テイスティング・ルーム第24回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1999年アイル・オブ・ジュラ(マシュー・フォレストPB)
- ザ・カスク・オブ・ヤマザキ9年(オフィシャル)
- 1993年アードベッグ9年(SMWS)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今日は、スペシャル・ゲストをお迎えしました。
S社・原酒生産部のFさんです。
先頃、日本にお帰りになられましたが、それまではグラスゴーにある B社のオフィスに駐在されて、現地でB社の経営、 主にウイスキーの在庫管理を行っておられた方です。
はじめまして。
よろしくお願いしまぁ~す。
よろしくお願いしまぁ~す。
こちらこそ、よろしくお願います。
1999年アイル・オブ・ジュラ(マシュー・フォレストPB)
今日テイスティングしていただく3本は、最近発売されたピーテッド・モルト3種です。
ほお。
最初の1本は、アイル・オブ・ジュラ(以下ジュラ)の1999年。
という訳で熟成期間は3年と、 とても若いモルトです。
アルコール度数はナチュラルで60.7度ですね。
ご存知の通り、ジュラはノンピートの麦芽で やってきているわけです。
ところが先年、ブルイックラディを手放したことと 関係があるのかどうかは判りませんが、 1999年になって一度ピーテッド・モルトを使用して 作られたモルト・ウイスキーがありました。
実は私、2000年にリチャード・パターソン氏の ブレンダー室を訪ねまして、 これのスピリッツは試飲させてもらってました。
ところが今年になって、例の謎のスコットランド人、フォレスト氏が わずか3年半でボトリングしてきたのが、このボトルです。
スコットランド生まれのアメリカ人。
これもまた謎なんですが、彼自身が蒸留所のオーナーであるキンダール社と どういう繋がりがあるのかはわかりませんが、彼のプライベート・ボトリングは、 いつもオフィシャル。ラベルが貼られてくるんです。
へえ、そうなんですか。
しかも今回はなんと、オフィシャル・ラベルの上に、パターソン氏と ジュラ蒸留所のマイケル氏のサインまで入っているという。
物凄いコネですね。
謎の、プライベートのオフィシャル、味わってみてください。
開けただけで、立ち上がってくるこの香り、すごいですね。
色は、少し薄めの琥珀、くすんだ感じ。
ちなみに麦芽は、ポートエレン・モルティング社製です。
最初の印象は、ピーティー。
その後にスモーキー。
でも、とても豊かな香り。
若いけれど十分に出来ている感じですよね。
凄いですね、とても好きな香りです。
最近飲んでいないタイプだけれど。
最近は、シェリーに転向ですもんね。
この浮気者(笑)。
えへへ。
確か、この製造は99年の初頭だったと記憶しています。
おそらく相当な量を作ったんじゃないかと思いますね。
そうですね。
ジュラ蒸留所はポットスチルも巨大ですから。
あそこの1ロットは、かなりの量になると思いますよ。
ピートのスモーキー・フレーバーは、すぐには出ずに 余溜液にドンドン溜まっていくんですよ。
ある程度、何回も蒸留を繰り返さないとミドルカットの方には出て来ないんです。
ほお。
ですから、初溜段階では蒸留液にスモーキー・フレーバーが出ても、 再溜ではすぐにミドルカットには出て来ない。
何度も何度も蒸留を繰り返すうちに、余溜液の方に溜まっていく。
逆に、こういうピーテッドなものをしばらく製造した後にノンピートに切り替えても、 ある程度の期間は、ピーティーな個性のスピリットを作らざるを得ない。
ふ~ん。
ひとつの蒸留所で、ピートで異なる二つの個性を同時に作りたい時に、 どうするかと言うと、スモーキーフレーバーのある余溜液を 別のタンクに取っておくんです。
なるほど。
こういった製造面の苦労があるので、ジュラでスポット的にやったと聞いて どうなのかなと思ったのですが、香りにも、味わいにも十分に スモーキーさが出ていますね。
何度も釜を回して、いい出来になっているなという印象です。
ピーティーな味わいのなかに、生クリームのような甘さを感じます。
それは、モルトの若さから来る特徴ですね。
酒の若さと、スモーキーさとが、うまくバランスしているように思います。
最近のジュラは、オフィシャル・ボトルの10年が信じられないくらいに 良い出来になっているんです。
また、ボトラー物でも美味いものが多いですね。
これは、小豆のような甘さ。
小倉&生クリームでしょうか。
ああ、小豆ね。なるほど。
先日、別のモルトをテイスティングしたときに、 強く小豆を感じて大福のようだった(笑)。
今日のは、それほどではないけれど、やはり小豆の味わいは感じる。
あと結構、塩辛さも感じる。
Sさんにとって、今日のモルトは「塩大福」ですか?
