テイスティング・ルーム第12回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1984年ラフロイグ13年(ケイデンヘッド)
- 1984年ラフロイグシェリー・カスク(ケイデンヘッド)
- 1967年アードベッグ29年(キングスバリー)
登場人物
いつものIさんがお休みのため、代打出席。メタル系ファッションとバイク好きの、20代の女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。とうとう40代。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今日は、Iさんお休みなんですね。
Oさん、よろしくお願いします。
皆さん、お手柔らかに。
おいしい、でもいいですから。
気楽に行きましょう。
はいっ、頑張ります。
まず最初に申し上げますが、今日は、「とっておき」の3本です。
いつもは新着の3本、 文字どおりの封切りをテイスティングしてもらっているのですが、 今日は自信作ばかりをテイスティングしていただきます。
ここ1、2年にお店で出した数々のモルト・ウイスキーのなかで、 味わってみて、これぞというもの、 また、お客様からまた飲みたいとの要望が多いもので、 まだ数本ストックが残っているものについて、 年末に向けて、この1年の感謝の意味も含めて、 特別にお出しすることにしました。
今日は、その魅力、その個性をあらためて味わっていただきたいのです。
そういうわけで、1本1本のボトリング自体は、ちょっと前の物になります。
うわっ!。何だか、お休みのIさんに悪いみたいですね。
レイモンド&トチェックのモルト・ウイスキー・ファイルだったら、 アベイラビリティが1とかになってしまいそうなものですね。
早いもの勝ちになりそうだね。また飲み切り御免だろうから(笑)。
残念ながら、そうかも知れません。
1984年ラフロイグ13年(ケイデンヘッド)
最初の2本は、どちらもケイデンヘッドが瓶詰したラフロイグ13年です。
蒸留年月・熟成年数は全く同じなのですが、 仕上げの樽とアルコール度数だけが違っています。
(参考 蒸留 1984年4月、瓶詰 1997年10月)
元々のウイスキー自体は一緒でも、 入れられた樽が違った関係でアルコール度数が違ってしまったということですね。
ナチュラル・カスク・ストレンクスということで。
ええ、そうです。
最初のものはラフロイグ13年のバーボンカスクで、 アルコール度数は60.7度です。
印象は、いかがでしょうか? (と言いつつ、グラスに注ぐ。)
色は薄い、飴のような色。
液体自体もサラサラとした感じで、あまり粘り気はなさそう。
杉板のような香り、そして、あの病院のような香り。
アイラ独特の病院臭ですね。
アイラモルト好きのIさんに飲ませてあげたいわ。(笑)
う~ん、僕としては、アンモニア臭を感じる。
すこし発酵した旨みのような香りもしてきたかな。
これって何の香りだろう。
少し小麦粉のような感じもあります。
(各自、テイスティングに移る)
強いことは強いけれど、スッキリしている。
喉越しが良いな。そして後味に焦げ臭さが来る。
口の中に、一定の厚さの、何だか旨みのある層が広がる感じ。
アタックしてくるのでも、染み込んでくるのでもなく、ジワジワって拡散してくる。
二口めになると、木炭を口に突っ込まれた感じ。
舌に残ったあとには、ちょっと酸味も感じる。
みなさん、なぜ私の方をチラチラと見られるんですか?
あんまり、コメントないし。
じゃ、やっぱり、おいしいとか?
