テイスティング・ルーム第34回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- アイル・オブ・ジュラPB(マシュー・フォレストPB)
- アイラ・モルト12年(シールダイグ)
- スモーキン・アイラ(ブラックアダー)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今回は、日本でのニュー・リリースから、島のモルト3本を持ってきました。
わーい。
右に同じ。
わーい(笑)。
アイル・オブ・ジュラPB(マシュー・フォレストPB)
最初の1本は、いわくつきのジュラです。
これは、例のスーパー・スティションの原酒としてセレクトされたカスクの中から、 なぜかシングル・カスクとしてボトリングされてきたものです。
ジュラのスーパー・スティションは、4年のピーテッドモルトに、 13年と21年の原酒をヴァッティングして、 昨年9月にシェリーバット148樽に詰めかえて、フィニッシュされています。
スーパー・スティションは、その148樽から、これまで2回に分けて ボトリングされ、リリースされているわけですが、 その148樽のうち、実は3樽ほどがスーパー・スティションのボトリングには 回らなかったのです。
スーパー・スティションは何年と何年?。
4年と13年と21年です。
で、その残された樽はどうなったんですか?。
ほかの2樽の行方は聞いていませんが、1樽はボトリングされて、 今日ここにあるというわけです。
へえ。7へえ。
ボトリングされたのが、今年7月ですから、 フィニッシュの期間は9ヶ月くらいですね。
4年ものが入ったヴァッテッドだから 熟成年数は4年かな?。
そうですね。
4年から5年だろうというところですね。
これはオフィシャルですよね。
はい、蒸留所ボトリングです。
ただ、例のジュラ3年と同じように、 謎のアメリカ人、フォレストさん向けに プライベート・ボトリングされたものです。
この関係は、わかりにくいですよね。
確かにそうね。
アルコール度数は?。
58.8度です。
4年のピーテッドと、13年・21年のヴァッテッドで、 しかもナチュラル・カスクなんです。
だから個人的には、これを飲んだらスーパー・スティションは もう飲まなくても良いんじゃないかなと。
みなさんの印象はいかがでしょうか?
色は、薄めの琥珀。
スーパースティションよりも、やや薄いかな。
ああ、良い香りです。
糊の香り。
あと、塩・胡椒。
本当だ。
糊、でんぷん糊のような香り。
甘さがあって。
ああ、本当です。
糊の香り、出てきました。
個性としては掴みづらいですね。
モルトがベースになっている。
ほとんどピートは感じないですね。
胡椒っぽい個性は、おそらくピートによるもの。
香りは、トップの埃っぽさと、原酒のモルトベース、そして胡椒っぽいピート。
あと少しカカオっぽさも感じる。
味わいはジュラですね。
濃厚なジュラ。
確かに紛れも無いジュラです。
ジュラの個性っていうと?。
麦芽っぽさ、麦の甘さです。
そうですね。
本当に甘いですね。
熟したフルーツみたいな感じがあります。
完熟した梨。
確かに完熟した味わいありますね。
けっこう酸味も感じる。
後味にピートがでてきますね。
確かにピートは後になって、しっかりと出てくる感じですね。
これは、全体として、チグハグな感じがある。
もう少しフィニッシュを長くしたら良くなったかなと思う。
4年と13年・21年で、ギャップが大きいということですか?。
まあ、それもあると思うけど。
9ヶ月のフィニッシュでは短すぎるように思う。
ちょっとアンバランスな感じですよね。
そうですよね。
私は、甘いという印象しか残らなくて。
デザートの代わりに飲みたいというモルトです。
へえ。9へえ(笑)。
女性は結構好きかも。
スコッチケーキっぽいところがありますね。
確かに前半はそうだよね。
ただ、前半の甘さが強い割に、途中からドライに変化してからが、 居心地の悪さ、アンバランスな感じがあるように思うね。
飲んでいるうちに、フィニッシュはジュラ3年のような印象がある。
どっちが好きかといえば、わしはジュラ3年だけれど(笑)。
葡萄の種も出てきますね。
確かに、甘くて、苦さがあって。
かなり厚みもあるし。
そうですね。
しっかり感と濃さね。
スタンダードのジュラは軽やかさがあるけど、こっちの方は重さがある。
後半は、ピーテッドのジュラ3年に近いと思うけれど。
前半は、オフィシャルジュラの味わいの個性があって。
酒質・ボディ感は21年熟成のようにしっかりとある。
チクハグに感じる人がいれば美味しいと思う人がいて、 とても評価が難しい(笑)。
アイラ・モルト12年(シールダイグ)
オチが付いたところで、2本目に行きましょう。
シールダイグのアイラ・モルト12年。
で、中身は何かというと?
お決まりのラガヴーリン。
といわれてますね。
「シールダイグ」のボトラーは、 イアン・マクロード社です。
度数は何度ですか?