ハッハッハ、そうね。
若くて、ピーティーなモルトだから、Sさん好みですよね。
はい、大好きです。
アイラ・ガール。
うふふ。
この個性は、いかにもアイラのピートですよね。
しっとりしていて。
パターソン氏は、アイラの個性をピートとは言わないんですよ。
彼独自の言い回しかも知れないんですが、石と言うんです。
ピート色した石を指しては、さかんに「石が、この石がアイラなんだ」と力説していた。
ああ、悪くないですね。
1年のうち5分の1くらいはこんな酒を造ってほしいと思います。
キンダール社のグループは、ノンピートを沢山作っているわけですから、 ジュラでピートを作ったって良いじゃないかと思いますね。
確かにそうですね。
今、ジュラでピーテッド・モルトを作っていたら、 シーバス・グループにも原酒供給できるでしょうね。
ははは、なるほど。
シーバスは、今どこから買っているんですか。
おそらくラフロイグ蒸留所から買っていると思いますね。
ただ現地では、どの蒸留所も自社向けで手一杯な状態で、 ブレンド用のアイラ・モルトは品薄な状況です。
UDV傘下のカリラ蒸留所が、ブレンダー向けに供給していますが、 グループのジョニー・ウォーカーもピーティーな個性を前面に出していますし、 あまり余裕がないんじゃないかと思います。
なるほど。
ジュラが出したピートという、最初に聞いたイメージよりは、 うまくまとまっていると思いますね。
3年の若さ、アイラっぽい個性は良いと思いますね。
塩っぽさもあるし。
個人的には、じっくり残る、余韻が長い方が良いんですが、 それを求めるには3年という年数は短すぎるかも知れないですね。
そういうことでしょうね。
これは私見なんですが、テスト生産ということで普通の樽よりも 小さい樽を使っているのではないかと思いますが。
そうですね。
おそらくバーボン・バレルの新樽、ファースト・フィルでしょうね。
いつも新樽と聞くとNew Woodを連想してしまうんですが。
そうですか。
New Woodという意味での新樽であれば、グレンフィディックとか、 グレンリベットあたりが出していますね。
グレンゴインのスコティシュ・オーク・フィニッシュが 新樽と言われていましたが、ウイスキー・マガジンの記事によると、 New Woodの樽にグレーンを3ヶ月入れた後に詰めたものだと 書いてありました。
ああ、新材のアク抜きにグレーンを入れたということですね。
そのときに、個人的にこだわりたいのは、 本当に「木の素材」だけを名乗っていて良いのかということです。
普通は、シェリー樽のセカンド・フィルとか、バーボン樽とか言っているのに。
この場合には、グレーンを入れた後のスコティシュ・オーク・ フィニッシュと言わなければならないと思う。
相変わらず、ディテールに、ミクロに入ってきますね(笑)。
でも、アク抜きだけだったからということですよね。
実は、S社のカスク・オブ・ヤマザキの第一弾が出たときにも 私は違和感を感じました。
バーボン樽とシェリー樽ときて、3本目がミズナラの樽だった。
ミズナラのNew Woodかと思って聞いてみたら、そうではないと言う。
モルトかブレンデッドを入れていたが、記録が残っていないということだった。
私自身も、バルベニーのアイラ・カスクというものについて、 Sさんと似たようなことが、気になっているんです。
熟成年数は17年で表示されているんですが、 飲んでみると、とても若い印象があるんですね。
それで実際に前に詰められていたアイラモルトは、 熟成年数が何年だったのだろうかと。
ああ、なるほど。
この若さは、10年か12年くらいじゃないかと感じたんです。
それで本当に17年って名乗ってもいいものかなと、 酒飲みの一人として思いました。
その場合に、前のアイラ・モルトが一滴でも残っていたとしたら、 シングル・モルトと言えるんでしょうか。
ヴァッテッド・モルトと名乗る、しかも年数は12年とするとか、ですね。