出しますか、初手から。キメのやつ(笑)。
最初の香りの印象に、粉っぽい感じがあったんですが、 味の方ではあまり感じませんね。
逆に、独特のピートっぽさとかが、しっかりと残って。
流木を焦がしたような…。
喉の奥から戻ってくる印象は、薬っぽさとしょっぱさが一緒になったような。
あのラフロイグ独特の。
うん、あのしょっぱさね。
いま、葡萄の渋皮みたいな印象もしてきました。
ああ、タンニンみたいな感じ。
オフィシャル・ボトルほどには、重くないでしょう。
ええ、とても軽やかですね。
それでいて、ラフロイグ独特のフレイバーはしっかりとあって。
かといって、薄っぺらでもない。
しっかりした印象と、長めの余韻があって。
最近、ソサエティなどからでも、ラフロイグは出されているのですが、 これほどまでに完成度の高いものは少ないようで。
加水してみていいですか。
Oさんのグラス、もう残って無いじゃん。
アハハ。(笑ってごまかす)
ちょっと甘みが出てきた。
タンニンの舌ざわりが強くなってきた。
うんすこし甘酸っぱい感じになってきた。
でも、ラフロイグとして主張している個性はしっかりとある。
へたったり、弱まったりせずに…、
60.7度ですけれど、加水しなくてもよさそうですね。
軽やかですし。
ボディ感や重さはないけれど、自己主張や存在感の部分がしっかりとあって、 そして余韻が長くて。
ああ、とても心地いい。
長い余韻のなかで、変化していくようで。
最初、煙っぽい感じで、後から渋皮、タンニンっぽくなって。
なるほど。
加水すると、後味が栗の渋皮になってくる。
加水してしまうと、荒さが出てくるかも知れないですね。
ストレートで飲みたくなる、本当に良いラフロイグです。
1984年ラフロイグシェリー・カスク(ケイデンヘッド)
それでは、次に行きましょうか。
二本目は、そのラフロイグ13年のシェリー・カスクです。
アルコール度数は少し低めで、54.7度ですね。
先ほどのバーボン・カスクと比較しながら、コメントしてみてください。
こちらもあまり粘り気はなさそうですね。
色は、しっかりと赤みが出ているね。
若い割には、シェリー樽のダークな色が出ている。
最初の印象は、納豆の香り。
おもちゃの笛の香り。
甘い香り。
ちょっと樹脂っぽい。
その笛って、プラスチックのでしょ? クルミとか、ナッツのような感じもするけど。
小麦粉のような匂いがするんですけど。
気のせいでしょうか?
ちょっと時間たったら、粉っぽさ、してきたね。
Tさんの好きな表現でいうと「麦こがし」みたいな。
だんだんと甘さが増してきました。
キャラメルのような。
ドライフルーツ、干し葡萄のような香りも強いよ。
私はプルーンのように感じます。
ちょっと乳臭い感じもある。
発酵乳のような。
オレンジの香り、オレンジピールのような。
ああ、するする。
岩海苔、焼き海苔のような感じも。
そうかな、すごいよ。それって。
見た目よりもトロっとしている。
(しばし、沈黙の後に)・・・ええっ、これって本当にラフロイグ?って感じ。
モルト・ウイスキーって、こんな飲み物だったっけ、 的な感動だね。
アイラ・モルトとも思えないでしょう。
後味になるまで、判らないよね。
最初のうちはチョコレート・ドリンクみたいな感じ。
後味になって、ようやく出てくるピート感。
最初のうちは、スペイサイドの熟成の長いモルトのようでもありますね。
舌の上に乗っている時には、ネクターのような濃さのある、 甘いジュースの印象なんだけれど、喉の奥に送り込まれていって、 上顎と舌との隙間が薄くなるに連れて、 ようやくピート感のあるラフロイグに変わってくるんだよね。
ああ、お前、こんなところにいたのか、みたいな感じで。
消え去ってからも、心地良いピートの余韻が残る。
それでもベースになるのは、最後までシェリー樽独特の甘みです。
こちらの方がアルコール度数が低いのが意外だね。
アルコール度数は54.7度ですから。
香りの印象は、華やかで、多彩。
どっしりとはしていないけれど、ミディアムなボディ感や存在感はあって、 最初からはスペイサイドの洗練された甘みがベースとなって、 最後にさりげなくラフロイグの個性がジワって出てくる。
出てきた個性が痺れのように余韻となって続いていく。
本当に長い余韻。
お寺の鐘のように(笑)。
ただ、ラフロイグらしいのは、バーボン・カスクの方だと思いますね。
確かにそうだよね。
シェリー・カスクの、このラフロイグって、 別の飲み物になってしまっているんだよね。
