テイスティング・ルーム第22回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1966年ハイランドパーク35年(ハート・ブラザーズ)
- クライヌリッシュ14年(オフィシャル)
- 1989年軽井沢12年(オフィシャル)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
1966年ハイランドパーク35年(ハート・ブラザーズ)
それでは、今日の1本目ですが、 ハイランドパーク35年です。
ボトラーはハートブラザーズ社で、 1966年蒸留の2001年瓶詰ですね。
うわあ、35年ですか。
期待しちゃいます。
樽の種類は何ですか?
特に明記はされていないようですね。
色合いはそんなに濃いように 見えませんが、テイスティングのなかで 突き止めていくことにしましょう。
アルコール度数は?
41.1度ですね。
ナチュラルで、この度数ですから相当に 下がってきているといえますね。
まあ、35年も経つと、濃度も中身も大きく変化をしますから。
ハートブラザーズのモルトで、現在出回っているのが 8種類くらいあるんだけれど、不思議なことに、どれも2000年から 2001年くらいの瓶詰なんですね。
もう2002年も後半に入っているのに、 2002年に瓶詰されたものではない。
なぜ今頃になって販売されているのかな、不思議だな、と。
誰かが、倉庫に入って発掘作業を行っているとか(笑)。
美味しいモルトを発掘しているのであれば、 モルトファンの一人として許しますけど。
文化財調査団に頑張っていただきたい。
そうそう。
さて、この一本は、お宝になるでしょうか。
(と言いつつ、グラスに注ぐ)
本当に薄い色ですね。
飴色をさらに薄くした感じ。
熟成年数からみたら、ずいぶん弱い感じもしますね。
香りの方はどうですか?
最初には、清々しい香りの印象。
それから甘ったるいような香り。
ううん、ウッディか、フルーティーか。
うん、これは「ウッディ・フルーティー」。
最初、葡萄かなとも思いましたが、ちょっと違うようですね。
松葉のような感じがします。
そう、僕が最初に感じたのも、松です。
甘い松、Sweet Pine Tree。
樽は、いったい何でしょうか?
まだ、ちょっとわかりませんね。
味わって見えてくればいいんですが。
味わいはドライ・・・こりゃ、あっさりしてますね。
軽くて、ライト。
飲みやすい。
おいしいです。
本当に。
これが35年なのって感じですね。
辛いけど、まろやか。
存在感があまりないみたいです。
35年と構えたけど、肩の力が抜けた感じです。
最初の印象から、フィニッシュの印象まで、ほとんど変化しない。
大体、同じような感じで、展開しない。
35年の歳月を経て、こなれているという評価は できるのかも知れませんが、個人的には、 35年の時間を感じさせるような熟成感や個性的な余韻といった 強く印象付けるものが欲しいなと思いますね。
このDRYな感じはウッドの個性ですね。
とんがったところは無いんだけれど…。
まっ平らでね。
スパイシーさやピーティーさも、ほとんどなくて。
爽やかさが取り柄かな。
爽やかというには、ちょっとドライすぎるのじゃないかな。
皆さんのおっしゃることも解りますが、 私は、こういう優しい味わいも好きですね。
香りには独特なものがあって、いいんですよね。
今あらためて香りを嗅いでみると、 花の香り、木の香り、フルーツの香りを感じる。
何の花、何の木、何のフルーツかと聞かれても即答できないけれど。
木は松だと思う。
最近、余市の影響で何を飲んでも松を感じるようになって(笑)。
この間、あるところでスコッチを飲んでいたら、 「ああ、この余市フレーバーは良い」と コメントしてしまった(爆笑)。
「余市フレーバー」ってのはいいね。
でも、わかるでしょ。
わかる、わかる。
結構残るね。
うん、たしかに余韻は長くあるけど。
けど?
でも最初と同じ印象だから、Long Finishというよりは、 Long Startと呼ぶ方が正しい(笑)。
Finshではないという意見には僕も賛成。
ちょっと評価が難しいね。
封切りだから、個性が際立ってこないというのとも違うみたいですね。
アルコール度数41度ですからね。
35年経って、度数41度まで下がって、 ここに落ち着いてしまったということでしょうか。
ちょっと残念ね。
元々の度数は低いですが、加水してみますか?
少しだけ加水してみましょう。
どうですか?
