テイスティング・ルーム第13回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- グレンゴイン16年(オフィシャル)
- 1987年ハイランドパーク13年(SMWS)
- 1975年タリスカー25年(ザ・ボトラーズ)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
とあるバーのマスター。?代の男性。
皆さん、あけましておめでとうございます。
おめでとうございます。
ことしもよろしく。
謹賀新年(笑)。
前回のテイスティングルームは、欠席してしまって本当に残念でした。
代役のOさんからメールを貰って、口惜しい思いをしたので、 今年こそは皆勤賞で頑張ります。
一年の計は元旦にあり、だね。
本年最初のテイスティングルームは、お目出度く、 樽にこだわった3本を用意しました。
お目出度い樽と言えば、菰巻樽、柳樽、兎樽、角樽・・・。
それは日本酒でしょ(笑)。
グレンゴイン16年(オフィシャル)
そういうわけで、1本めは、グレンゴインの16年、 DB(蒸留所瓶詰)のリミテッドエディションです。
何がこだわっているかと言うと、 「スコティッシュ・オーク・ウッド・フィニッシュ」 という表記の部分ですね。
まあ、端的にいうと、スコットランド産のオーク材を使った樽で 後熟させましたということです。
新品の樽を使っているんですか?。
新品か、リ・フィルかどうかは、ちょっとよく判りません。
もしかしたら裏の説明書きに書いてあるのかも知れませんが・・・。
一応、限定版ということで、ナンバリングがしてありまして、 この瓶のラベルにはA4103と刻印されています。
アルコール度数が53.5度ですから、 樽出しのナチュラルカスクだろうと思います。
グレンゴインは、大半をオーク樽と呼ばれるバーボン樽、 一部をシェリー樽で熟成させ、その両方をバッティングさせたものを 瓶詰することが多いようですね。
これは一応、通常のバーボン樽に入れて10数年熟成させた後に、 スコットランド産の樽に3~4年入れていたのではないかと思いますね。
グレンゴインは、ダムゴインという処にありまして、 グラスゴーの北側、もっとも近いロケーションにある蒸留所ですね。
グラスゴーからは、30kmほどの距離でしょうか。
車で日帰りできる距離なのですが、一応ローランドの境を越えますので、 分類上は、ハイランド、西ハイランドのモルトになります。
グレンゴイン・モルトの最大の特徴は、その仕込水にあります。
ダムゴインの水は、ノンピート・ウォーターなんですよ。
最近ノンピート・モルトは多くなって来ていますが、 仕込水まで、ピートの影響を受けていない蒸留所は、 スコットランドでも、ここだけです。
そういう訳で、グレンゴインは、スコッチ・モルトの中で、唯一 ピート・フレーバーのないモルトだと言われています。
スタンダード・ボトルの個性としては、ライトで、スムーズな印象がありますね。
確かに、現地に行ってみると、グレンゴインの水は、無色透明です。
ただ、実際には、香りについて言えば、 ちょっと澱み水のような生臭さがあるように、私は感じました。
へえ。
(グラスに注がれる)
色は、シェリー樽仕上げのように赤っぽいですね。
ほんとだ。
うわぁっ、木の香りが迫ってくる。
いい感じの香りの立ち方がしますね。
すごく好きな香りです。
フレッシュなオーク樽って、こんな香りがするんじゃないかな。
樽の中に、首を突っ込んだような印象。
さわやかな印象、あまり強いクセは感じない。
上質なカナディアン・ウイスキーのような、森の香り。
(テイスティングに移る)
ライトで、スムーズ。
後味は、スっと引いて。
ああ、やっぱり香りがいいなあ。
最初の方、辛くないですか。
ええ、最初のアタックは辛口ですね。
でも、後の引きがスッとしていて、最後にほのかな甘さが残りますね。
あまりキツイという感じはない。
最初の辛さもアルコールの辛さとは違うね。
確かにそうですね。
53.5度という度数の割にはアルコールの強さを感じない方だと思うけど。
うん、そう思う。
切り立て独特の、アルコール臭やいやらしいアタックがなくて、爽やかな感じだよね。
スタンダードのグレンゴインよりは、香り自体が甘くて、心地いいですね。
ちょっと最後の甘みの先に、個性的な舌残りがあるように思うんですが…。
エグみとか、雑味とも少し違って、ほのかな存在感というか。
確かに、微かな苦みを感じますね。
う~ん、ファンタ・グレープ。
なるほど。
確かに、爽やかで。
あのベトベト感はないけど。
スキッとして、軽やかで。
若い感じがするのは、ノンピート・モルトだからでしょうか。
アルコール度数の割に、スッキリしている印象というのはあるね。
ライトで、スムーズな特徴も、あるかも知れませんね。
ああ、なるほど。
加水してみましょうか。
そうですね。
ああ、甘くなってきた。
最初の辛さ、刺激は変わらないんだけれど、 舌の上に乗せたときの甘さは強くなった。
加水したら、サラサラ感が無くなって、ネットリ感が出てきた。
ちょっとミルクっぽいような。
ああ、わかる。そのネットリ感。
なるほど、加水した方が、質感が強まってくるとはね。
うんうん。
何だかマイルドで、クリーミーな感じ。
一粒で二度おいしいような喜び。
加水した方が、個性と質感が前に出てきて、おいしい感じ。
加水したことで、堅さが取れたのかも知れませんね。
なかなか良いですね。
だんだんクリームみたいになって。
ネットリしてきましたね。
不思議ですね。
ファンタ・グレープ・フロートになってきた。
(笑)
1987年ハイランドパーク13年(SMWS)
それでは、次に行きましょうか。
スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティの新しいボトリングで、 ハイランドパークの13年です。
ビンテージは1987年で、 アルコール度数は、56.7度ですね。
で、樽のこだわりは?