だから、ラフロイグ好きが飲むというよりは、 スペイサイド好きに奨めてみたいモルトだね。
私って、個人的にはナッツっぽいのって駄目なんです。
シェリー・カスクってナッツぽい印象が出てくるじゃないですか。
皮の渋味とかみたいな。
だから、どちらかと言えば、味的にはバーボンカスクの方が良いです。
悪くはないんですけれど。
ウイスキーが好きで、ナッツが苦手っていうのは珍しいですね。
ウイスキーは樽熟成が進むと、どうしてもナッツの渋味って出てくるじゃないですか。
ええ、そうなんですけれど。
ナッツ自身が持つ油っぽいところがどうしても馴染めなくて。
私の嫌いなもの、カシューナッツ。(笑)
それにしても、華やかで、うまいね。
本当に、甲乙つけがたいよ。
(しみじみと)うまいよね。
ええ。
(3人、しばし余韻に浸る)
最近、ラフロイグで熟成10年超のものが、かなり出回っているのですが、 ケイデンヘッド瓶詰の13年の、今日の二本を超える味わいのものは無いでしょう。
島で育った野生味あふれる娘が、シェリーの樽に熟成されて、 とてもソフィスティケイテッドされたオトナの女性になりましたって感じかな。
多分、本当のところは、じゃじゃ馬なんだと思うけど。
1967年アードベッグ29年(キングスバリー)
それでは、本日最後のおすすめに行きましょうか。
キングスバリーが出してきたアードベッグの29年、 1967年蒸留の96年瓶詰めです。
シェリー樽仕上げで、アルコール度数は52度ですね。
真っ黒に近い、濃い色ですね。
コニャックのようなしっかりとした色です。
(ノージングに移って)
ああ…。
きちゃった、来ちゃった。
…。
スモーキーな香り。
アードベッグ独特の、あの…。
ほのかな甘みもあって。
個人的には、デザート・モルトと呼んでいるんです。
えっ、デザートですか?
食後のケーキのような印象があるんです。
へえ。
レーズンの香り。
ちょっと高級な、枝付きのレーズン。
うん、そうだね。
あとチョコレート・ボンボンみたいな印象も。
匂いだけでもいいね。
ずっとこうしていたい感じ。
匂いがすごく心地良い。
なんだか凄すぎて、コメントが続かない感じだね。
Iさん、本当にゴメンねって(笑)。
熟成が長めですので、パワーのあるアードベッグっていう感じではないのですが、 自己主張はしっかりとあって、とても重厚に仕上がっていると思いますね。
甘みと厚みの部分が、しっかりと自己主張しているのだけれど、 熟成感に裏打ちされていて、角が取れているので、 嫌らしさやしつこさにはなっていないんだろうと思うね。
口に入れた瞬間の印象は甘いんだけれど、 味の変わり方が複雑で面白いね。
確かにそうだね。
頭から蜂蜜をかぶった医者が、廊下の向こうにゆっくりと歩き去って行く感じ。
ワッハハ、ハハハ。
ゆっくりと、でなければいけない。
年齢は70歳くらいの老医師でなければならない。
消え去る途中で、ちょっと野菜っぽい感じがする。
セロリのような香り野菜とか。
最初から中盤までは、しっかりと甘みが強いのだけれど、 最後になると、やはりアードベッグ独特のスモーキーで饐えた印象はあるね。
アードベッグはピーティーなんですけれど、 ピーティーな中にもほんのりカビ臭い感じ、 ちょっと饐えた感じがするところが個性なんですよね。
これはアードベッグのキルンの香りなんですけれど。
うん、かび臭さ、してるよ。
でも、やはり70歳の老医師だな。
白衣を着た、宇津井健とかじゃ駄目なんですね。
うん、もっと歳を取っていて。
ええっと、志村喬。
なるほどね、頭から蜂蜜かぶって。(笑)
しむらたかしって、誰ですか。
ああ、ジェネレーションギャップだね。
「生きる」とか「七人の侍」とか、知らない?。
シェリーの長期熟成で、味が濃いのは判るんだけれど、 味の変化が面白いですね。
本当に。
香りと味が、とても多彩ですね。
一言で、表現するのは難しいんだけれど。
グラスの上は、当たり前なんだけれど。
半径1メートルでも、随分変化しているのだろうね。
(カウンターに向かって)そっちはどお?
ええ、本当に。
蜂蜜漬の志村喬さんがゆっくりと歩いてきました(笑)。
あと、少しビターな感じもあります。
加水すると、糖蜜みたいな印象もあって。
でも、加水したら、嫌らしいアタックが出てくる。
山城新伍だ。(笑)
ああ、えっと・・・あの人。
誰だっけ?。
大河ドラマで、徳川家康とかやってる人。
津川雅彦?
