テイスティング・ルーム第37回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1979年タリスカー21年(SMSディスティラリーコレクション)
- サウンド・オブ・アイラ カリラ13年(JIS)
- ポートエレン21年(ダグラス・レイン)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
それでは、皆さんお揃いになられましたので、始めることにしましょうか。
初めに、突然なのですが、今日は残念なお知らせをしなければなりません。
3年と数ヶ月にわたって続いてきた、このテイスティング・ルームは、 今回で最終回とさせていただきたいと思います。
え、本当ですか?
実は、今回Kさんが名古屋にご栄転されました。
またIさんも、とある事情から、練馬から少し離れたところに引越しされて、 ちょっと当店には来づらくなっています。
そういうことで、こうして月に1度、平日の遅い時刻に集まって「ああでもない、 こうでもない」と語り合うことができなくなったということです。
わかっていたけど、残念ね。
本当に申し訳ありません。
いろいろとお世話になりました。
テイスティング・ルームは、もうやらないのでしょうか?
また違った形で、テイスティングに関するコーナーを設けるかも知れませんが、 現在の形は、いったん終わりにしようということです。
本当に、残念ね。
3年と数ヶ月、ながきにわたり、お付き合いくださいまして、 本当にありがとうございました。
こちらこそ。
お世話になりました。
残念。
Kさんのプライベート・ボトリング(Malt House ISLAYのハウス・ボトリング)「Decenial Artemis of Scotland」
で、今日最初にテイスティングいただくモルトは、Kさんのプライベート・ボトリングで。
そして、Malt House ISLAYのハウス・ボトリングでもある1本です。
昨年4月から、当店で開催している「テイスティング・ラリー2003」は、 すでに皆さん、ご存知のことと思います。
ええ、残念ながら参加はしてませんが。
ひとりホワイエ。
ひとりモルトウイスキー大全ね(笑)。
はい。
現在入手可能な119蒸留所の、123種のモルト・ウイスキーをアルファベット順に、 3種ずつテイスティングしていく企画です。
Kさんは、4月のスタートからこのラリーに参加して、毎回出されるモルトを全て、 1ショットの半分、約15mlをガラス瓶に入れていって、全部ヴァッティングしたものを 最終的に10本の170ml瓶に封入しました。
それが、この…。
「Decenial Artemis of Scotland」です。
すいません。
スコットランドはわかりますが、前の方の…、えっと…。
Decenial Artemisのことですね。
はい。
Decenialというのは、「10の」という意味です。
ボトリングが10本限定なので。
Artemisというのは、ギリシャ神話に出てくる月の女神ですね。
月(moon)=月(month)で、12ヶ月を連想してもらって、 それが10個集まって全部で約120になるという 暗喩の意味付けもあります。
ところで、Kさんは、ボトリングされた10本をどうされたんですか。
9本は、マスターを含め、お世話になった方々に記念に差し上げました。
で、残った1本がここにある自分の物です。
実は、内容量170mlのほとんどは、ある催しで参加された方々に テイスティングして いただきましたので、今日は、SさんとIさんに テイスティングしていただく分しかありません。
マスターには、当店で最終ボトリングした時に試飲していただきましたので、 今日のところは勘弁してください。
ええ、かまいませんよ。
個人的には、123種を機械的にあわせただけだし、半分くらいは スタンダードのモルトですから、香り・味わいは、それなりじゃないかなと 思ってたんです。
ところが、先日試飲した時には、予想以上に良い出来だったんで、 ちょっと驚いたんです。
僕も、まあダメダメだろうと思っていたんです。
ただ、これがちょっと意外で。
これは、誰かに、何が入っているかを言わないで、ブラインドテストしてもらったら、 面白い結果になると思うよ。
わぁ、本当に。
難しいでしょうね。
全部の個性が123分の1ですから。
ただし開封後には長時間経過すると、その辺りの良さの部分が 保証しきれなくなるかもしれません。
度数の方もあまり高くないので。
そうですね。
さて、お二人のコメントは、どのようになりますか。
うわ、とってもいい香り。
華やかなのに、すごく上品ですね。
色は、薄めですね。
そうですね。
飴色と琥珀の中間くらい。
薄い琥珀でしょうか。
アルコール度数は何度?
