テイスティング・ルーム第11回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1989年トマーチン11年(SMWS)
- 1993年スプリングバンク7年(SMWS)
- カリラ11年ラム・フィニッシュ(チーフテンズ)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。いよいよ今秋、40の大台に。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今日は、スコッチ・モルトウイスキー・ソサエティから新しく出た2本と、 チーフテンズから出されたカリラを持ってきました。
この3本は、どれもちょっと変わった個性・味付になっていますので、 テイスティングでもその表情を楽しめると思います。
1989年トマーチン11年(SMWS)
最初はソサエティから出された トマーチンの1989年蒸留で、 11年熟成です。
変わった個性と言うのは、スペイサイド・モルトなんですが、 ピーテッド・モルトを使っていて、 ピーティーなスペイサイドであるところですね。
SMWS日本支部のデヴィッド・クロール氏がおすすめの モルトということで、いったいどんな出来になっているか。
また、トマーチン自体では、 さほど魅力的ではないのかも知れませんが、 スペイサイド・モルトとしては珍しく ピーティーに仕上がっているところが、 どのようになっているか。
こんなところを楽しんで頂けるのではないかと思っています。
熟成11年ですから、あまり色の方は濃くないようですね。
(と言いつつ、グラスに注ぐ)
薄い色ですね。
若さゆえでしょうかね。
キラキラしてきれいな色ですね。
白ワインみたいだ。
なるほど、本当に。
足はあまり長くない。サラサラした印象。
(各自、ノージングに移る)
うう。私が好きな、に・お・い、だ。
フルーティーな中にちょっとバニラっぽい。洋梨かなぁ。
どっぷりとした甘い香りのなかに、ピートっぽさ、スモーキーな印象がある。
トマーチンは、桃のフレーバーがあるということで有名ですね。
桃かあ、なるほど。
スモーキーなスペイサイド・モルトとして、ソサエティの日本支部は大層喜んでました。
切り立てだから、やっぱりツンと来るようなアルコール臭もあるね。
アルコールの度数が62.7度と高いですから、 最初に味をみたら、加水してもらった方がいいかも知れません。
えっ、そんなに強いの。
うん、こりゃ強い。
たしかに強いけど、甘みも迫ってくる。
日本の典型的なブレンデッド・ウイスキーのような味がする。
香りのときに感じたのとは、味の印象がガラリと変わっているようで…。
咳止めシロップの甘さ。
透明なやつで、桃の味のするのあるでしょ。
でもね、ピーティーな印象は、飲み下してから、奥の方から沸き上がってくる。
うん、うん。
香りで感じたフルーティーな印象は、飲んでいるときにはあまり感じません。
確かにそうだね。
やっぱり、昔のサントリーオールドの味がするようなんだけど。
昔のブレンド・ウイスキーって、わかります。
なるほどねって感じで。
昔のブレンデッドという風に感じられるのは、 このウイスキーのピーティーな個性についてですね。
昔の国産ウイスキーっていうのは、人工的にピーティーな香りをつけていたんです。
これについて言えば、天然のピーティーさですけどね(笑)。
僕らはよく、煉瓦の味がするって言ってましたね。
れんが?
ちょっと土っぽい感じのピート感ね(笑)。
昔のサントリーレッドって、煉瓦の味がしてたんですよ。
へぇ~っ。
子供の頃に、いたずらして舐めたオールドみたいだ。
これ度数が高いから、加水してみた方がいいんじゃないかな。
きっと硬さが取れて、華が開いてくると思うよ。
じゃ、加水してみましょう。
加水した方がスモーキーですね。
甘い香りも強くなって前に出てきました。
うん、天然のスモーキーさをはっきり感じられるようになった。
それに加えて、桃の香りもしっかりと出てきた。
こりゃあ、桃の薫製みたいだ。
煙が目に染みる(笑)。
ああ、杏とか桃とかの香りもする。
苦さも強くなってきたかな。塩辛い。
加水した方が、複雑で多彩な味の表情が感じられる。
加水して、硬さが取れて蕾が開いてきた感じですね。
舌の上で、軽く踊っているような華やかさ。
加水した方がトマーチンらしい桃っぽさとピート感がしっかりと出てきますね。
加水によって、国産ウィスキーっぽい人工の味、煉瓦っぽさも無くなるし。
面白いモルトですね。
うん、これは、いいや。
でも、勘違いしちゃいけないのは、ピーティーさといっても、 アイラ島のピートとは本質的に違うので、 薬品臭とかの強烈な個性にはならないということですね。
Iさんは、どんな時に飲みたいの?