そうそう。
派手で、ちょっと下品になったような。
ギラギラしてきた感じ。
あえて加水する必要はないかも知れませんね。
だんだん饐えた感じ、酸味の感じもしてきた。
完熟バナナの感じも漂ってきてます。
ああ、なるほど。
確かに、バナナケーキの香りあるね。
バナナシェーキとか、バナナリキュールとか。
うんうん、わかる。
今日のは、三本とも甲乙つけがたいね。
でも個人的には、最初のバーボン・カスクのラフロイグが一番好きですね。
何に喩えますか?
ジェントルマンって感じですか。60歳くらい。
日本人じゃないんでしょ。
そうですね、ショーン・コネリーでしょうか。
なるほど。
今日は、Iさん、本当にごめんなさいです。
今日、3回目か4回目ですね(笑)。
同じラフロイグでもバーボンの方が男性的、 シェリーは女性的な印象があるよね。
でもシェリー・カスクも、実際には男性的な部分を秘めていますね。
うん、カルーセル・平原徹男くんかもね。
男子房に、初トランクスだ(笑)。
私的には、ベット・ミドラーのイメージもあります。
ちょっと、しゃがれた声で。
今日のシェリー・カスクのラフロイグは、ちょっと珍しいと思いますね。
ここまでシェリーの個性が出ているものはないだろうと。
極めて稀少だと思います。
確かに、飲んだことの無い飲み物を感じたと言う点では、凄いと思いました。
一番が、志村喬のアードベッグ。
二番目がシェリーのラフロイグで、佐藤慶かな。
三番目がオーク樽のラフロイグで、成田三樹男。
成田三樹男って、二回目の出演じゃないですか。
確か以前は、化粧をした成田三樹男だったかと。
ああ、今川義元に扮したときね。(笑)
僕としては、今日の一押しは、シェリー樽のラフロイグです。
バーボン樽のラフロイグはスチュアート・トムソン。
二番目のシェリー樽は、リチャード・パターソンですね。
三番めのアードベッグはロバート・ヒックスです。
JAZZですか?(※注、蒸留所の所長とマスター・ブレンダーの名前です)
マスターはどれが好きなんですか?
どれも好きですね。
三本とも、星4つ以上は間違いないんだけれど。
とても評価は難しいな。
4つか、4つ半の間で、順番を付けるとなると…。
どれもなかなかに高得点ですね。
アードベッグは、やはり最後の締めにお勧めしたいですね。
これだけ素晴らしいのが肩を並べると、まとめるのが難しいですね。
シーンで考えてみることにしましょうか。
バーボン樽のラフロイグは、気力、体力ともに充実していて、 真正面からザ・アイラと向き合いたい時に。
どっぷりと、ピートとヨードとの世界に入っていくには、 受け入れられるだけのボディが必要でしょうから。
なるほど。
アードベッグは、ひとりで、じっくりとアードベッグの世界に浸り込んで行きたい時に。
例えば1杯のアードベッグをちびちびと飲りながら、 30分とか1時間を過ごすみたいな。
それは、営業的には困りますね。
はっきり言って営業妨害と、しっかり書いてかないとね。
そうは言っても、飲み手のひとりになったら、 色5分、香り15分、味わい20分、余韻10分って、わかるでしょ。
う、うん。(うなづく)
自分とモルトとの語らい、時を忘れるひととき。
珠玉のモルトとしての、アードベッグ。
で、最後のシェリー・ラフロイグは?
そうですね、1年の疲れを癒すときに、かな。
スペイサイドを思わせる、甘いシェリーの香り。
多彩で、様々な表情を見せる個性に包まれ、亡我の時に浸って。
日ごろのストレスから解放され、充電していく過程を実感する、 みたいな感じでしょうか。
何か、分かります。
でも、本当に幸せにしてくれる三本ですね。
こんな三本に出会える12月のISLAY、楽しみだね。
二人でシャンパン・ディナーを楽しんだ後でも、 デザート・モルトも用意してあるしね。
独りで、じっくりと癒されてもいいしね。
何だかきれいにまとまりましたね。
宣伝もしてもらったし、最後におまけの一杯、 いかがですか。
えっ、本当に。
わ~い。
わ~い。