アルコール度数計がないので、各ボトルの度数から求めた理論値になりますが 約44度です。
香りの方はフルーティね。
りんごと、グレープフルーツのワタ。
あとクローブもあるかな。
悪いもの、弱いものの個性が隠されていて、強くて、好ましい部分が 表に出ているように思いましたね。
そうかも知れないね。
香りの変化が、とても好きです。
ヴァッテッドの良い所が出た感じで。
ただ、これはブレンダーの力量というよりは、 ボトルを選定したマスターの眼力によるところが大きいんです。
ちょっと褒めすぎですよ。
こそばゆくなって来ちゃう(笑)。
あと、キャラメル香も感じるね。
原酒それぞれの個性は出ていますけど、 それほど樽香、樽の癖は強くないんですよね。
勿体ないけど、こりゃ飲むっきゃないわ。
(テイスティングに移って)
うっまい。
すっごく美味しい。
どんな感じ?。
表現が難しいんですけど、いろんな表情があるように感じます。
マリッジの期間はどのくらい?
全てのモルトが合わさってから約2ヶ月です。
ただ、4月からABC順に少しずつマリッジされていってますので。
そうすると最初のマリッジからは?。
約10ヶ月です。
ですから、123種のモルトのレシピはありますが、 レシピのとおりにバッティングしても、同じものになる保証はありません。
あくまでも、この10本限りの味ということで。
味わいは、甘い柑橘系だね。
レモンキャンデーとか、オレンジキャンデー。
あとフィニッシュには、クローブっぽいピート。
ボトリングした時には、パイナップルとか、 ドライフルーツとかの甘さがありましたけど。
今日は出ていませんか?
ああ、甘いドライフルーツ、あります。
ちょっとだけ、ゴム系。
ほんとうにちょっとだけ。
探したら感じる程度。
マッカランも123分の1だけ入ってます(笑)。
うん、美味しいね。
意外に、意外ですよね。
いやあ、目から鱗です。
後味に葡萄の種。
全体を通して、フルーティーな甘さですよね。
クローブっぽいピートはあるけれど、ピリピリするようなスパイシーさもないし。
マスカットとかの白葡萄を口に入れて、最初に果汁が口いっぱいに広がって、 それから皮の味がして、最後に皮と種の味が残ったっていう感じですね。
ああ、なるほどね。
あと、味わいの旨みが結構ある。
少し塩っぽいところも感じる。
本当に美味しいです。
ただ、微妙で、複雑なんで、今日のテイスティングのなかでは、 一番最初にしてもらったんです。
強烈なものの後では、ほとんど隠れてしまいそうなんで。
確かにそうね。
かなり微妙だから。
本当に上品ですね。
塩っぽさの個性があるんだけど、アイラ・モルトは、どのくらい入ってるの?
8蒸留所全部入ってますから、123分の8ですね。
ブナハーブンを引いて、タリスカーとプルトニーを足して、ええっと…。
8%くらいは塩っぽいモルトが入っているわけね。
そういうことですね。
あと全体の割合では、スペイサイドが多くなるんですけど、 ヘザーハニーの個性はそれほど出ていない。
スタンダードの、大人しいものが多かったこともあると思いますね。
それほどヘビーな感じもないし。
香りには蜂蜜も出ているよ。
最初の頃には出ていなかったけど。
今嗅いでみると確かに出てきていますね。
開封して、どのくらい経つの?
開封後、10日ですね。
グラスに入れて時間がたつと、ちょっとピートの苦味がでてくる。
置いておくと、バランスが変化して、ちょっと失調した感じもあるんで。
私は、あまり癖には感じませんけど。
酔っぱらわない程度に、できるだけ早くお召し上がりください。
一気飲みのモルト、まあ170mlだけれど(笑)。
そんな、勿体ないですよ、これは。
1979年タリスカー21年(SMSディスティラリーコレクション)
それでは、私の用意してきた3本のテイスティングに移りましょうか。
今日2本めは、ストックから持ってきた ちょっと前のタリスカーです。
1979年蒸留・2000年ボトリングの21年熟成ですね。
スコッチモルト販売が、ディスティラリーズ・ コレクションとして出してきた初期の頃の物ですね。
熟成年数の割に度数は意外に高くて、58度です。
タリスカーっていう記載は、 ボトラーの貼ったラベルには無いんですね。
ディスティラリーズ・コレクションという名前なのに(笑)。
ラベルの蒸留所の絵は、タリスカー蒸留所みたいだね。
そうですね。
壁の色の色調を変えていますけど。
建物の形は、タリスカーに間違いないと思います。
へえ。
それで、ここを見てください。
インポーターの貼った裏ラベルの方には、 カタカナで「タリスカー」って書いてある(爆笑)。
まあこれは、インポーターのインフォメーションに沿って、 手書きしておいたんですけど。
これ、開封してありますね。
ええ、テイスティング・ルームの為に、先日店の方に持ってきていたんですが、 わがままなお客さんが飲ませろと言って、開けちゃったんです。
えっ?(と言いつつ、Kに視線を向ける)。
それは、また…(いぶかしげな表情で、Kをみる)。
違う、違う、僕じゃないよ。
誤解だよ。
ええ、今回はKさんではありません。
それで、このタリスカーは、開封後1週間になります。
楽しみですね。
どんな味わいになってますか?