そうそう。
こういうことって気になりだすと、考えちゃうんですよ。
本当に、そうね。
あれは、15年くらい熟成したバルベニーを、 アイラ・モルトの入っていた樽、例えばラフロイグを10年熟成した 空樽に入れて、2年ほど熟成したということですよね。
そういうことでしょうね。
バッティングを狙っている訳ではないけれど、見方によっては、 バッテッドになってしまう。
先ほど、Sさんの言っていたグレーン樽のグレンゴインは、見方によっては、 ブレンデッド・ウイスキーになってしまう(笑)。
樽の話は尽きませんが、後半の味わいはいかがですか? グラスの中身が無くなってしまわないうちに。
Iさん、どうですか。
おいしいんですが、でも、ちょっと煙たくてしょうがないです。
シナモンのようなスパイシーさ、刺激。
レッドホットというアメリカのシナモン・キャンディー。
そうですね、シナモンのキャンデー。わかります。
Kさん、加水すると、どうですか。
加水すると、強いピートの味わいとシナモンの味がうまくミックスして 新しいひとつの味になったような印象です。
もうスモーキーさは感じないですね、ボーっと滲んだような、 ひとつの星雲のような感じ。
小豆の味はまだ続いている。
3年でも、こんなに美味しい味のモルトが飲めるなんて、うれしいことです。
日本に住んでいて本当に良かった(笑)。
モルトが一番買いやすいといって、日本に居付いている アメリカ人がいるというSさんの噂はかねてから聞いていました。
バーも日本、特に東京が最高です。
イギリスのバーは、モルトがほとんどないですからね。
ロンドンで、100種以上のモルトを置いているのは4軒くらいしかない。
そのうちの1軒はソサエティ(笑)。
ニューヨークでも3軒くらいしかないと思います。
そのうちの1軒は日本人が経営している。
東京なら、少なく見積もっても50軒以上はある。
また脱線するかも知れませんが、ひとつ、樽つながりで質問しても いいですか?
ええ、どうぞ。
前に入っていたシェリーや、バーボンの個性は、 小さい樽の方が早く移る。
ウイスキーとしての熟成も早く進むんですよね。
ええ、そうですね。
数学的にいうと面積は2乗に比例しますが、 体積は3乗に比例していきますので、 小さい樽ほど液の容量に対して接触する面積が大きくなる。
樽の成分が移る寄与率が高い。
大きい樽を使うことのメリットというのは、どんなことがあるんですか。
長期熟成でじっくり作りたい、 成分を時間を掛けて浸出させたいときには大樽を使います。
また、大樽を使うと欠減を減らすことができるというメリットもあります。
「天使の分け前」が減っちゃうわけですね(笑)。
最近の現地での流れとして、大樽は取扱が面倒なので、 バーボン・バレルか、ホッグスヘッドの比率を高める傾向が強いですね。
実際に現在でも大きな樽にこだわっているのは、 マッカランとUDVくらいでしょうか。
なるほど。
ひとつには、貯蔵庫の問題もあると思いますね。
大樽の場合には、ラックを組んで横積みをするわけですが、 バレルやホッグスヘッドのような小さい樽は、 ラックを使わずに平積みすることができる。
しかも高さが同じなんです。
二つの種類の樽をまとめて積んでいける。
新しく作る貯蔵庫は、ほとんどが平積みにしていますね。
日本の場合は、ラックに横積みするケースしか知りませんが、 なぜ平積みとかにはしないんですか。
日本は地震が多いから縦には詰めないんです。
なるほど。
大樽は天使の分け前が少ないということでしたが、 小さい樽だと短時間で熟成するから、 逆に生産効率が高いということの方が大きいのではないですか。
ええ、生産効率、樽の回転という面ではそうですね。
ブレンド用に早く作ろうと思えば、小樽の方がベターだと思います。
ただ、シングル・モルトをじっくりと育てようと思えば、大樽になりますね。
味の方は?