投げやりになったとき、捨て鉢になったときかしら。
また過激な発言ですね。
全体として複雑な表情をした華やかな世界にグイって引き込まれてしまいたいなって感じ。
変化を与えてくれそうで、元気が出てきそうで。
でも、ちょっと遊び人っぽい、危険なヤツって感じもあるわ。
Tさん、何に喩えましょうか。
アオザイを来て、田植えをする、ベトナムの娘って感じかな。
すごい、叙情的。
何だか目に浮かぶわ。
でも、どうして?
ちょっと泥臭いところもあるけど、華やかで、たおやかな感じかな。
アイラ島のピーティーさは、海とか潮とかを感じるんだけれど、このトマーチンは 池とか湖のイメージだよね。
やっぱり淡水なんだよね。
まあ表情豊かで、おいしかったけれど。
本当に。
1993年スプリングバンク7年(SMWS)
それでは、次に行きましょうか。
次も、スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティからの一本です。
蒸留所はスプリングバンクで、 1993年蒸留の、熟成期間は7年です。
アルコール度数は59.9度ですね。
これのちょっと変わった個性というのは、 フレッシュ・シェリー・カスクで短期間熟成された スプリングバンクだということです。
どんな表情をしているのか、 テイスティングのなかで感じとってみてください。
色の方は、やや赤みが出ているかな。
でも、それほど濃くはないですね。
(ノージングに移って)
蜂蜜っぽい香り。
あまり香りは強くないかな。アルコール臭が前に出てしまって。
切り立てだからですね。暫く置いてみた方がいいかな。
だんだん華やかな香りになってきた。
シェリー独特の香り、ちょっとオイリーな感じ。
甘い香りは、蜂蜜のような。
これはアカシアから取れた蜂蜜の香り。
ちょっとやわらかくてネットリとした甘さ。
あんまぁ~い。
舌にヒリっとくるけれど、とってもおいしい。
甘いけれど、舌に乗せた後から、スモーキーさが出てくる感じ。
口に入れた時には、ひたすらに甘い。
角砂糖を口に含んだように。
ネットリした印象の後に、ピリピリとした刺激が舌に来る。
それでも全体の味の個性としては、シェリー感ですね。
本当にそうですね。
でも、7年でここまで仕上がると言うのは良い出来ですね。
きっとフレッシュなシェリー・カスクを使っているんでしょうね。
加水してみましょうか。
加水してみると、舌先の刺激が消えますね。
ピリピリ感はなくなりますけど、グっと喉に迫ってきます。
ああ、ほんとだ。僕もいま、むせるような感じがした。
確かにアタックが来るね。
でも、ボディ感が無くなって、平板な感じになってしまった。
どっちが面白いかと言われれば、加水しない方が良いかもしれませんね。
まあ、若いから仕方ないのかも知れませんね。
加水前は舌に残るボディーと微かなピート感、加水後は喉に来るアタック。
全く違う表情を見せるところは、まあ面白いとは言えるかな。
こういう余韻の残り方も、まあ悪くはないかな。
だんだん弱くなってきた。
加水すると弱くなってしまいますね。
これは若い男と一緒だね。
畳み掛けるようなパワーは強烈にあるけれど、粘りとか持久力とかはないように思う。
30分くらい置いておいたらベタベタになってしまうとか。
いや、これは反対に気が抜けてしまうんじゃないかと思いますね。
ちょっと置いておいたら、洗濯石鹸みたいな感じの味になってきたかな。
ちょっとほっとしたかな。
同年代の同性の友達って感じ。
一生懸命がんばっているけれど、まだまだ力不足みたいな、弱い部分もあって。
ちょっと太り気味のみつばちマーヤ。
ああ、なるほど。そんな感じもあるね。
