テイスティング・ルーム第6回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1989年ダルモア11年(アデルフィ)
- 1988年グレンファークラス12年(オフィシャル)
- 1970年ハイランドパーク30年(SMWS)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
今回は風邪でダウン。お休み。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1989年ダルモア11年(アデルフィ)
今日は、Tさんがお休みですので、みなさん、しっかりと、ユニークなコメントをお願いしますね。
(I&K、うなづく)
今回は、三本とも、期せずしてシェリーカスク特集になってしまいました。
最初の一本ですが、先月(前回)、モートラックとマッカランをご紹介したアデルフィがボトリングしてきたダルモアです。
ヴィンテージは、1989年蒸留の、11年ですね。
アルコール度数は57.2度と飲み頃になってきているのだろうと思います。
(ボトル越しに中身を見せながら)
色は、ご覧の通り、真っ黒に見えますね。
本当に深い色ですね。
へ~ぇっ。
(ボトルを開き、グラスに注ぐ)
色は深いですが、シェリー樽熟成の赤身がしっかりと出ていますね。
見た目では、味の方は、さほど重そうな感じもないですね。
(ノージングしながら)
麦の香りとシェリーの香り。
とても良い感じですね、この香りの交じり方は。
はぁーっ。(嘆息)
(テイスティングに移る)
最初、甘みと苦みが出てきますね。
僕は、苦みよりも甘みの方が前面に出てきているように感じられるなあ。
はなやかな甘さ。ウワッと来るほどに、アルコールは強くない。
確かに、若い割にはアルコール感は強くはないですね、
モルトの若さは感じるんですが。
フレッシュな感じですね。
若いモルトの特長には二通りの出方があると思うんですよね。
アルコール度数の高さ、アルコール感が前面に出て、襲い掛かってくるものと、
もう一つは、青っぽさとか、爽やかさが包み込んでくるようなものと。
これは明らかに後者ですよね。
青っぽい個性としては、ちょっとミントっぽいようなものもありますよね。
だんだん甘みが増してきたように感じます。
うん確かに、甘さが濃くなってきた。
黒砂糖っぽい感じが出てきましたね。反対に、麦の味と香りは弱まってきています。
「サトウキビ畑」って感じになってきましたね。
舌の上で広がっていくというよりは、こもっていくような。
こもったまま、そこにいるという印象があります。
うん、うん(うなづく)。
確かに、まとまっていくという感じありますね。
パーッと広がっていかないで、一個所に固まりとしてまとまっていくのでしょうね。
拡散と凝縮で言えば、凝縮していくイメージだね。
ダルモアは、19世紀中頃に設立された、比較的トラディッショナルな蒸留所で、
1870年頃のポットスティルを現在も作っているなど、創業当時の姿を色濃く残しています。
蒸留所としての規模は大きいのですか?
規模は大きい方でしょうね。
ポットスチルは当初ツーペア・4基あったのですが、1960年代に増設して、同じ形で、大きいサイズのポットスチル、ツーペア・4基を対称位置に設置し、現在8基体制で稼動しています。
ポットスチルがとても個性的で、初留釜はボテっとした円柱の釜から、いきなり首が出ているものです。
ローモンドスチルのような形ですね。
再留釜の方は、円柱の上部に行けば行くほど扇のように広がっていって、そこから首が出ています。
コンデンサー冷却を行っているのですが、置き場所はあるものは室内、あるものは室外。
置き方も、タテ置きあり、ヨコ置きありで、様々です。
初めて見たときには、建物のレイアウトにあわせて、まったく無造作に置かれているように思ったのですが、よく見ると、初留・再留でちゃんとヨコ・タテになっていて、計算され、統一されているところが判って、感心しました。
はぁ~っ、へえ~っ。
シングルモルトとしては、今一つ人気がないのですが、
この手の濃いシェリーのタイプには面白いものが多いですね。
だんだん、甘く、強く、濃厚になってきましたね。
余韻のほうも長くなってきました。
最初は、若さとか青さとかが前面に出ていたのに、
時間とともに長さや厚みが出てきて、面白いですね。
度数も高いことだし、ちょっと加水してみましょうか。
麦の香りが、再び蘇ってきましたね。
度数も下がって飲み易くなりましたね。
でも、味の方は、やっぱり黒砂糖だ。
かなり濃厚な甘さですね。
シェリーカスクの個性については、甘みの出るものと、そうでないものと
二通りあると思うんですが、樽に詰められていたシェリーの種類によって変わってくるんですよね。
オロロソだと甘さが強くなり、フィノだとそれほど甘くならないようですね。
とくに、オロロソでも甘口のものだと、砂糖甘さが前面に出てきます。
へぇ~、ふう~ん。
これはまた飲んでみたいな。面白い。
良いモルトですね。