ケース・バイ・ケースでしょうね。
味わい・個性を決めるのは、樽の大小の問題も確かにありますが、 それよりも新樽を使うか、ファースト・フィルかセカンド・フィルかといった ことの方が大きい差になると思いますし、作り手としても頭を使っています。
樽を準備するコスト、値段ということでいえば、 新樽よりもファースト・フィル以降の方が安いということもできます。
いずれにしろ、目的・狙いによって、組み合わせを考えていくということですね。
そういうことです。
ただ、作り手としては、大樽を一切やめてしまうというのは疑問に思います。
一定量は大樽でじっくりと寝かせながら、より上質なもの、 磨かれたものを作り上げていきたいですね。
単に経済性、効率性を追求するだけではないと。
経済効率だけを追求して、大樽をやめてしまうというのは、 後々に大きなしっぺ返しを食らうのではないかと思います。
経済効率だけの酒作りはしたくないですね。
縦積みと横積みの製法上の差はあるんですか。
実はあるんです。
ホッグスヘッドは鏡面に新材を使います。
すると縦積みは片側の鏡面しか中身が触れませんが、 横積みは両面が新材に触れています。
それによって浸漬する新材の成分の量に差が出てきますね。
そうすると、バーボン・ウッドとかシェリー・ウッドは、厳密に言うと バーボン&ニューウッドということか(笑)。
シェリーウッドは、樽を組替えないのでニューウッドを使いません。
ニュー・リメード・ホッグスヘッドは、鏡面に新材を使う。
組み替えて径を大きくするために、鏡面を変えるんです。
コスト的には、組み替えたホッグスヘッドよりも、 組替えないバーボン・バレルの方が安いのですが、 ホッグスヘッドを使って鏡面に新材を残しておくことの方が 現在の品質を守れるのではないだろうか、 また、完全にバレルに移行することにはリスクがあるのではないか ということを心配して、多くの蒸留所が一定割合でホッグスヘッドを使っています。
グレンモーレンジは、ある時期から割り切って バーボン・バレルだけに変えてしまいました。
味に違いが出ますか。
味や品質というよりも、会社・蒸留所のポリシーでしょうね。
あえて言えば、ホッグスヘッドの方が新材が使われている分だけ、 樽材の木自体が持っている成分が染み出しやすいということはあります。
余市がウッディなのも、新材が使われているから?
余市については、北海道がスコットランドよりも年間の温度変化が 大きいことが影響しているだろうと思います。
少し脱線が長くなりすぎましたね。
次に行きましょうか。
はい、そうしましょう。
ザ・カスク・オブ・ヤマザキ9年(オフィシャル)
山崎のシングルカスク、 「ザ・カスク・オブ・ヤマザキ」の9年です。
バーボン樽仕上げですね。
バーボン・バレル/ホワイトオークです。
アルコール度数は58度ですね。
これもピーテッド・モルト使用です。
今回のカスク・オブ・ヤマザキ第二弾の 発売については、文句があります。
私は発売日当日、会社に残って、 注文を入れようとパソコンでインターネット に向かっていました。
そして、12時になったのと同時にオーダーを送信しました。
ところが、送信結果はエラーになってしまった。
名前と住所は全角でないとダメって(笑)。
そこで該当部分を直して送ったら、やっぱりダメって。
住所に半角文字が入ってますって(笑)。
どの文字をみても、全部全角文字だった。
おかしい、おかしいって、1つ1つ見ていったら、 スペースが1つだけ半角文字だった。
全部直して再送信したら、 バーボン樽は売り切れですから注文し直してくださいって(笑)。
仕方がないから、残りの2種類で注文し直そうと、画面を前に戻したら、 入力したデータが何も残っていない。
住所も名前も、ぜ~んぶ(爆笑)。
結局、もういいやって、やめちゃった。
半角と全角、くやしい。
申し訳ありません。
システム担当に連絡して、改善させます。
いろいろと御不満はあおりでしょうが、 味の評価は公正にお願いします。
色は薄めですね。
ゴールドと飴色の中間くらい。
香りは、先日の余市ほどピーティではないですね。
香りは、Dusty(埃っぽい)。
Dusty Good。
S社のモルトでも、もっとピーティーなものがありますよね。
先日、白州の蒸留所で飲ませてもらったモルトに、 もっとピートの強いものがありました。
正確な記憶ではないんですが、当社がヘビーリー・ピートとして、 スコットランドのモルトスター(麦芽製造業者)に発注した際に、 注文通りの出来にならなかったことが何度かありました。