55度ですね。
(と言いつつ、液体をグラスに注ぐ)
最初から爽快な印象、メントール。
鼻が通るような感じ。
正露丸のような感じ。
正露丸って、英語ではどう表現するんですか?
タール、海風、ちょっと馬糞(笑)。
ははは、馬糞ですか?。
確かに土っぽい癖はあるね。
正露丸には馬糞が入っている。
ないない。
マイケル・ジャクソンとかが、ラプサンスーチョンという表現を 使うことがありますけど。
ラプサンスーチョン、確かにそうですね、その通り。
すいません・・・らぷさんって何ですか?
中国茶の一種。
日本ではあまり飲まれていませんけど、アメリカやイギリスでは、 よく飲まれているお茶です。
確かに正露丸に近い味がします。
へえ、13へえ(ワン・パターン)。
ラプサンスーチョンは、正露丸をお湯で2~3倍に薄めたような。
これには、少し杉樽のような感じがある。
樽の香りはありますね。
タールが少し・・・あと乳酸のような。
赤ちゃんのGeまでは行かないけれど。
うふふ。
乳酸については、先日S社OBのO先生から御指摘を頂きました。
乳酸には香りがないそうです。
それで、我々が乳製品の酸味として感じる香りというのは酪酸だって。
だから、赤ちゃんのGeの匂いは酪酸だったと。
これからは酪酸の香りって書くんですか?。
まだ解らないけど、赤ちゃんのGe、乳酸の香り(本当は酪酸だけど) って書こうかなと思ってる。
古樽材=乳酸(本当は酪酸だけど)という、Sさん理論については、 どう言われておられましたか?
古樽材については、いろんなファクターがあるらしいですね。
乳酸、酪酸、酢酸など。他に菌の作用もあって。
このシールダイグにも、疲れた樽のようなところがありますが。
確かにありますね。
ただ、その古樽の酪酸っぽさが、嫌らしい癖にはならずに 厚みになることもあるので、悪いと決め付けることもできない。
苦い、甘い。
ちょっと赤ちゃんのGe。
それでもあまり嫌いじゃなくなっている私(笑)。
ただ、ラガヴーリン特有の香味が出ていないんだよね。
そう。
それがないんですよ、あの香ばしさ。
どちらかというと、後半の軽さ、酸味の方が気になる。
乳酸とピートが一体化して、シナモンのような個性がある。
シナモンキャンデー。
シナモンの味わいはあるね。
甘さは、ずっと残りますね。
それは、そうですよね。
酸味も強いけど。
確かに酸っぱさありますね。
先日飲んだときのシールダイグの印象よりも、今日の方がいいかなと思うね。
今日は、開封直後ですけど、先日のボトルはどうだったんですか?。
開封2日後だったね。
へえ。2へえ・・・。
だんだん苦くなってきた。
古樽材も強くなってきた。
ピリピリする感じがあるんですけど。
古樽材とピートじゃないかな。
なるほど。
アルコール感は、ジュラ4年ほどには強くないね。
ジュラは残り香がミルクになってきましたよ。
ああ、本当にミルキーみたいだ。
私は、脱脂粉乳なんですけどね。
世代のギャップですか(笑)。
スモーキン・アイラ(ブラックアダー)
それでは、今日3本目に行きましょうか。
ブラック・アダーのスモーキン・アイラです。
度数は61.7度です。
蒸留所はどこなんですか?。
ロビン・トチェック曰く、 中身は99%ラフロイグということです。
残りの1%は?。
知らないって(笑)。
前回のリリース迄と同じモルトのミックスですか?。
ロビンは99%ラフロイグと言いますけど、 何のミックス(ヴァッティング)かは明らかにしていないんですよね。
後は謎を残していると。
そう。
ノー・コメントなんですよね。
どんなモルトが入っているか、わかったら素晴らしいですね。
色は薄いですね。
ああ、もろにラフロイグの香り。
すっごい、煙い。
昔大好きだった恋人のタバコ。
うん、良い喩えだね(笑)。
確かにスモーキー。
年数表示は?。
記載がありませんね。
ブルイックラディじゃなさそうだし、ブナハーブンでもなさそう。
ポートエレンの線も薄いように思いますね。
少し葡萄の種を感じるんですが。
とすると、ボウモアかな。
ただ、最近のラフロイグでも葡萄の種が出てくるんで、もしかしたら 「残り探し」のヒントにはならないかも。
残念ですね。
それでは味わってみましょうか。
うわ、すごい。
不思議な味。
甘い炭を口に入れたような。
ああ、ラフロイグの味ですね。
書道の墨、墨汁の匂い。
Sさん、わかりますか?。
ワイフが昔、書道していたのでわかります。
墨は、もう少し甘さがあるんじゃないかな。
すいませ~ん、ラフロイグのオフィシャル10年と オフィシャル・カスク10年をくださ~い。