まっ平らだった個性に少しは起伏ができたかな。
少し奥行きが感じられるかなっていう程度ですけど。
時間が経つに従って、香り自体はどんどん甘くなってきますね。
本当にそうですね。
寿司屋で白身からたべるみたいに、 今日の1本目にしておいて良かったのかも。
そこにある軽井沢と半々で飲みたい。
もう一捻りか、二捻りあると、CharmingでAttractiveになるんですけど。
もし厚みがないとしても、もうちょっと味わいに 変化があるだけでも違うんですけど。
Sさんがいつも言ってらっしゃるような、 最初と真中と最後で味にちょっと変化が感じられるだけで ずいぶんエキサイティングで、良い評価になると思いますが。
「口の中のお芝居」
そうそう、舞台の登場人物が、ハーモニーを作り出して。
全体としてみて、いかがですか?
大体30年超えるものは円熟味があって、 高得点を取れるものが多いですが、 このハイランドパークはちょっと向きが違うようですね。
35年といわれるとちょっと違うかも知れませんが、 この軽さとまろやかさは、私的にはマルです。
ハートブラザースから依然出ていた ハイランドパーク27年と比較してみると、 どんな感じですか?
全然違いますね。
熟成感も、ボディも。
クライヌリッシュ14年(オフィシャル)
切り替えて、次にいきましょうか。
UDが新しく出してきた クライヌリシュ14年ですね。
今回、カリラの12年と、 このクライヌリッシュが発売されていて、 近日、グレンオードとグレンエルギンが 続くようです。
巷では、「Hidden Malt」(隠されたモルト) シリーズと呼ばれています。
クライヌリシュ14年というのは、 以前UDが出していた 「花と動物」シリーズのクライヌリシュと 同じ熟成年数ですね。
アルコール度数は46度となっていて、 花と動物のクライヌリシュよりは 3度高くなっています。
このシリーズは、花と動物のような共通テーマのラベルには なっていないんですね?
ええ、そうですね。
このクライヌリシュには、マネージャーズ・ドラムの山猫(Wild Cat)が 描かれていますが、このシリーズのカリラや他のボトルとの 統一感はないようですね。
色は少し赤みがかかった飴色。
香りはいかがですか?
梨っぽい、スマートな感じのするフルーツ。
ああ、トフィで、ミルキー。
クライヌリシュの個性。
僕は、フルーツとお酢。
若くて、モルティでピーティな場合には、このようなお酢を感じることがある。
若いラガヴーリンとか。
なるほど、お酢ね。
お酢といわれると、お酢の匂いが強くなるから、不思議だね。
うーん、これはいい、悪くないんじゃないかな。
味わいの展開は、かなりある方じゃないかな。
最初は、軽くて甘いフルーツとお酢の酸味。
その後に、クライヌリシュの鋭いピートの刺激。
最後に塩辛さが加わって来る。
鋭いピートのヒリヒリ感が、だんだん塩っぱさになるんですよね。
うん、はい、そうです。
私はちょっと違います。
ミルキーで、シェリーっぽい印象。
硫黄のような。
私があまり好きではない、ゴムっぽさ。
最初の口当たりは、クリーミーですよね。
そうですね。濃いミルクのようで。
確かに。
そういう意味では、クライヌリシュらしいかなと思います。
スペイサイドのモルトとは、ハッキリとした違いがあって。
このクライヌリッシュは、しっかりとした余韻が長く続いて良いですね。
オフィシャルラベルとしてはね。
いや、失礼。
この場合には、スタンダード・ラベルとしては良い出来です。
そうですね。
このシリーズでは、カリラの12年も良い出来でした。
確かに、結構よかった。タールが前面に出ていて好きでした。
このクライヌリシュの良い所はですね、 最初にあった個性の上に、真ん中の個性が乗っかって、 後半から最後にかけての個性がさらに乗っかってくる。
個性が重層的に重なってきて、その厚みが増してくるところがいいですね。
そうですね、確かに。
AがBになって、最後Cになるという変化ではなくて、 Aが、途中からA+Bになって、最後にA+B+Cになっていくんだけれど、 全体の世界観がより深まってくる。
一口飲むたびに、味が美味くなってくるんですよね。
これは本当に良いですよね。
やめられなくなりそうな魅力があって(笑)。
私は、最後まで、シェリー臭さが抜けないみたいです。
ちょっと御免なさいという感じで。
美味しいモルトなんだろうとは思うんですが。
感じ方はいろいろあって。そういう評価もあっていいんですよね。
1989年軽井沢12年(オフィシャル)
本日最後の一本に行きましょうか。
TASTING ROOMでもいろいろと紹介してきて、 最近マスコミからも注目を集めてきているジャパニーズ・モルトですが、 今回は、軽井沢蒸留所からの1本です。
軽井沢ヴィンテージモルトシリーズのなかで 一番若い1989年・熟成12年です。
軽井沢蒸留所は、世界的な注目を集めている N社の「Y」に負けまいと最近頑張っておりまして、 ビンテージ・モルト・シリーズを皮切りとして、 某社向けラベル、某氏セレクションなどを 打ち出ししています。