色は、思ったよりも薄いですね。
熟成年数の割には、薄い色ですね。
トップの香りは葡萄の種。
それから、ピート、そしてスモーク。
ピート由来の胡椒の香り。
白?黒?どっち?
白胡椒のように感じますね。
21年と長熟の割には、ピートが立ってますね。
ちょっとお酢のような香りもします。
お酢ねえ・・・ちょっと待ってよ、う~ん。
スモーキーさの中にあると言えばあるかな。
酢酸っぽいところ。
とんがっているけど良い香りですね。
鉛筆の削りカス。
干し葡萄の燻製。
ああ、なるほど。
香りの印象は、総じて言えばpepperyですね。
味の方はいかがですか?。
甘~い。
最初の印象は、軽くて甘い。
そお?わしは、酢をけっこう感じる。
最初の一瞬は甘いんですけど、すぐにお酢が出てくる感じです。
僕は、お酢の印象は、まだほとんど感じられません。
古樽材。
それから、味の方もペッパー。
まさにタリスカーの味。
ああ、そうですね。
タリスカーの塩胡椒。
タリスカーらしさですね。
最初、トロっとしている。
そうですね。
僕も最初にトロっとした甘さを感じました。
それから、タリスカー独特のペッパーが出てくる。
3年前に飲んだときには、今日と同じような印象ですか?
当時の印象は、今日よりも立っていて、 鋭角的な印象があったように思いますね。
3年経って、ちょっと角が取れてきているような。
3年前に、荒さがあったということではないんですけど。
なるほど。
3年経っても、これは十分にすばらしいね。
そうですね。
味の方にも、鉛筆の削りカスが出てきた。
なるほどね。
僕は、頭に感じるトロっとした甘さの印象が好きですね。
途中から出てくるタリスカーらしさも良いし。
そうですね。
ちょっと時間が経つと、乳酸の香りが出てきました。
乳酸の香り(本当は酪酸だけど)、だね(笑)。
ああ、本当だ。
古樽の品質に何か問題ありかな?
熟成年数の割に、薄い色だということは、何度も使っている樽だろうと 推測できるかも知れないですね。
フレッシュな白ワインの樽かも知れないけど(笑)。
3年前の一番最初の印象は、出来の良いタリスカーだというのがあったので、 大量に買い込んだんですけどね。
うん。
わかります。
後半に出てくるタリスカーらしさと、さらにその後から出てくる古樽材、 酪酸ぽさとの綱引きだったら、胡椒っぽいタリスカーの方に 軍配が上がると思うけどね。
そうですね。
嫌な感じは全然ありません。
それは、ピートがあるからだろうと思う。
ピートがあると、バランスが取れてくる。
変な言い方になるけど、ピートがあると、嫌な味や変な味でも、逆に美味しくなる。
ただ、ピートを取ってしまうと、もう駄目。
Iさん、今日はどうしたの?
下を向いて、ノートをつけてるけど。
私、最近気づいたんです。
このままじゃ、いけないって。
それでこの間から、自分のテイスティング・ノートをつけ始めたんです。
付けなくても、私のテイスティング・ノートは、Malt House ISLAYのHPに 全てありますよって、言えば良いんじゃないの?
まあ、そうなんですけど。
でも、気づいたから、始めたんです。
アイラの3年前に気付いていたら、もっと良かったのにね。
しかも、テイスティング・ルームは本日が最終回。
寂しいですけど、これから頑張って、私の財産を増やしていきます。
がんばって。
また、テイスティング・ノート見せてね。
はい(微笑)。
このタリスカー、美味しかったんで加水せずに終わってしまいました。
このタリスカーは、たくさん買い込んだんですけど、 当店では2000年の夏から秋にかけて、2本くらいしか出していないんです。
それは、どうして?
この後に、タリスカーの25年が出てきたんです。
オフィシャルの25年ですね。
ええ、それで。
自然に移行してしまったんですね。
残り香は、ピートが飛んでしまって、干し葡萄にヨーグルトかけたような感じ。
乳酸については、2000年当時はまったく感じていなかったんですけど。
3年前には、僕も感じてないと思いますね。
Sさんの「古樽=乳酸」説以来、よく気になるようになりましたからね。
言葉が、概念となって、感性を規定したりリードしたりすることって、ありますよね。
葡萄の種とか、グレープフルーツのワタとか。
確かにそうね。赤ちゃんのGeとか、馬糞とか(笑)。
感性は、言葉でしか表現できないし。
言葉は、恐ろしいもんだ。
サウンド・オブ・アイラ カリラ13年(JIS)
それでは、本日3本目に行きましょう。
シェリー好きのIさんにうってつけのニュー・リリースです。
サウンド・オブ・アイラのカリラ13年のシェリー・カスクです。
蒸留・瓶詰の時期はわかりますか?