オフィシャル10年は甘くなったよね。
そう、随分甘くなった。
日和ってますよね(笑)。
オフィシャル・カスクと比べても、スモーキン・アイラの方が良いな。
同感。
スモーキン・アイラには強烈なインパクトがありますよね。
唐辛子が入っているみたいに、スパイシー。
ちょっと段ボールの味がするんだけど。
確かに、段ボールっぽいテイストがありますね。
わしは、ラガヴーリンの個性として、段ボールを感じるんだけれど。
「残り」は、ラガヴーリンだろうか?。
試してみるしかないかな?。
すいませ~ん、ラフロイグ・オフィシャル・カスク99杯と ラガブーリン16年を1杯ください(爆笑)。
まあ、ちょっと待ってくださいよ。
葡萄の種、ボウモアらしさがあるように思いますね。
あと、葡萄そのものの香りもあるんですよね・・・マスカット。
ああ、出てきたよ、白葡萄の香り。
でも、これも樽はあまり良い状態ではないような気がする。
古樽材のような。
マスカットが腐る直前の、一番美味しい、甘い感じがあるんですけど。
なるほどね。
スモーキン・アイラは、インパクト・個性からみて、 コストパフォーマンスは高いと思いますけどね。
今日の3本は評価が難しいね。
ああ、シールダイグなんですが、残り香にちょっと嫌な感じの 香りがありますね。
動物の骨が焼けた後に残った灰の香り。
本当だ。
僕は、あまり趣味ではないな。
アイラモルトでは、時々感じることがあるんですよね。
じゃ、来月は、残った灰の香りのするアイラ特集で(笑)。
僕は、ごめんだね。
私も。
今、スモーキン・アイラを嗅ぐと、余市のような新樽、 鉛筆の削りカスを感じるね。
シナモン・キャンディーとか。
鉛筆の削りカスの上に、スキムミルクがコーティングされた 感じがあるんですよね(笑)。
絵柄を想像すると笑っちゃうんだけどね。
そろそろと、まとめに行きましょうか。
Iさん、どうぞ。
今日の一番は、ジュラ4年です。
えっ、ジュラ?。
本当に?
はい、麦芽の甘さが良かったです。
デザート代わりに飲みたいモルトです。
全般的には甘いと思いましたが、これが一番です。
スモーキン・アイラも甘かったの?
はい、葡萄の腐る間際まで熟した甘さです。
煙が甘くなってきて、甘さ全開がちらっと見えて終わるみたいな。
今日の2番目ですね。
シールダイグが、3番目になったのは、何か理由があるの?
どれも似たような個性で、嫌いじゃないと思うんですが、 一番普通っぽいから、かも知れませんね。(にっこり)
Kさんは、どうでしたか?。
1番から順番を付けると、スモーキン・アイラ、ジュラ4年、 シールダイグのラガヴーリンですね。
シールダイグは、ラガヴーリンとしては明確な個性がなくて、 掴みどころがない感じがありました。
最後に出てきた灰の香りも、個人的にはマイナスポイントだったかもしれない。
ジュラ4年は、ジュラらしい麦芽の個性と、ピーテッドジュラの個性と 両方楽しめるところが良かったんだけれど、全体の統一感が 物足りなかったように思います。
どなたかの表現を借りれば、チグハグであったなと。
そう、アンバランス。
スモーキン・アイラは、強烈なインパクトで押してくれるんだけれど、 ピーテッド&ドライ&ロング・フィニッシュというところまで徹底して欲しかったなという 思いがあります。
これまでに飲んできたスモーキン・アイラはその点では十分と言えた。
ところが、今日飲んだニュー・リリースは、葡萄の種が出てから後は、 Iさんの言葉を借りれば、甘さ全開っていうことで、 甘さに振れたところが個人的には残念に思いました。
そういうわけで、今日の最高点でも星は4つ。
わしの感想は、今日の3番がジュラ。
フィニッシュになって、ようやくわしの好きなピートが出てきたけれど、 それまでの間は、糊の甘さと酸味、あっちこっちに飛んでしまって、 バランスが悪い感じがした。
シールダイグは、ラプサンスーチョンのラガヴーリンらしいところは良かったけれど 全体としての個性は弱いように思った。
初めて告白するけれど、わしも動物の骨の灰はあまり好きではない(笑)。
今日の2番目。
スモーキン・アイラは、もしかしたら樽はあまり良いものを使っていないかも しれないと思った。
ただ、その古樽材が味わいに酸味とボディを加えている。
ピートと甘さともバランスは取れていると思った。
で、レーティングは?。
残念ながらGoodまでだね。
じゃ、ウォーミング・アップは終わったので、今日の真打ち3本に行きましょうか?。
わーい。
わーい。
…(青ざめる)