の黒いやつ」 たぶんマスターしかわかんないけど(笑)。
最初驚いて、拍子抜け。
でも、後になって良かったって。
最初の香りがダメなんですよね、Iさんは。
これは心地いんだけれど、不思議な印象ですね。
口の中で、味わいが微妙に変化していって。
普通、シェリーの濃いものは、最初にグワって来たのが 最後まで引っ張っていってしまうんですけれどね。
あるいは、最初ただ黒砂糖っぽくて、甘いだけだったのが、 後半になって、エグみとかがグワって盛り上がってくるか、でしょ?
そうそう。
でも、これは、そのどちらでもない。
コクがあって美味しいなあ。
なんで、12年なのに、こんなに美味いのって思うね。
本当にそうですね。
余市シングル・カスクも10年と思えないほど良く出来ていましたが、 これもしっかりとした素晴らしい出来ですね。
これは加水したくない。
そう言えばTさんも、濃いシェリーは得意じゃなかったんでしたよね。
うん。
ちょっとだけ入れちゃえ。
どうですか?(心配そうに)
ちょっとだけなら、大きく変わらない。
酸味が出てくるというか、刺激が強くなった感じ。
舌の上をチクチクするみたいな。
でも、やっぱり加水しない方がいいかも。
思ったほどには変わらないね。
甘さも出てきた。
変化はちょっとスローになるように感じられる。
本当にうまい。
僕も、ネットで買うことにしよっと。
このテイスティング・ルームがアイラのサイトにUPされる前に(笑)。
ラフロイグ12年(ハート・ブラザーズ)
それでは、最後の1本に行きましょうか。
ハート・ブラザーズのラフロイグです。
ナチュラル・カスク12年なんですが、 アルコール度数が意外に下がっていて 52.5度しかないのがちょっと気になります。
日本国内には、それほどたくさん入ってきてはいないようです。
(グラスに注ぐ)
色は、薄いですね。
まあ、バーボン樽でしょうね。
特に表記はありませんが。
すごい香り。
ああ、もうピートの香りが。
とても強いですね。
お医者さんだね。
立ち上がるね、病院の消毒。
「いやだ、ぼく注射やだよ」って感じだね(笑)。
列に並んでるうちから、ベソかき出した子供みたいにね。
ああ、でもいいわ。
この香り、とても好きです。
ちょっと時間がたったらスッキリしてよくなってきた。
でも、その後ろに甘い香りがある。
お医者さんが、なだめにかかってきた。
最初の香りは、石炭のピーティーさだったけれど、 グラスに入れたら、海草っぽい感じに変わってきましたね。
ああ、確かに。
ヨードの香り、磯の感じですね。
甘い、苦い、臭い、しょっぱい。
あまにがくさしょ?(笑)
ラフロイグらしいね。
しょっぱいね、甘しょっぱい。
口に入れた最初の石炭っぽさ、あっと言う間になくなっちゃった。
うん。
不~思~議ぃ~(笑)。
不~思~議ぃ~(笑)。
口に入れた最初はピーティーさを感じたのに、 飲み出したらほとんど感じなくなっちゃった。
口に入れたら麻痺しちゃうんじゃないかな。
なるほど。
甘くて、しょっぱくて、後に苦さ。
後半はスーっと切れていって、余韻としては残らない。
舌が麻痺して残っていく感じの苦さじゃないよね。
バーボン樽のアイラ・モルトが好きで、 切れあがりが早いのが良い人にはぴったりですね。
最初の香りと最初の味わいは個性的。
その後は、スっとした印象。
度数が下がっている分だけ、口当たりが良いですよね。
嫌な刺激はほとんど無いですね。
加水します?
ああ、残念。
ちょっと締まりがなくなっちゃた。
甘くて、やさしくなっちゃった。
あの病院は、どこに行っちゃったの?って感じだね。
アルコール度数がそれほど高くないですから、加水しない方がいいかもしれませんね。
甘くて、しょっぱくて、海草の味。
後になって、魚の内臓の味。
わかる、あの生臭い感じの苦味ね。
海草の味わいって言うのは、魚の内臓と紙一重のところがありますよね。
そうですね。
それでは、そろそろ総括に行きましょうか? まずはIさんからどうぞ。
私は、最初に飲んだグレンリヴェットが一番好きです。
どういうところが気に入りましたか?
華やかでございました。
シェリーの苦手な私にもおいしくいただけました。
たしか、前回のアードベッグでも、そんなコメントしてなかったっけ?
言ってたかも。
シェリーに目覚め始めたんじゃないの?
そう言えばそうかも。
グレンリヴェットは、とても度数の高いところも、気に入りました。
余市のシェリーについては、どうですか?
もうお目に掛かれないかも知れません。
やっぱりちょっと苦手な部分がありました。
濃くて、甘ったるいところです。
ラフロイグはどうですか?
最初の印象、病院の香りと味がとても良かったです。
ボウモアの潮っぽい感じに通じる部分がありましたね。
Tさんは、どんな感想ですか。
Iさんとよく似た感じなんだけれどね。
グレンリベットは、華やかで、すっきりとしていて、美味しいですね。
印象で言うと、頭の上に鳥の羽を付けた貴婦人ですかね。
いまどき、そんな奴いねーよっ、みたいな。(笑)
香水の香りだけれど、とても上品だよね。
娼婦とは正反対の。
そうそう。
余市は、想像とは全然違っていて、シェリーの個性を残しながらも 美味しいなと感じさせてくれる。
ただ、一回飲んでしまうと、しばらく飲まなくてもいいかなという印象ですね。
とても濃い甘さですからね。
ラフロイグは、ラフロイグ独特の個性が、程よくバランスという感じですね。
じゃ、Kさんの感想を聞かせてください。
ラフロイグについては、最初の香りと味わいまでは素晴らしいと思うんだけれど、 パワーと余韻の部分になると、良い子になっちゃうところが残念です。
後半になって、おとなしくなっちゃうんですよね。
Iさんの憧れのラフロイグ13年と比較してしまうと、 残念ながら辛い評点になってしまうと思いますね。
余市については、まずしっかりとした存在感を評価したい。
スウィートとビターが程よくバランスしていて、チョコレート飲料のような味わいと、 シェリー樽独特の個性が両立されている。
グレンリヴェットはいかがでしたか?
グレンリヴェットは、上品な香水の香りと、時間が経つにつれて変わって行く 味わいの個性と、ビターな余韻を評価したいですね。
グレンリヴェットは、アルコール度数が高いので、口に入れれば心地良いんだけれど、 ノージングするときには刺激が強い感じがするんですよね。
目がチカチカするんですよね。
二杯めに、どれでも好きなの飲んでもいいよって言われたら、どれを選びますか?
私は、グレンリヴェットですね。
僕も、グレンリヴェットですね。
僕は、余市です。
(匂いを嗅ぎつつ)やっぱりラフロイグは、生臭いですね。
グレンリヴェットは甘い!。
甘いんだけれど、独特のビニールっぽさがありますね。
余市は、ひたすら甘い。
でも、硫黄臭さが強くありますよ。
それは確かにある。
余市が一番硫黄の香りが強いと思います。
そうかも。
グレンリヴェットは、ビニールというよりも、水鉄砲の匂いがしませんか。
どんな感じの?
子供のときに遊んだやつ。
水鉄砲というよりは、ビニールプール。
膨らませて、水遊びするやつ。
うんうん、わかる。
グレンリヴェットは、香りの個性が多彩で、深みがあって良いですね。
水鉄砲。
ビニールプール。
なんだか夏向きのものばかりだね。
季節感のあるモルトだったということで(笑)。