記載はありませんが、 90年蒸留の2003年ボトリングだろうと思われます。
確か、このサウンド・オブ・アイラって第二弾ですよね。
そうですね、はい。
ところで、Sさん、サウンドというのは海峡の意味だそうですが、 よく使われるんですか?。
ええ、よく使いますね。
なぜ海峡のことをsoundというのかは知りませんが。
それは、島と島の間。
はい、そうです。
それで、サウンド・オブ・アイラというのは、 「アイラ海峡」という意味ですから、 ゲール語の「カリラ」Caol Ilaと同じ意味になるということですね。
ああ、なるほど。
サウンドを音と訳しても、「アイラの音」だから、どことなく詩的で良いですね。
もしかしたら、ダブル・ミーニングかも。
ああ、確かに。
サウンドで思い出したけど、スコットランドで「サウンド・オブ・ウイスキー」という CDが発売されていて、ゲール語で蒸留所の名前を発音しているんだけど、 Caol Ilaは、「クーイラ」と聞こえた。
へえ、クイーラね。
ラベルには、シェリー・カスクとしか記載がないんですけど、 インポーターからのインフォメーションによれば、 ペドロヒメネスであるとのことです。
ええ、本当に?
すごいですね。
ペドロヒメネスで熟成したクーイラの音を聞いてみてください。
色は、琥珀ですかね。
赤みも出ている。
トップの香りはピーティーですね。
ああ、凄い香りですね。
すごいカオリラ(笑)
駄洒落を言うアメリカ人。
わしに座布団3枚。
さらにボケる(笑)。
わお、香りに顔中包まれているみたいで。
アルコール度数は?
それが、あまり高くないんですよ。
54度です。
香りは、酢と焦がしたゴム。
華やかで、焦がした干し葡萄、枝つきの。
あとは、ゴムっぽい香り。
本当にペドロヒメネスなんでしょうかね。
色もそれほど濃くないし。
確かに、色の濃さは、それほどでもないですね。
すいませ~ん、ペドロヒメネスをくださ~い。
今、切らしてまして。
終わったら、銀座のSに行きましょうか。
良いですね。
自由が丘のSの方が近いかな。
どっちも近くないです。
黒胡椒っぽい香り。
そうですね。
トップのアルコールっぽい香りが消え去ってからは、 かなり甘い感じがしますね。
Weo!
うわっ。
いやあ、こりゃ。
口に入れたら、…。
うへっ。
バンザーイ。
どうして、バンザイなの?
これ好き?
はい。
苦くて、こりゃ、ちょっと。
苦あまとシェリーが。
私は、この癖が良いんです。
口に含んだときに、この個性が舌の周りを一重巻くような感じがあって。
それが、また私的には好きだったりして。
硫黄と、苦い皮。
旨みはあるけれど。
腐ったお酢みたいな感じもある。
甘さは黒砂糖っぽいね。
脂肪酸のようなしっかりしたボディはあるけれど。
全体的には、行き過ぎたゴムっぽさが気になる。
これが、ペドロヒメネスの個性とは・・・。
ペドロヒメネスの樽に、硫黄消毒して、あまりきれいに洗浄せずに、 しばらく野晒しにして、酢酸風味を付けて。
まあまあ、ここに若干一名、評価されている方もいますので。
はい。
インポーターは、ジャパン・インポート・システムでしたよね。
ええ、そうです。
ボトラーが、あまり聞いたことの無いところで、えっと、マイトランドですね。
そうですね。
前のサウンド・オブ・アイラの時に、初めて見たように思います。
最近、この手の聞きなれないボトラーから、スペックのハッキリしない カスク・ストレングスのモルトが出てきています。
業界内の噂では、日本人コレクターで現地に樽を相当数所有している T氏のコレクションの一部が、独立系ボトラーKの傘下の会社経由で、 日本に入ってきているらしいと。
第一弾の方が、バランスが取れていたので、個人的には好きですね。
