テイスティング・ルーム第23回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1970年モートラック32年(ゴードン・マクファイル)
- アイル・オブ・ジュラ15年(ケイデンヘッド)
- クライヌリッシュ24年(オフィシャル UDレアモルト)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1970年モートラック32年(ゴードン・マクファイル)
それでは、まず今日の1本目は、一風変わったボトルから始めましょう。
えっ、これにモルトが入ってるんですかぁ。
バーボンとか、コーン・ウイスキーが入っていそうなストーン・ジャグですね。
ゴードン・マクファイルが瓶詰めをしてきた モートラックの32年です。
ヴィンテージは1970年ですね。
何故、変わったボトルに入っているかというと、 洋酒卸のジャパン・インポート・システムが ゴードン・マクファイルに発注して、自社企画の オリジナル・ボトリングとして輸入してきたからです。
へえ、なるほど。
同じボトルに入れられたオリジナルボトリングとして、 ダルユーイン(27年、1975蒸留、55.1度)が同時出荷 されているのですが、ジャパン・インポート・システムの 試飲会では、こちらのモートラックの方が評判が 良かったようなので今日の1本目に選びました。
ダルユーインも飲みましたが、それほど悪くはなかったと思いますよ。
アルコール度数は何度ですか?
58.1度ですね。
樽の種類は?
リフィールのシェリー・バットですね。
ノンチルのナチュラル・カスクです。(と言いつつ、コルクを抜く)
Iさん、コルクを抜いたら、 その日のうちに飲みきらないといけないんだよ。
えっ、そうなんですか。
どうしよう、明日仕事あるし。
うそ、うそ。
Sさん、駄目ですよ、すぐ信じちゃうから。
ほら、ここに替栓が。
なあんだぁ、でもちょっと残念かも(笑)。
・・・かなり濃い色ですね。
シェリーの綺麗な赤い色が出てますね。]
ああ、シェリー。
なぁんて素敵な香り。
華やかで、甘くて。
シェリー・フラワーの華やかさ、とても良い感じ。
味の方はいかがでしょうか?
最初、Dustyな印象。
そのあとから華やかなシェリーの甘い味わい。
DustyでGood。
美味しい。
甘くて、上品で、好きになっちゃう。
(替栓をはめながら)あれ、おかしい。はまらないなあ。
やっぱり全部飲んでしまわないと(一同、笑)。
いやいや、これは、ちょっと水で湿らせば。
ウンウン、ほら、はまった。
ほんとに残念(笑)。
本当に甘ぁ~い。とても好きなシェリーの味わいです。
少し酢酸のような印象もある。
最初はすごく良いなあと思うんだけれど、フィニッシュになってくると、 だんだんと硫黄の味が強くなってくる。
僕は、あまり硫黄の味は好きじゃないから。
硫黄というのもわかりますが、これの舌の上の、 苦さの残り方は歯磨き粉ですね。
ちょっと昔の頃のやつ。
ああ、なるほど。
確かにそうですね、わかります。
最初、美味しいシェリーの味が続いて、 だんだん硫黄が強くなってくる。
その頃になると濃いシェリーと硫黄がうまくバランスして、 とても美味しく感じるところが出てくる。
だんだん時間が立つと、シェリーの部分が消えて、 フィニッシュでは硫黄の味が残ってくる。
なるほど、そうですね。
口に入れてしまうと、香りで感じた甘い華やかさは、 もう感じられなくなってしまいますね。
最初に口に入れた時には、とても甘い味わいだったんだけれど、 途中から硫黄と歯磨き粉の苦さが出てきて、 最後には硫黄っぽい飲み物として、その余韻が続く。
最後の方になると、豊かで存在感のある液体という 印象からは遠くなっていく。
たぶん、最初の方に感じる部分は、シェリー樽で後から 被せた部分なんだろうと思う。
だから時間が立つに従って、上に被さっていた部分が取れてしまうと、 下にあった部分が見えてきてしまう。
なるほど。下地が出てきてしまうというわけですね。
この味の評価は、その人の趣味によって大きく分かれると思う。
硫黄の味が好きな人は、最初も真ん中もフィニッシュも楽しめるだろうし、 そうじゃない人は、後半がつらくなってくるんじゃないかな。
年数の長いモートラックっていうのは、 あまり出てきていないんじゃないかと思うんですが、 これは、相当にしっかりと刺激がある感じですね。
硫黄の苦味と、強い刺激が好きな人にはお勧めですね。
ビリビリと痺れたような余韻が長く続くのが好きな人には、 受けるような感じもあります。
最後の方は、ビター&スイート。
Iさんは、この苦味は気になりませんか?