今日の1本は、ヴィンテージ・モルト・シリーズのなかで、 スタンダードな個性を持っていて、価格的にも リーズナブルなところじゃないかと思います。
トータルのコストパフォーマンスも高いんじゃないかな という意味で選びました。
メルシャン・グループにおける軽井沢蒸留所の位置付けからして、 大量生産のヴァッテッド・ブレンデッドよりは、 マスコミからの注目の集め方、物作りのこだわりの両面から、 シングル・カスクに特化 していくのは間違っていないと思いますね。
モルト・ファンとしては、歓迎すべき方向性じゃないかなと。
まあ、それ以外のお家の事情もあるみたいですね。
これ以上はオフレコですけど。
このシリーズは、相当長期にわたるヴィンテージが 用意されていましたよね。
そうですね。
1970年からこの1989年まで、価格は56,000円から6,000円までですね。
全て、シェリー樽熟成で。
しかも最近は、全て二条大麦の最高峰 ゴールデンプロミス種しか使っていない。
こだわりのシェリーモルトの印象はいかがでしょうか。
色は濃い赤みがかってますね。
いかにもシェリーらしい感じで期待が持てます。
・・・最初は埃っぽい、Dustyな印象。
濃厚なシェリーの香りですね。
ああ、ほんとに。
ゴム臭いのは好きではないんですが、 この控えめなシェリーの香りは良いと思います。
色といい、香りといい、間違いなくファースト・フィルですね。
樽は、どんな種類のシェリーなの?
あまりシェリー樽の種類までは絞り込んではいないようですね。
そういえば、メルシャンが輸入しているシェリー会社と、 樽輸入の提携をしているという話を聞いたところがあります。
先日、蒸留所を見学したときには、 樽輸入の提携先の話までは出なかったですね。
ただ、軽井沢蒸留所は、貯蔵庫のスペースが狭いので、 Buttの樽を輸入して両端をカットして短くしたものを使っているんです。
大きさでいえば、ButtとPuncheonの中間くらい。
なるほど、だったらプランター向きね。
そういえば、樽のプランターも売ってました(笑)。
樽工場も見学ルートにありましたね、 日曜日だったので稼動していませんでしたが。
現在は、樽の修理を中心にしているようですね。
軽井沢蒸留所は、軽井沢の西に位置していて、 スコットランドに比較すると夏冬の温暖差は相当に あると思うんですが、貯蔵庫が石造りで、 軒の高さまで蔦で覆われているんです。
だから、外気の温度変化を抑えてくれているんじゃないかと思いますね。
あと、仕込水にもこだわっているようでしたね。
ドライ、酸味。
香りの印象に比べると、 味わいの印象、個性が弱いようにも感じますね。
トップのシェリーの濃い印象とは違った味わいがありますね。
香りの印象と、味の印象と、ちょっとベクトルの向きが違うんですよね。
そうですね。
土っぽい味、あと少し硫黄。
最初に味わいに踊っている感じがあって、すぐに盛り上がってきて。
後味まで、踊りは盛り上がっていって、最後になって一気に引いた。
変化していく感じが面白い。
度数は、何度でしたっけ。
60度くらいですね。正確には、60.1度と表記されています。
ちょっと表現が悪いかも知れませんが、 口の中が切れたりして出血した時に感じるような 血の鉄分みたいな味がします。
そんな感じの酸味と苦さと土っぽさ。
ああ、なるほど。
確かに。
ドライという表現なんだけれど、 僕にとっては、苦いの一歩手前くらいのドライ。
あと硫黄を感じる。
硫黄は感じますけど、微かにといったレベルですね。
このくらいの硫黄は許せますね。
私にとっては、好きなシェリーモルトの部類に入ります。
舌がけっこう痺れる感じがあるんですが、アルコール度数のせいなのか、 シェリーの渋みのせいなのか。
僕の印象としては、アルコールの強い刺激に 由来するんじゃないかと思いますね。
その刺激が渋みとなって、味わいの酸味と渾然一体となりながら、 フィニッシュの余韻に 変化していくようなところがあります。
悪くいうつもりはないけれど、リラックスして飲める感じじゃないね。
とんがっているモルト。
そうだね、包み込んで、解放してくれるモルトとは言えないところがある。
余市のシェリーとか、山崎のシェリーとかとは明らかに違う、 シェリーの個性ですよね。
12年ということになると、この個性は若いモルトだから とは言いがたいですよね。
割合にシャープな、シェリーの特徴というのが、 軽井沢の個性なのかも知れませんね。
こういうモルトも悪くはないと思いますが。
私は、大好きです。
このモルト、とても面白い。
軽井沢の個性について考えたときに、 スコットランドの蒸留所のなかで、 まず最初に頭に浮かぶのがグレンファークラスなんです。
ああ、そうだね。
渋みがあって、シャープで。
土っぽい個性もありますよね。
軽井沢がグレンファークラスだとしたら、余市と山崎は?