こっちも個性的ではあるとは思いますが。
よく言えばね。
最近、リリースされる10年から15年熟成のシェリー樽熟成は、 オフィシャルでもボトラーズでも、ゴム系か硫黄系の、強い癖があるように思うね。
そういえば、ゴム多いですね。
私は好きなんですけどね。
ノーコメントかな。
・・・それじゃ、テイスティングになんないしね(苦笑)。
どういうところがいいの、Iさん。
極端に甘苦さがあって。
そして、後半も、しっかりとしていて。
時々、ゴムと硫黄が出てこない?。
出てますけど、シェリー好きだから許せるんです。
毒々しくて、エグミがあっても良いんです。
もっと、色が濃いと、もっとうれしいんですけど。
好き嫌いがハッキリと分かれることはよくわかりますね。
ただ個人的には、スコッチという領域のなかには括りきれないように思いますが。
そうですか。
美味しいですけど。
シェリーのしっかりした個性、たとえばゴムっぽい癖が一方にある。
それから、反対側に、旨みとどっしりしたボディが感じられる。
でも、その両方の個性をうまく繋いでくれるものがないので、 美味しいっていえないような印象がある。
それぞれの個性が強くて、分離しているような感じがありますね。
さっき、Sさんが言っていた、馬糞を美味いと感じさせるような ピートの役割をする何かが足りないんだと思うよ。
ああ、なるほど。
ただ、突出しているほうが良いという人もいますからね。
ちょっと前のものには、シェリー樽のカリラにも名作があるんだけどね。
G&Mのセンテナリーとか。
マスターの名言に「カリラに外れなし」というのがありましたが…。
たまには外れもある。
私は、きらいじゃないんですけど。
よっ、シェリー好き!。
ポートエレン21年(ダグラス・レイン)
それでは、気を取り直して、本日の4本目に行きましょう。
ダグラス・レインのトップ・ノッチ・コレクションから出ている ポートエレン21年ですね。
ヴィンテージの記載はありませんが、 おそらく2003年のボトリングですので、 蒸留は1982年だろうと思います。
そういえば、昨年リリースされたトップ・ノッチの ポートエレン20年にもヴィンテージの記載はありませんでしたね。
そうですか。
なるほど、メモメモ。
アルコール度数は?
カスク・ストレングスで58.9度になっています。
ちなみに、瓶詰本数は339本ですね。
樽の種類は?
今からお注ぎしますので、色を見ていただければわかるのですが、 シェリー樽熟成です。
しかも濃い。
シェリー党総裁のIさんのために特別にご用意しました(笑)。
うっわぁ、綺麗な赤。
本当に綺麗ですね。
貴婦人のような。
香りは、いかがですか?。
最初に感じるのは塩素系。
続いてくるのはシェリーリキュールの甘さ。
それから来るのはレザー(皮革)。
僕の最初の印象は、煙。
スモーキーさが通り過ぎると、消毒、フェノール臭。
その後から濃いレーズンの香り。
だんだん変わってきた。
レザーが前に出てきた。
あとピートから来る馬糞もある。
レザーもありますけど、かすかに黒胡椒とかも感じます。
なるほど、黒胡椒ね。
メモメモ。
先ほどのサウンド・オブ・アイラのようなシェリーのクセはありませんね。
21年前の最上級の樽を使っているから、大丈夫(笑)。
ああ、消しゴムの香りがする。
削りカスですか。
それとも、プラスチック消しゴム?
黄色い鉛筆の頭に付いている消しゴム。
ああ、なるほど。
時々ラムで感じることがありますね。
消しゴムの香り。
もお、我慢できませ~ん。
行きま~す。
(しばし、沈黙)
お、いっし~い。
味わいもラムっぽいですね。
確かにダークラムっぽい印象がありますね。
やばい、これおいしい。
さっきのカリラとどっちが好き?