ならないです。とても美味しいです。(にっこり)
最近、Iさんはシェリー系に転向しましたから。
硫黄を感じませんか。それとも、硫黄を感じても好きですか。
今日のこのモートラック、不思議なことに硫黄を感じないんです。
これのフィニッシュには、どういう味を感じましたか。
そうですね。蜂蜜みたいな感じで、留まっている。
ああ、はいはい。
なるほど蜂蜜ね。
わかるわかる。
以前、ある店で、硫黄味のフィニッシュもあるモルトを飲んだときに、 やっぱりIさんと同じように蜂蜜といった人がいましたね。
これは、個人的な推測なんですが、最初に持った味の印象を、 最後まで持っていく人も時々いるように思いますね。
剥がれていく変化が見えてくる部分を感じちゃう人もいれば、 剥がれてきても最初の印象を保持しつづけられる人も いるんじゃないかなと。
はあ、なるほど。
時間が立ってくると、アルコール感が無くなって、甘くなってきていますね。
飲んでいるうちに厚みも出てきているように思います。
まあ、刺激臭の方も残ってはいますけど。
全部飲んじゃった。
少し時間を置いた方がいいかも知れないですね。
最初の刺激が相当に強いですから。
そうですね。だんだんと良くなってくる感じも悪くないですね。
アイル・オブ・ジュラ15年(ケイデンヘッド)
それでは、2本目に行きましょう。
ケイデンヘッドが瓶詰してきた アイル・オブ・ジュラなんですが、 1986年のヴィンテージで、 熟成年数は15年ですね。
アルコール度数は57.7度です。
選んだ理由は?
試飲してみて美味しかったんです。
マスターお勧めの一本ですか。
樽はなに?
「バット」としか書いてないんですが、 546本取れているらしいので、 おそらくシェリー樽でしょう。
色はあまり濃くないのでリフィールではないかと思います。
確かに、ほとんど赤みは入っていないですね。
わりと綺麗なゴールド。
香りはいかがですか?
ジュラ独特の甘い香り。
蜂蜜とか、甘さのある麦。
良い香りですね。
際立った特長のないところがジュラの香りですね。
塩気を感じる。
鼻への刺激は、少し塩っぽいかも知れませんね。
塩気の下には、フルーツ。
何か熟しすぎたようなフルーツ。
いやだな、味の素の匂いを感じてしまった。
言われてみれば、そうかも。
中華に合うモルト(笑)。
さっき、僕が言ったフルーツの香りなんだけど。
誰かフルーツみたいに感じなかった?
熟したマンゴーとか、柿のような濃い感じ。
味は、どうですか?
すごい塩辛いです。
塩っ辛さと、島のモルトっぽい個性と麦の味わいが、 良いバランスで口のなかにパッと広がる感じ。
これが良いんですよね。
塩が最初に来るんだけれど、 舌の上では味の素のような旨みが出てくる。
飲んだときに、口の中が旨み成分でいっぱいになったような 感じがするんですよね。
やっぱり中華に合うよ、これは(笑)。
旨みの奥から、濃い甘さが出てきますね。
この甘さはシロップだね。
咳止めシロップとか、透明な液体のやつですね。
あ、ちょっと味わいが締まってきた。
塩の印象は、ずうっと続いている。
塩っぽい味わいはずっと下地になっていて、 その上に味の素の旨みがウワッと広がったり、 麦の甘味がパッと膨らんできたりする感じ。
味わいの変化があって、面白いですね。
飲んでいると、しみじみうまいなあという気がしてくるウイスキーなんだよね。
はあ、なるほど。
しみじみか、言いえて妙ですね。
Iさんの感想は?