山崎は、やっぱりマッカランでしょうね。
余市は、何だろうね。
ちょっと難しいね。
僕としては、北の方の蒸留所、クライヌリシュとかプルトニー。
なるほど、ピーティー&ソルティね(笑)。
極太の輪郭。
余市については、方向は逆かも知れませんが、 僕としては、竹鶴正孝の学んだスプリングバンクなんか にも通じるところがあるようにも感じますが。
確かに骨太ですね。
山崎は、やっぱり繊細で、優雅なマッカランの感じ。
軽井沢のシェリーカスクは、一杯飲んで結構満足しちゃうから、 あまり何杯も進まないんですよね。
加水すると、ようやく角が取れて飲みやすくなった感じです。
やっぱり濃いんですよね。
軽井沢の残り香は、硫黄の個性が強くなってきました。
ああ、本当だ。
ビニールみたいな香り。
うん、そうだね。
今日の3本は、この順番でいいんじゃないんでしょうか。
ヒラメから、赤みで、最後は大トロみたいな流れでいいと思います。
フルーティなのと、ソルティなものと、お酢の味がするもの。
ハイランドパークとクライヌリシュは、展開力の点において、 対極に位置すると思います。
どちらも面白かった。
個人的には、クライヌリシュが好きだけど(笑)。
軽井沢は、確かにシャープなグレンファークラス。
ちょっとシェリーの癖はあるけど。
スタンダードボトルにしては美味しい方じゃないかなと思います。
私は、Sさんと正反対の評価になりました。
一番めが、軽井沢。
この控えめなシェリーの個性が気に入りました。
6,000円だったら買いに行こうかなと思います。
女性に受けると思います。
二番目がハイランドパークで、香りがいいなと思います。
クライヌリシュは、ちょっと自分の得意ではない特徴。
だから、ちょっと…。
私は、皆さんと違ったように評価したいなと思っていたんですが、 Sさんの評価には近いところがあるかもしれません。
今日の3本で、年数をみると、軽井沢が最も若くて、 ハイランドパークが最も年数が長い。
軽井沢は、12年だから、若いというのは失礼だろうとは思うけれど、 こんなにも「とんがっている」、軽井沢の個性がしっかり出ている。
これは面白い。
反面、35年というエイジングを重ねながら、フラットになっている、 磨かれてしまっている、このハイランドパーク。
これもある意味で、面白い。
UDが出してきたクライヌリシュ、独特の個性を出しながら、 かつ重層的な変化を楽しませてくれる。
一口一口と飲み進むうちに、引き込まれていく 世界というのは素晴らしいものだと思う。
すぐに売り切れにはならないとは思うけれど、 今のうちに買っておきたい1本です。
ヴァッテッドですからね。
ある程度はブレンダーの力量によって維持されていきます。
でもロットナンバーは変わっていくからね。
だいたい早いもののほうがうまい。
UDのタリスカー10年は、飲んで満足感がありますよね。
人によっては、それがUDのラガヴーリンだったりするわけですけど。
レア・モルト・シリーズも、美味いものが多いですよね。
UDは、傘下の蒸留所が最も多いわけだから、もっと真面目にやってほしい。
美味いシングルモルトをバンバン出してもらいたいと言いたい。
輸入元のジャーデンもしっかりやれと、ちゃんと輸入せよと。
こんな美味いモルトを、大量に作っておいて 「Hidden Malt」と呼んでいてよいのかと思いますね。
ラベルのどこにも「Hidden」と書かれていないところをみると 隠しているんでしょうけど(笑)。
どこでも買えるスタンダードボトルを「Hidden」と呼ぶ というのは違和感がありますよね。
グレンエルギンだって、昔からそれなりに メジャーなモルトだと思いますけど。
正確には、「Hidden Malt Series」と呼ぶんですか?
巷では、そう呼ばれてますね。
海外でも。
正式に、UDがそう発表している訳ではないようですが。
だからこそ、やはりHiddenなんだね。
なるほど。