どちらも嫌いじゃないんですけど。
でも、どっちが好きかと言われれば、こっちのトップ・ノッチ。
こっち、ノッチ(笑)。
反対だったら、どうしようかと思っていたけど、ほっとした(笑)。
最初は、軽いんだけれど、一口ごとにボディの厚みが出てきて、 旨みが、増して来るんですよね。
確かに、最初軽いですよね。
平たい感じがある。
最初の一口は、軽くスーっと入るんですよね。
で、重ねていくにつれて、ぐいぐいと引き込まれていく感じがある。
なるほど。
言われてみれば、確かに。
胡椒っぽいピート。
まず最初に、シェリーの甘さというよりは、ドライな印象がある。
それで、一口ごとに、旨さが重ねられていって、厚みが増してくる。
最初は、意外に薄っぺらだなと思いましたが、 だんだんボディが出てきますね。
これ、欲しいなって思いました。
晩酌用というよりは、自分にご褒美っていう位のお値段ですね。
誰か、プレゼントしてくれないかなぁ。
ところで、Sさんの馬糞ていうのは、何から来るんでしょうか?。
たぶんピートとシェリーが合わさったときに感じることが多いね。
土っぽい感じ。
土壁とかに通じるものがある。
Iさん、メモしておいた方がいいよ。
はい。馬糞=ピート+シェリー(笑)。
ゴムっぽさも感じるけれど、ピートが効いていて、十分に許せる範囲。
それに対して、こちらは許されざるもの(笑)。
そうですか。私は、嫌いじゃないんですけど。
ちょっとだけ加水してみますね。
いかがですか?。
加水した方が、立ってきて華やかになりますね。
切り立てですし、度数も高いですから、少し加水した方が良いかもしれませんね。
ちょっと硬いかもしれないですね。
これは、本当においしい。
素敵。
今日のは開封したてですけど、先日名古屋のAというバーで 開封後1週間くらいの物を飲んだときには、今日よりもピートを強く感じましたね。
スモーキーなヘビーピートの印象がハッキリとありました。
誰かプレゼントしてくれないかな。
って、2回も言っちゃうくらい、おいしい。
僕も、これまで飲んだポートエレンのベスト10くらいには入ると思いますね。
明日、明後日の状態が気になるね。
シェリー特有の硫黄が強くなったりするんじゃないかとかね。
うーん、この間飲んだ一週間めの物には、それほど硫黄は感じなかったですね。
硫黄ではなくて、ピートが強くなるってこと?。
そう感じましたね。
まあ、僕とSさんとでは、硫黄に対する感性にも違いがあるとは思いますが。
それにしても、本当に美味しいですね。
綺麗な色も好きですね。
良い出来ですね。
ところが、こっちのカリラの残り香は・・・。
焦がしたゴム、それからアーモンド。
マニラの郊外に、スラム街があるんですけど。
ほお。
そのスラム街は、ゴミがうず高く積まれていて。
はい。
そのゴミが腐敗して発生するガスが、ゴミの山のなかで自然発火して燻っている。
不完全燃焼していて。
その匂いがこれです。
なんでそんなこと知ってるの。
謎の日本人バーテンダー(笑)。
同じシェリー熟成だけど、一緒にしてほしくないね。
こっちのカリラと、このポートエレン。
まあまあ、サウンド・オブ・アイラがお好きな方も、こちらにいらっしゃいますので。
あのぉ、えっと・・・「嫌いじゃない」に訂正します(笑)。
Sさんが持ってきた1997年 ベリー・ヤング・アードベッグ 6年
さて、それでは、本日最後のボトルに行きましょう。
Sさんが持ってきてくださったアードベッグの6年です。
若いですね。
Sさんに代わって解説させていただきますが、 1996年にグレンモーレンジが アードベッグ蒸留所を アライド・グループから買収しました。
そして、グレンモーレンジとして 蒸留所の操業を開始したのが1997年。
その記念すべき年に、蒸留されたモルトを ボトリングしたものが、 このベリー・ヤング・アードベッグです。
1997年蒸留の、2003年ボトリングですね。
そうね。
よくオーナーが代わった場合に誤解することが多いことがある。
たとえばブルイックラディ蒸留所を、マーレイ・マクデヴィッドが買収して、 ラベルを一新して新しいものをリリースすると、 マーレイ・マクデヴィッドが作った物のように錯覚する人がいる。
「今度のブルイックラディは、マーレイ・マクデヴィッドになって、 新しいラベルになって、美味しくなったね」っていうけれど、 マーレイ・マクデヴィッドが製造したわけではない。
そこのところを勘違いしていることが多い。
実際は、前のオーナーのときに製造された樽からボトリングしたのが、 マーレイ・マクデヴィッドだということ。
そういうこと。
だから、本当は、買収後10年くらい待たないと、オーナーが代わったことの 意味は語れない。
蒸留所を買収すると、貯蔵庫にある樽もすべて、 新しいオーナーが引き継ぐわけですね。
それで、新しい原酒を製造しながら、引き継いだ樽から 新しい製品を販売していくことができる。
なるほど、メモメモ。
ベリー・ヤング・アードベッグとして、6年で出してきたのは、 ちょっと言い訳ぽいんだけれど。
アードベッグ蒸留所としては、コミッティという会員組織があって、 その会員限定で、グレンモーレンジが買収したことの意味を 議論してほしいという意味でリリースしている。
だから、ここのところに「For Discussion」と書いてあるわけですね。
そう、まさにその通り。
Exclusive Committee Reserveという表記もありますね。
メンバーがコミッティから直接購入するしかない。
しかも、一人2本までの限定ね。
アルコール度数は?