自分がまだ子供なんだなって思いました。
何が好きになれないの?
キュっと引き締まっていて、無駄のない感じ。
濃い塩味で、収縮するような感じかな?
緊張する、張る感じ。
梅干の10分の1くらい?
うんうん、そんな感じ。
飲んでいるうちに、だんだんと甘味が立ってくるんですよね。
最初には確かにちょっと緊張したようなところもあるんだけれど、 次第に拡散して解放された感じになってくるんだよね。
しみじみって。
塩があって、甘味とモルツが出てきて、最後になって、 塩は喉の奥に行っちゃう。
口の中のお芝居。
先に言われちゃった(笑)。
ある訳はないんですが、塩をまぶした麦の味わいが、 だんだんと後を引いてくるんですよね。
「やめられない、とまらない」みたいな。
「かっぱ塩むぎ」ね。
これの「引き」になっているのは、塩の方ではなくて、 麦の旨みの方だと思います。
オフィシャルのジュラ21年がとても良いんですが、 それを濃く強くしたような感じなんですよね。
これは熟成15年なんですが。
本当に良い出来ですよね。
大人を目の前にした感じ。
あこがれと畏れ。
ほとんどシェリーっぽさはありませんね。
ゴムも、硫黄も、ビニールも。
相当に使われた樽なんでしょうね。
バーボン・カスクといっても通っちゃいそうですね。
加水してみませんか?
そうしましょう。
度数57.7度ですからね。
加水したら、しょっぱさが後退して飲みやすくなりました。
甘みが前に出てきた。
本当に飲みやすい。
でも基本の味は変わらない。
しみじみ良いモルトですね。
特に、これは素晴らしいですね。
クライヌリッシュ24年(オフィシャル UDレアモルト)
それでは、3本目に行きましょうか。
UDレア・モルト・セレクションのクライヌリシュ24年です。
1972年蒸留で、アルコール度数は61.3度ですね。
これを選んだ理由は?
とって置きの秘蔵品ということですね。
ヴィンテージ1972年の24年熟成で、ボトリングは1997年。
レア・モルト・シリーズ第一弾のうちの1本です。
先ほどチェックしていたら、 輸入元のシールが貼られていないので、 グラスゴー空港の売店で買い求めたもののようです。
以前、これを飲んだときの私の印象は 「抜群」だったんですが、果たして、 今日の皆さんの感想はどうなるでしょうか?
色合いはゴールド、ちょっと飴色よりかな。
本当にいい香り。
最初はフルーティ。
僕は、ちょっとソルティ。
さっきのジュラの余韻かな? いや、これはこれとして、フルーティ&ソルティ。
僕は、松脂とニスの香り。
ニスって何。
lacquer.透明な塗料です。
ああ、わかります。
香水みたいな味わい。
最初の口当たりはとてもフルーティ、それから酸味のある爽やかな印象。
ただ、度数が高いだけに最初の刺激は結構きますね。
最初の刺激が通り過ぎてしまうと、上品な甘さ。
色っぽいお酒。
最初はフルーツ。
アプリコットのような甘さ。
クライヌリシュらしい感じ。
途中から、syrupyな(シロップっぽい)味わいが出てくる。
最後になってくると、ちょっと苦味が出てくるかな。
個人的には、こういう感じが好きなんです。
口あたりがスっとしていてフルーティで爽やかな味わいがあって、 後半にジワっと広がってくるような。
あと熟成が進んでいて、アルコール度数が高い。
僕は、杏の爽やかなフルーティさと、甘みと酸味のバランスがよくて、 ベースにはしっかりとした麦の味わいがあるところが良いですね。
ちなみにUDレアモルトは、ヴァッテッドですから 本数は相当出ています。
シリアルナンバーは?