これも、その時のピートではないかというイメージがあります。
予想したほどにピーティーじゃないんで、またS社のことだから、 優等生を出してきたんじゃないかなと思っていたんです。
イメージの通りかどうかはわかりませんが。
まあ、ピートとしては、ミディアムからミディアム・ライトくらいですね。
Dustyから、ちょっと鉛筆削り粉みたいになってきた。
S社の人間と言う立場を離れて言えば、 酒としてよくまとまっているけれど、 もう少し面白みがあってもいいかなと思いますね。
前回のバーボン樽の方が、鮮烈な印象が有りました。
僕はこちらの方が良いな。
味わいについて言えば、ピートの個性というよりは、 樽の個性、木の味の方が前に出てきているように思います。
ああ、確かにそうですね。
木が前面に出ていて、よく見ればピートもあるかなという位で。
香りのなかに、ミントの印象もあります。
やっぱり甘いですね。
なぜ山崎は甘んでしょうかね。
発酵の段階で、糖分を入れてるんじゃないかと(笑)。
私も、ブレンダーをやっていた頃に、 ある役員から同じようなことを言われたことがあります。
それで、ウイスキーを何十種類と用意して、いろんな人に、 甘い順番に並べてもらう官能試験をやったことがあります。
ほお。
それで、とても面白い結果が出ました。
まず最初に言えるのは、ウイスキーの甘さとは糖度の差ではないということ。
そして甘いと感じるときの甘さというのは、匂いの違い、 樽材の好みといったものによって決まり、 しかもそれは人によってバラバラであるということ。
また、アルコールの甘さが好きな人は、樽の個性がない、 薄いものを選ぶ傾向がありますね。
糖度だけで決まらないんですね。
ええ、そうなんです。
その時に、私がその役員に言ったのは、 「貴方のいう甘さというのは、どの甘さですか」ということです。
甘さの概念を、全く逆の視点で捉えている人が大勢いますと。
なるほど。
感じ方や、体調にもよりますからね。
そうですね。
以前飲んだ時は、長時間置いたものだったんですが、 そのときは、ミントが強くて土っぽい感じでした。
土っぽい香りはピートによって決まるんですか。
大半は貯蔵環境によるものですね。
樽が貯蔵庫の下の方にあると、湿度が高くなって、 土っぽくなることが多いです。
地面が近いから(笑)。
いえいえ。
ただ、南向きで割と乾燥している貯蔵庫の方がベターだ という見方をしますね。
加水するとどうですか。
そうですね。
加水したら、クリーミーな甘さが前に出てきました。
水を入れるまでもなく、無くなってしまった。
私は、皆さんのやり取りに夢中になっていたら、 いつしか知らない間に蒸発してしまいました。
天使に取られちゃったのかしら?(微笑)
1993年アードベッグ9年(SMWS)
最後のピーテッド・モルトに行きましょうか。
スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティが瓶詰めしたきた アードベッグ93年。
8年熟成で、アルコール度数は59.8度です。
これも人気が高くて、12月の発売日当日の開始時刻早々に、 完売してしまったボトルです。
電話受付は不公平や不満が出るから、 抽選にして欲しいよね。
全然電話が繋がらなくてね、これも買えなかったよ(笑)。
では、マニア垂涎の一本、どんな味になるでしょうか。
凄く、華やかな香り。
ジャムみたい。
キャンディー、綿菓子。
セメダイン。
セメダイン&ジャム。
この当時のアードベッグ蒸留所は、 ラフロイグが運転していた時期にあたりますね。
ラベルのコメントが「メイフラワーとスワフェーガ」。
メイフラワーは5月の花。
スワフェーガって何ですか。
知らないよ。
スコットランドに住んだことないもの。
日本の人は、M・ジャクソンのコメントがみんな判っていいですねって言うけど、 生活習慣も食べ物も、アメリカとは違うんだから。
Trickleも、Pairdropも、わ・か・ん・な・い(笑)。
この香りは素晴らしいと思う。
あ、これさあ、ちょっと。
いや、やめとこ・・・。
Fさん、正当な評価であれば、何でも結構ですよ。
気になったことがあれば、言ってください。
これは、我々が言うところの、「ダイアセチル」ですね。
どういう現象なんですか。
これが起こるのは二種類ありまして、 発酵槽から蒸留釜に移る間に空気が大量に巻き込まれる場合と 酵母以外の微生物が入り込んでしまった場合に、こういった香りがでます。