強く甘みを感じるんですが、しつこくないところが良いですね。
いやらしい甘さではなくて。
麦芽糖の甘さですから、砂糖のような「しつこさ」は無いでしょうね。
1月に飲んだアランのフル・シェリーは、蜂蜜のチョコレートのような、強引に引っ張ったようなところがあったんですが、
こちらの方は爽やかな甘さが凝縮されていて、グッっと来るものがあります。
私も、また飲んでみたいですね。
1988年グレンファークラス12年(オフィシャル)
それでは、次に行きましょうか。
いまや、独立系蒸留所の巨星として頑張っている、グレンファークラス12年のフランス向けボトルですね。
「1988年ヴィンテージのフレッシュシェリーバット」とわざわざ断り書きがしてあります。
アルコール度数の方は、46度に加水調整されています。
従来から、ヴィンテージの入った蒸留所ラベルは、たくさん出されていましたよね。
限定ボトリングではあります。
ただ、従来の限定ボトルはナチュラル・ストレングスのものが多かったですが、今回のものは、ヴィンテージ入りで加水調整されていますね。
これは、12年ですからさほど熟成期間は長くないのですが、フレッシュ・シェリー樽に詰められていたので、かなり濃く良い色に仕上がってますね。
(グラスに注ぐ)
さっきのダルモアほどではないけれど、しっかりと赤みが出ているね。
(ノージングしながら)
麦の香りと、フレッシュ・シェリーの香り。
先ほどよりも、香りは押さえた感じですね。
ちょっと溶剤っぽい感じもあります。
切り立ては、どうしてもアルコール感が前に来て、
多かれ少なかれ溶剤っぽさを感じることが多いと思いますね。
(テイスティングに移って)
甘いです。ただし、ダルモアとは違う個性の甘さですけど。
素直で、控えめな甘さを感じます。
舌の上に乗せたときの、松脂っぽい、樹液っぽい印象は、
グレンファークラスの個性としてよく感じるものだと思いますね。
あと、グレンファークラスらしいスパイシーさが、甘さの奥の方に広がりますね。
上顎とか奥の方とか、口の中全体に広がっていきますね。
もう少しボディがあるかなと思ったんですが、あまり感じませんね。
やはり熟成が12年と若いからではないでしょうか。度数も押さえられていますし。
後から来る舌の上のヒリヒリ感は、グレンファークラスの個性として、時々感じることのあるものですね。
ほのかな淡い甘さと、その後ろに広がる苦さが独特の雰囲気で、口のなかに良い感じで、広がっていきますね。
これは限定版の割には値段も手頃なので、おすすめだと思います。
時間が経って、最初の溶剤っぽさは抜けてしまいましたが、
香りの印象はあまり変わりませんね。
グレンファークラスは、そうですね。
ダルモアの方は、随分置いたらゴムっぽくなってきましたよ。
あっ、本当に。
グレンファークラスの味について、僕自身が持っている印象は「琥珀」なんです。
まあ、樹液という方が的確なのかもしれませんが、樽の持つ脂っぽい印象、少しオイリーで、コクがあって、舌の上でジンワリ乗っかってくるような、甘みとエグみが共存しているような。
琥珀そのものは味わえませんけどね。
まあ、そうですね。
これは、加水しても、あまり印象は変わりませんね。
加水で、ちょっと飲み易くはなりますね。
引きが早くなった感じもします。
そろそろ、三本目に行きましょうか。
1970年ハイランドパーク30年(SMWS)
今日の三本めは、スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ瓶詰めのハイランドパーク30年です。
ヴィンテージは1970年、シェリー・バットで、アルコール度数は52.5度です。
先日のソサエティの会員向けの試飲会では、押すな押すなの大人気。
開けても開けてもすぐに無くなってしまう状況で、結局飲めない会員さんからの不評を買っておりました。
当然ながら、こちらは既に市場では「SOLD OUT」となってしまっています。
(グラスに注ぐ)
わー、すごい色。
ビーズの立ち方が全然違うでしょう。
本当に、ビーズが全然消えない。色は、赤みがかった濃い琥珀色。
今日飲んだダルモアとグレンファークラスの中間くらいの色の濃さかな。
(ノージング)
ああ、これは凄い。
ファースト・アタックは溶剤っぽいんだけれど。
後は、甘く、強い香り。
凄ぉ~い。引き込まれそう。
フルーティ、白葡萄、蜂蜜、麦の香り。
いやあ、凄い香り。この香りだけでもいいわ。
また、袋に入れてしゃがんじゃうの?(笑)
それにしても、ハイランドパークの30年なんて、なかなかお目にかかれないですよね。
オフィシャルでも25年くらいが最長でしょうからね。
まして、シェリーのシングル・カスクですから。
(テイスティングに移って)
甘くて、スパイシーで、フルーティ。
もっとドカンと来ると思ったんだけれど、意外にやわらか。
香りの通り、舌のうえでも引き摺りこまれそう。
口に非常に馴染むのに、溶剤っぽさは個性としてある。
物凄く、物凄く、色気を感じる。
杉良太郎の流し目?(笑)
本当にヤバイ。
ヤバイよね。
実に口に馴染みが良くて。
いやあ、これは!