58.9度ですね。
日本の酒屋では絶対に買えない。
バーでも、まだ見ていない。
私も、コミッティのメンバーなんですけど、 まだ案内が来ていないんじゃないかな。
おかしいな。
わしのところには、去年の11月頃に来ましたけど。
どうして来ないんだろう。
ところで、昨年のウイスキーマガジン・ライヴでも、アードベッグのセミナーで 熟成6年のサンプルがテイスティングできたという話もありましたね。
本当におかしい。
じゃ、テイスティングしましょうか。
そうですね。
色は、薄いですね。
飴色から麦わら色。
レモンよりは濃い。
ああ、煙っぽい。
最初の一瞬に、熟したトロピカルフルーツの印象があるんだけど、 そのすぐ後に、スモーキーなピートがウワっと襲い掛かってくる感じ。
ちょっとだけ塩素。
グレンモーレンジ買収前後の裏話をすると、1990年にアライドが アードベッグ蒸留所を再開したときに、ピートの使用量を抑えていたらしい という情報があります。
その当時のアライドの判断としては、80年代以前のピートを効かせたアードベッグが、 マーケットに受け入れられず、操業停止に追い込まれたというものだった。
それで、ポートエレン・モルティングから調達するモルトのピートの使用量を減らしたと。
メモメモ(笑)。
グレンモーレンジが、アードベッグを買収したときに、 本来のアイラ最強のピートにしなければいけないと言って、 フィノ値を最高レベルにしたということですね。
フィノ値はどのくらいなんでしょうか?。
おそらく50ppm以上じゃないかと思います。
アライドの頃は、どのくらいですか?。
そうですね。
当時は、アライドグループのラフロイグ蒸留所から、アードベッグに製造要員を 派遣していましたので、ラフロイグと同じくらいのフィノ値だったとすれば、 35ppmくらいだったんじゃないかと思いますね。
なるほど。
そういえば、あまり乳酸ぽさも感じませんね。
良い指摘ですね。
個人的には、グレンモーレンジが買収してからは、使用している樽の品質も 向上しているだろうと思っています。
香りには白葡萄があるね。絞りたてのフレッシュジュース。
良い香りですね。
味わってみましょうか。
鉛筆の削りカス、ウッディ。
あと、鉛筆の芯。
クリーンな感じがあって。
するね、鉛筆の芯。
でも、正統派という感じの酒質。
十分にモルティで、ニュー・ポッティではなくて。
乳酸臭さも、カビくささもなくて。
Sさんの仰る通り、クリーンですね。
ウーガダールをここで飲んだ時に比べれば、 今日のベリー・ヤングのほうが高く評価できますね。
ただ、あれは順番が悪かったからね。
マスキングされてしまったから、正当に評価できたとは言いにくかった。
前に封空けされていたし、誰かさんに。
それは、味わいの評価とは関係ないんじゃないかな。
僕は、今でもシェリーとバーボンとのバランス、コストパフォーマンスの点では ウーガダールを高く評価していますよ。
まあ、マスキングも、良い勉強になりましたよ。
並べたバーテンダーに文句を言ってください(笑)。
将来がとても楽しみですね。
この酒質で、10年、12年、15年と熟成していったらどうなるか。
甘いですね。
乳酸臭さもないから、良い出来ですね。
最後に葡萄の種もある。
やばいな。
これ、旨すぎたから。
どういう意味で。
最終回なのに、オチが付かないから(笑)。
葡萄の種は、香りにも、余韻にもあるね。
そうですね。
白葡萄のジュースみたいだし。
アイラモルトだから、6年熟成でも十分に美味いですね。
90年代にオープンした蒸留所のことを考えたら、 個人的にはわざわざVery Youngを名乗る必要もないように思いますけどね。
アードベッグは、オフィシャル30年でも感じますけど、 Young Oldという言葉にこだわりがあるみたいですね。
そうですね。
8年熟成がYoungだから、6年でVery Youngにしているということでしょうか。
なるほど。
このVery Youngアードベッグは、ファースト・フィルの樽だけを ヴァッティングしているとのことです。
そうですか。
ただ何樽のヴァッティングか、何本瓶詰めされているかは、わからないんですよね。
そうね。
この色と香り・味わいですから、バッティングされているのは バーボン樽だけですよね。
そうだろうと思いますね。
ただ、バニラを感じない。
ちょっと不思議ね。
全てファースト・フィルの樽を使っているのに、 色があまり出ていないところも不思議です。
確かにそうね。
名残りは尽きませんが、そろそろ最終回の締めくくりに行きましょうか。
それではIさん、どうぞ。
今日の1番は、トップ・ノッチです。
ぞっこんですね。
プレゼントしてくれる人をまず探して、見つからなかったら、 貯金をおろして買いに行きます。
早く行かないと売り切れちゃうよ(笑)。
それで、今日の2番めはアードベッグです。
甘い、すっきりした感じが良かったですね。
カリラが2番目じゃなくて、ホッとしたよ(笑)。
3番目は、フル・シェリーのカリラです。
みなさん、アンバランスとか仰いますが、私はこのコッテリとしたところが良かったです。
1人くらい支持する人がいないと、バランスが取れないしね。
4番目は、タリスカーですが、これもとても美味しいと思います。
ただ、最近の私は、シェリーにベタベタなもんで。
最初の1本をお忘れでは?