それは、アクシデントと言えるものなんですか。
まあ狙ってやるものではないので、トラブルやアクシデントの一種 ということにはなると思います。
ただし、ダイアセチルは、香りに甘味と厚みが出るので、 ちょっと入っている方が良いという人もいます。
ただし度を越えてしまった場合には、トラブルになってしまいます。
つまりウォッシュが酸化してしまったということですね。
端的に言えば、そういうことです。
私は、このトップの厚ぼったい感じはあまり好きではないです。
ボディと捉える人もいれば、一度気になりだすと 不快感を感じてしまう人もいます。
私も、ちょっといやな感じがしています。
我々は、「つわり臭」とも読んでいます。
これは、ちょっとオートミール系とかの感じもします。
ああ、白粥の上澄みのような感じですね。
でも、口に入れると完璧にアードベッグ。
黴っぽい感じ。
アオカビ。
ブルーチーズですね。
なるほど。
この当時、ラフロイグが運転していた時期ですから、 ポートエレン・モルティングを使っていた頃だろうと思います。
ただ、ピートを減らしていた時期ですし、 ラフロイグのモルトは使っていないでしょうね。
当時は、ラフロイグは自社消費で手一杯だったと思いますね。
味わいの中に、旨みを感じますね。
何だろう。
それでも不思議にアードベッグなんだよね。
う~んと、椎茸、きのこっぽい感じ。
苦味とか、えぐみだったら感じるけど。
いやあ、厚みと旨みを加えているように感じられますけど。
おいしいです、本当に。とても贅沢な感じ。
順番をどうしようか迷っていたんですが、 最後にアードベッグにしておいて良かったですね。
今日のこの順番通りで、いいと思うね。
このアードベッグで、ひとこと言っておきたいのは、 香りと味の向きが全然違うということね。
ブレンダーの中には、香りだけで味がわかるという人が居るけど、 これは絶対に香りの印象だけで、この味を当てられないモルトだと思う。
確かにそうですね。
S社のブレンダーは、香りだけですか?
いや、必ず口に入れます。
へえ。
我々の言葉に「味スモ」というのがあります。
味スモというのは、香りだけでは感じないが、 口に入れた時に感じられるスモーキーな味わいのことを指すんです。
「味スモ」の大・中・小を、当社のブレンダーは全員口に入れて 判断しています。
ヒックス氏とか、向こうのブレンダーのなかには香りだけという人もいますよ。
たくさんのサンプルを一度にみるから仕方ないとは思うけれど、 口に入れないとは、ちゃんとテイスティングできないんじゃないかな。
パターソン氏はカポカポ、飲んでますけど。
飲むのが好きだからでしょうかね(笑)。
我々がテイスティングするときには、午前中に300杯くらいを 一気にやりますね。
昼ご飯に行く頃には、ちょっと顔が赤くなっていて、 気恥ずかしい思いをすることもあります。
ただやはり一般論として、向こうのブレンダーはあまり口に入れないんですよね。
スモーキーで度数の高いものは危険ですね。
ちょっと加水してやれば良いんですけれど。
加水してしまうと感じられなくなるスモーキーさもあるから難しいでしょうね。
そうですね。
まず香りをみて、次にストレートで口に含んで、そして加水して味わって。
実は、テイスティングはそれで終わりではなくて、もう一段階あるんです。
それは、一日置いてみた後でのテイスティングです。
ほう、なるほど。
当社のベテランブレンダーは、ずらっと並んだグラスの原酒を 順番にテイスティングし終わると、最後に「こちらから向こうは洗ってもいいよ」 と言います。
洗ってはいけない方のグラスに入ったモルトは、 翌日再度テイスティングするために残されているというわけです。
へえ、1日置くんですか。すごい。
そろそろ、総括に行きましょうか。
Iさんは、いかがですか。
う~ん、そうですね。
今日の3本の評価は難しいですね。
どれも皆、美味しいんですけど…。
S社の方がいらしてますけど、気になさることはありませんよ。
ええ、そうですね。
はい(にっこり)。
まず最初に、気楽に飲めるということであれば、ジュラです。
家に買って、置いておくとしたらヤマザキ。
これ買おうと思ったら、大変だよ。
半角と全角が(爆笑)。
誰かに御馳走してもらうとしたら、アードベッグ。
そんな感じの距離感でしょうか。
なるほど。
なぜ気楽に飲むものは家では飲まないの?