口にウワッと広がって、しっかり余韻が残って。
ウワァっ!
甘すぎず、苦すぎず、フルーティ過ぎず、溶剤過ぎず。
とてもバランスが取れていますね。
凄ぉ~い!
うん、ベスト・バランス。
Ah!!
味的には、決して薄くも無いし、しつこくも無いし。
ううん。駄目だ、コリャ。もうメロメロだわ。
SOLD OUTだから、もう買えないよ。
やっぱり、ここで飲んでもらわなきゃね(笑)。
いやあ、どうしよう。
シェリー樽仕上げのモルトで、今までに僕が飲んだ中では、これが最もバランスが取れていると思いますね。
ベスト・バランスという点で、これに匹敵するものと言えば、スプリングバンクの1965年蒸留の35年熟成があるのですが、アルコール度数が46度くらいなので、このハイランドパークの持っている「力強さ」がないように思いますね。
なにしろ、こちらは度数52度と高く、しっかり口の中に広がってきますから。
ダルモアのように凝縮されてわけでもなく、グレンファークラスのような広がりでもなく、このハイランドパークは、口に入れた瞬間に、ズワーっと染み込んでくるところが、とてもパワフルですね。
時間が経って、甘さが前に出てきたような感じもあります。
ハイランドパークって、こんなにうまかったっけ?(一同、笑)
ああ、本当にメロメロだわ。どうしよう。
ハイランドパークらしいピート感とかは、ほとんど感じませんね。
ハイランドパークの場合は、年数が長くなると、あまり感じなくなりますね。
きっと今感じている味の後ろに潜んでいるんじゃないかと思いますがね。
52度ですから、加水してみてください。
お約束ですから。
本当は、薄めたくないんですけど…。
薄めたくない、薄めたくない。
(両名とも、イヤイヤながら、少しだけ水を加える)
全体のトーンは落ちて、甘さが前に出てきますね。
引きずり込まれるようなパワフルさは弱まってしまうね。
「ベスト・バランスの個性」って言ったんだけれど、たとえば、モルトのプラスの個性が6角形のグラフで表わされるとしたら、どちらの向きにも満点って言う感じで、強いパワーがあるからこそ、香りや味に引き込まれてしまうんじゃないかと思うね。
「何が凄いの?」って聞かれたら、「全部凄い」って答えるしかないみたいな。
うん、凄い。加水したら、勿体無い。
しっかりと熟成感はあるんだけれど、重たくはなくて。
典型的な、良いウィスキー。
ダルモアは、南方系の甘さ。
グレンファークラスは北方系の甘さ、酸味があって軽みがあって。
でも、このハイランドパークについて言えば、何か別の次元ですね。
これは、甘さでは語れないのですね。
「あなたにとってのTHE・モルトウィスキーは何ですか?」と聞かれた時の、1つの答えかなという気がしますね。
ワタシ的には「出会った」っていう感じですね。
「惚れたかな」って感じ?
そう、そう、そう、そう、そう。
あー、つかまれたみたいな。
これは、やっぱりハイランドパークらしさっていうものと違う次元にあるように思いますね。
オフィシャルの25年や1967の延長線上にあることには違いないんだけれど、全く違う世界観に到達してしまったような。
ああ、駄目だ、やっぱり。
気持ちが取られちゃう。
すごいわ、これ。
ダルモアは、馬車みたいだなって思ったんです。
グレンファークラスは、スマートな電動自転車みたいな感じだったんです。
でも、ハイランドパークを飲んでしまったら、それまでの感覚は全部吹っ飛んでしまって、まったく表現することが出来なくなって…。
もう、いたくお気に入りです。
今日飲んだ最初の二本について言えば、ダルモアは今まで飲んだダルモアと比べて良いとか、悪いとか表現できるし、グレンファークラスでも、オフィシャルより好きとか、限定のこれよりはこちらが良いとか言えるレベル感にあるように思いますね。
ところが、今日飲んだこのハイランドパークは、ハイランドパークと言いながらも、まったく違うものとしてしか理解できないほどの魅力・パワーがあるんだよね。
これはですね、30年超のソサエティ・ボトルに特有の、「ソサエティの言う、『良いウィスキー』」っていう世界ですよ。
以前のスプリングバンクとか、ロッホサイドのダークシェリーとかにもあったのですが、ソサエティが選ぶ「良いウィスキー」の形ですね。
誰が飲んでも、うまいって言ってしまう。
飲んだ人は誰も裏切られずに、皆が幸せになってしまうみたいなやつですね。
まさに別格って感じですね。本当に凄いわ。
Iさんが、「いたくお気に入り」って言うのは随分久しぶりですね。
いやあ、今回は、取り乱してしまっています。
こんなにグイって掴まれたのは、生まれて初めてかも。
やっぱり、ご縁は大切にしなきゃね。
「SOLD OUT」になってからでは遅いからね(笑)。
…(微笑)。
(その頃)
く、苦しい…。
おのれ…コノウラミハラサデオクベキカ…。