後味の余韻とかも、決して悪くないんだけど。
これで、15年熟成だったら、もっと楽しめそうなんですけどね(笑)。
カリラ11年ラム・フィニッシュ(チーフテンズ)
さてさて、本日最後の一本に行きましょうか。
チーフテンズがボトリングしたカリラです。
1990年蒸留の11年熟成で、 アルコール度数は加水調整されて43度になっています。
今日のカリラの個性は、ラム樽で仕上げられているところです。
今年最初の頃のテイスティングルームで、 ゴードン&マクファイルが瓶詰めしたカリラの、 カルヴァドス樽、ワイン樽、コニャック樽で仕上げられた物を それぞれテイスティングしていただきましたが、 その時のこともちょっと思い出して、 味わってみてください。
色はやや薄めの琥珀といったところかな。
液体は、しっかりとしたボディ感が感じられますね。
切り立てだからちょっと強い揮発臭、トルエンっぽい感じ。
ああ、カリラ独特の男性的な香り。
ほんとですね。潮の香り。
でも、その奥から、しっかりとしたラム樽の香りも出ている。
絶妙で、立体感のある香りのバランス。
カリラの個性だけでない、なかなか完成度の高い香りですね。
味の方はいかかでしょうか。
(グラスを口に運んで)
おおっ。
うわぁっ。
これは、これは。
(しばし、沈黙・・・)
すっごく、おいしいです(笑)。
シャープな辛口の印象と、ラムの濃厚な甘さが、うまくまとまっている感じ。
ボディ感もしっかりとある。
上質の樽の個性が出ている。
塩をまぶしたラムレーズン、濃厚なレディボーデン(笑)。
今日もうまいね。
冷たくはないけど。
カリラで、こんなにしっかりとボディの出ているものは珍しくないですか。
そうですね。
カリラは比較的軽やかなものが多いですね。
ちょっとチーズとかの、乳製品のような印象もあるんだけど。
ネットリ感とか。
へえっ。
乳製品っていうのは、わかんないけど、ネットリ感とかなら判るよ。
舌の真ん中奥あたりを刺激する感じだね。
加水してみましょうか。
うん。これも、なかなか。
これも良いですね。腰折れしないで、表情がよりハッキリしてくる。
本当に。ぐっと来ます。
はっきりとした顔立ち。塩っ辛さがマイルドになってきた。
時間がたって、最初のアルコール感がなくなってくると、さらに味わいが増してきますね。
たしかに。
飲み込んでから、しっかりとしたラムの余韻が長く続くのも嬉しい。
軽やかさを越えてしまった、フルボディのカリラ、素晴らしいですね。
3本の総括してみると、どんな感じになりますか。
一番はトマーチンかな。
やさしそうだけれど、表情豊かでグイグイ引っ張ってくれるところ。
スプリングバンクは、隣にいる親友みたい。
普段着で付き合えるみたいな。
今日の私は刺激を求めているのでしょうか。
もしかして我を忘れたいとか?(笑)
僕は、カリラが一番。
カリラ、スプリングバンク、トマーチンの順かな。
スプリングバンクは、味の変化が面白い。
トマーチンは自分では注文しないんじゃないかと思う。
なんとなくだけど。
僕も、一番は、カリラだと思うね。
最初の香り、舌に乗せた印象、喉でのボディ感と味わい、 加水後の表情の変化、そして長く続く余韻。
トータルにみてひとつの完成された世界になっている。
スプリングバンクは、若さとパワーはあるけど、それ以上の何かが足りないように思うね。
自分の求めているスプリングバンクらしさとは、ちょっと違うみたいだね。
トマーチンの、桃の薫製、けっこう面白い。
楽しめる感じがする。
Kさんの星の数は?
そうですね。
スプリングバンクは、星2.5。
トマーチンが星3.5。
カリラは、満足感の高さ、完成度の高さから星4.5といったところでしょうか。
なるほど。