10のアルテミスですね。
あれは別格なんで。
123本のモルトのエッセンスが詰まっていて、 えも言われぬ美味しさでした。
Kさんは、いかがでしたか。
今日の5本のうち、自分の持ってきたものは除きますね。
今日飲んだ4本は、3本がアイラで、1本がアイランド。
ラインアップが、モルトハウスISLAYのテイスティング・ルームの最終回に ピッタリだと感じました。
なるほど。
しかも、シェリー樽熟成が2本、バーボン樽と推測されるものが2本で、 バランスも取れている。
1本だけ、アンバランスと思うけど。
まあ、まあ。
それで、最終回の教訓としては、ラベルのカッコ良さだけで選ぶと外れることも あるということですかね。
1ショット飲んで選べば、絶対に外れることはない。
確かめていたら、売り切れてしまっていて、買えないこともある。
これも教訓。
特に、美味しいものほど買えなくなる。
教訓となった1本を除いて、あとの3本は、最終回に相応しい、 とてもハイレベルなものであったと思います。
最初に飲んだタリスカー1979は、3年前に飲んだときの印象よりも、 しっかりとした存在感を感じさせてくれたように思います。
トロリとしたボディ、胡椒っぽい辛さ、大人しいけれども、唸らせる だけのものがありました。
そうですね。
Sさんが、持ってきてくださったアードベッグの6年は、 バーボン樽のファーストフィルだけを使っているだろうと推測されるわけですが、 丁寧に作られた原酒を、上質の樽で熟成されているように思います。
スモーキーなピート、フレッシュな白葡萄のジュース、クリーンな印象。
まったく雑味を感じさせない。
あと5年、あと10年後にリリースされるであろうオフィシャルの アードベッグが今からとても楽しみです。
3本のハイレベルな戦いのなかで、首ひとつ抜け出しているのが、 トップ・ノッチのポートエレンです。
シェリーのエキス、葡萄のフルーティさ、スパイシーさ、 いろいろの表情が楽しめて、一口ごとにボディと旨みが増してくる。
この立体感が出てくるところが面白いと思いますね。
今日が最終回ということで、本当に残念ですが、 この3年数ヶ月は、本当に勉強になりました。
みなさん、本当にありがとうございました。
今後とも、よろしくお願いします。
来月から、月1回名古屋のバー探訪に行きますので、よろしく(笑)。
Eとか、Nとか、Bとか。
いろいろありますので、ご案内しますよ。
一緒に、モルト・トレイルしましょう。
うちのサイトにも、名古屋の情報を寄せてくださいね。
そうですね。
わかりました。
いよいよ、最後の締め括りね。
今日飲んだなかで、わしが一番意外だったのは、Kさんの持ってきた Decenial Artemis of Scotland。
マスターも、言っていたように、これまでの経験では、いろいろな原酒を 混ぜれば混ぜるほど、美味しくならないんだろうと思っていた。
最初の香りと味わいは、繊細で本当に美味しかった。
後半に少しエグミは出るけど、気になるほどではないし。
ありがとうございます。
で、サウンド・オブ・アイラは置いといて(笑)。
残りの3本は、全部グッド・ベリーグッドにした。
トップ・ノッチのポートエレンは、複雑な味わいで、厚みもあって。
わしの嫌いな硫黄ではなく、わしの好きなレザーとラバーだったんで、よかった。
革とゴムですか。
うふふ。
ははは。
一応、SMファンなもんで。
Single Malt(爆笑)。
タリスカーの方は、最近のタリスカーが失くしてしまっている タリスカーらしさがあって、良かった。
黒胡椒がしっかりとあって。
そうですね。
それは、僕も同感。
Very Young Ardbegは、全てファーストフィルというところが、意外に感じられた。
鉛筆の削りカスとか、もうちょっと時間の経過した樽のような個性もあった。
それから、バーボン樽特有のヴァニラは、もしかしたらKさんの言われた 白いグレープジュースに変化したのかも知れない。
それから、クリーンな印象が、とても新鮮だった。
若さはあるけれど、美味しい若さ。
若さといっても、ニュー・ポッティじゃないところも良いですよね。
そう。
そのとおり。
ストレートでクリーン。
以上です。
本当にお世話になりました。
ありがとうございました。
かえす返すも、残念ね。
また、やりましょうね。
賛成!
終わり