これは比較的若くて0275ですが、 おそらく1ロット5~6千本は出ているでしょう。
軽くあしらわれた感じ。
変化がとても面白い。
フィニッシュでも、酸味があって苦味があって、また塩味を感じて。
それからまた苦味が出てきて。
ついついもう一口ですね。
UDレアの良い出来の物は、これも含めて 「ヴァッティングの妙」みたいなものを感じます。
なるほど。
ただ、アルコール度数が高いので、ついつい飲みすぎると…。
飲みすぎると?
撃沈(笑)。
加水するとどうなるかな?
加水したくないな。
自分の印象が変わっちゃいそうで。
水を足したら、アルコール感が強くなって、舌への刺激が強まってきた。
香りや味わいは開いてきませんか。
うん、やっぱり加水しない方が良いみたいですね。
加水したら、細やかな色の点々を水彩の筆で 塗りつぶしてしまったような感じです。
ストレートの方が、一口ごとの微妙な味の変化が楽しめると思う。
なるほど。
61度では、つい加水したくなりますけどね。
残り香も良いですね。
麦の香り、それだけじゃないな。
チョコレートの香りもします。
最後の苦味がちょっと強くなってきているような気がする。
仁丹を噛んだときのような苦味。
ああ、そうそう。
やっぱり表情豊かなところがいいな。
今日の3本のなかで、Iさんのお気に入りは?
このモートラック。
すっかりシェリー党に鞍替えですね。
自分に一番近い気がします。
そういう意味で、一番近づきにくいのが、最後のクライヌリシュ。
もっとしっかり勉強しなさいって言ってるみたいで。
近いっていうのは、親しみやすさみたいなもの?
そうそう。
でもクライヌリシュは、もっと勉強したらわかるようになるわよって、 言われているみたいな、軽くあしらわれた感じ。
で、ジュラは?
すごく大人みたいに思う。
で、親しみやすかったのがモートラック。
でも、そのモートラックが、一番熟成年数が長いんですよ。
あっ、本当だ。
32歳といえば、壮年を過ぎて、老人になっているよ。
あれ、どうしてだろう?
Kさんは、総括すると、どうなりますか?
そうですね、自分の好みで言えば、 一番遠くにいるのがモートラックですね。
だんだんに変化していくのは悪くないんですが、 自分にとって心地よい部分が剥げていって苦味の個性が出てくるところが、 ちょっと趣味には合わないかなということです。
残った2本は、自分にとって、近いところにいます。
距離で言えば、まあ同じくらいでしょうか。
ジュラの麦の味わいも、クライヌリシュのフルーティなところも、 自分の持っているイメージ通りというところですね。
どちらも高いスコアを付けられるだろうと思いました。
なかでも印象深かったのがUDレアのクライヌリシュです。
最初から、最後までいろいろな表情が出てきて、 その一つ一つがとても爽快で、心地よくて。
度数が高くて、何杯も飲めるわけではないんだけれど、 一口一口を過ごしていって、「とても良い旅をした」という印象のモルトでした。
僕も、一番美味しかったのはクライヌリシュですね。
とても豊かで、心地よさのある色々な表情があって、 普通のモルトが「20秒のお芝居」だとしたら、 このクライヌリシュは「30秒くらいのお芝居」かなと。
とても楽しめた。
最後にちょっと苦味があったのはちょっと気になったけど。
モートラックの方は、硫黄系があってあまり自分は得意ではない 感じがしたけれど時間が立ってから美味しくなってきたように思う。
アルコールと一緒に抜けていったのか、 舌が麻痺したのか、わからないけど。(笑)
モートラックの硫黄臭は、時間が立つと抜けていくみたいですね。
ジュラは、レーティング的には、クライヌリシュとモートラックの中間。
塩、塩、塩なんだけれど、途中にシロップぽくなったりして、 その変化が良かった。
最近だんだんと、いろんな時に塩を感じるようになってきていて(笑)。
Salty症候群。
自分は、塩辛いモルトが好きだから、まあ、ちょうど良いんだけれど(爆笑)。