家で飲むものは飽きのこないものが良いですね。
ジュラは美味しいんですけど、そのあたりが違うようで。
それは言えるね。
ヤマザキは、マスターが言っていたように優等生だと思います。
Kさんの感想は、いかがですか。
そうですね。
今日の3本はピートの利いたモルトだったわけですが、 自分にとっては、どれも嫌なところが無く、 前向きに受け止められたように思います。
また3本ともに、個性の出方がそれぞれ異なっていたことも、 とても興味深かったですね。
スモークあるいはピートを全面に出していたのはジュラ。
最初の香り、口に含んでいる間の味わい、そして軽やかな余韻。
3年と言う若さ、これが本当にジュラなのかという印象、 そうしたハンディキャップを乗り越えて、本当に美味いと思いました。
次に、ザ・カスク・オブ・ヤマザキ。
これは、いろいろと御意見はあろうかと思いますが、 単なるピートの個性、ピーテッド・モルトという飲み物としての 提示にはとどまらずに、自分がイメージとして持っている 「山崎」らしい樽の個性・特長を十分に活かしながらも、 そこにピートの個性を加えていて、うまく融合させているところが、 ひとつの完成形として十分に納得できる、唸らせられるところです。
前回のバーボンカスク(第1回のカスク・オブ・ヤマザキ)と比較しても 決して負けていない、高得点が取れるモルトだと思います。
三番目のアードベッグ。
これはSさん御指摘の通り、香りと味わいのベクトルの違い、 香りだけでは判断できない味わいの落差が面白い個性になっていると思います。
で、自分はどっちが好きかといえば、 華やかな香りではなくて、ブルーチーズとか椎茸とかの特長、 旨みが複雑に絡まりあった味わいの方が気に入りました。
それでは、Sさん、お願いします。
今日の3本は、ピーテッド・モルトということの他に、 もうひとつ共通点があります。
ちょっとセクハラな言い方だけど、ロリコン特集(笑)。
ジュラは、3年でこれだけのモルトが出てくるというのは 素晴らしいことと思う。
ジュラのモルトには、大体柑橘系とかの個性がある。
で、そういった個性とは違うけれど、これは、 ピーティな美味しいモルトになっていると思います。
ヤマザキで感じたのは、日本のシングルモルトが本当に 美味しくなってきていることを改めて再認識させてくれたということ。
これまでも、日本のモルトは飲んできているけれど、 多くの場合、後半に出てくる苦味やクセが気になってくる。
しかし、このヤマザキはそういったところがないし、 自分の好きな塩っぽいところもあって、美味しいと思う。
アードベッグも、自分が買えなかった、ちょっと悔しいモルトで、 楽しみにしていたモルトなんだけれど、香りと味わいがこんなにも違う、 90度以上違うというのは、とても珍しいと思う。
順番を付けると、一番がアードベッグかな、ベリーグッド。
後の2本が、グッド・ベリーグッド(ベリーグッドとグッドの中間)。
Sさん、いつもならこれは問題外っていうのが1本くらいはあるのに、 今日は違いますね。
そうだっけ?(笑)
それでは、スペシャルゲストのFさん、よろしくお願いします。
まず第一に、夕食を食べ終わって、お酒をさんざんいただいてから、 こういう遅い時間にテイスティングをすることがないので、 今日はとても新鮮でした。
また、皆さんのコメントも歯切れが良くて、とても楽しかったです。
エンジョイさせていただきました。
普段テイスティングするのは、午前中ですか。
そうですね、遅くなっても午後3時くらいには終わりです。
こういうふうに仕事を離れて、テイスティングするというのも楽しいものですね。
私個人としては、過去いろいろな酒を飲んできたなかで、 その経験に照らしてみると、このカスク・オブ・ヤマザキは、 当たり前過ぎて、つまらなかったですね(笑)。
今日の驚きのひとつは、このアードベッグですね。
これほど、香りと味わいのギャップがあるというのは、そんなには無いと思います。
このアードベッグで感じるダイアセチルの香りは、 作り手の立場からすれば気になるところではありますが、 飲み手としては、こういう酒があっても悪くは無いと思います。
なるほど。
ジュラはスモーキーな個性と3年という若さが、とても新鮮です。
しかも良くまとまっている。
アードベッグは、蒸留所としての絶対的な評価が確立されていますが、 一方、ジュラはそれほどの評価にはなっていない。
そういう意味で、また意外性という点で、今日の3本のなかで 相対的な評価が最も高いのはジュラです。
このジュラが、10年くらいの熟成になったら、どんな感じでしょうか?
良くなるんじゃないかと思います。
ただスピリッツ自体の力が弱いものは、長熟すると スモーキーさや樽の個性に負けてしまうことがあります。
定期的に味の変化を見ていって、ギリギリのところを 見定めていくべきなんだろうと思います。
なるほど。
今日は、とても楽しい経験でした。
ありがとうございました。
こちらこそ貴重なお話をありがとうございました。