フレッシュなシェリー樽熟成と思われます。
シェリー・バットの表示がありますから。
色の方も、しっかりと出ています。
赤々と、しかも濃い色ですね。
きれいなビーズが立って。
ほんとに。
13年の割には、良いビーズが立つんですよね。
(各自、ノージングに移る)
ああ、良い香り。
シェリー独特の、甘くて、華やかで、強い香り。
手にとって、こすってみてください。
ピート感も感じられると思いますよ。
えっ、本当に。そうなんだ。
ああ、ピートの香りだ。
今日はダメだわ、自分の香水の香りがするから。
次回は、香水なしで来て下さいね(笑)。
ああ、硫黄の味と香りがする。
硫黄だけでなくて、潮の香りもする。
これはねえ、海岸ばたの草津温泉。
しょっぱい。
「六一〇ハップ(ムトーハップ)」の味だ。
確かに、六一〇ハップだ。
何ですか、「ムトー?」って。
そういう入浴剤があるの。
硫黄臭のする温泉入浴剤で。
へえ~。
いろいろ勉強になるね。
お風呂に入れると、白くなるんだよ。
そうそう。
・・・あと葡萄の渋みも感じる。
タンニンのような。
シェリー樽に多く見られる個性ですよね。
かなり濃く乗ってきてますね。
僕は甘さは感じないですね。
私は、結構甘いんですが。
僕も、シェリー甘さは感じるんだけど。
でも、しょっぱさが前面に出てきているから。
口残りには、甘みがあるように思いますよ。
渋みは最後に感じます。
渋いけれど、舌に染み込む感じはないね。
確かに、収縮感はないですね。
タンニンは、しっかりと残りますが。
樽のクセみたいな感じですね。
加水してみますか。
印象が少し柔らかくなったくらいで、基本的な印象には変化がないように思います。
確かに変わってないかな。
でも、僕は加水しない方が好きだね。
加水すると、最後の渋みが強まるようで。
僕的には、加水した方が辛さと甘さの両方が感じられるようになってきたかな。
ちょっと物足りないかも知れませんね。
何だか固体化してきたような実在感が出てきたようで。
渋みの部分でしょ。
渋みと舌残りが強くなって。
渋みが舌の上で氷結したような感じありますね。
うんうん、そんな感じで。
香り自体は、加水した方が開いてくるんですけれど。
モルティーさが出てきて。
甘苦、黒くなって変色した天津甘栗。
シェリー・カスク好きには良いんでしょうがね。
あと樽香、タンニンの嫌いでない人にね。
マニアは泣いて喜ぶね。
1975年タリスカー25年(ザ・ボトラーズ)
それでは、最後の1本に行きましょうか。
ボトラーズが新しく出してきた、1975年蒸留のタリスカーです。
熟成年数は25年で、 アルコール度数は55度ですね。
で、樽の方は?
ええっと、最近のボトラーズは、例の通りで、 リ・フィルのシェリー樽です。
「Refill Sherry Hogshead」の 表記がありますね。
ボトラーズのは、濃すぎず、薄すぎず、 程良くといった塩梅のものが多いですよね。
一番、期待しています。
年数も長いし、アルコール度数も頃合いって感じで。
最近のボトラーズは、リ・フィルのシェリーカスクで、 上品に仕上げたものが多いですね。
それでも、それぞれの蒸留所、モルトの個性は、程良く最後に出てきて。
島物は、島の個性、ですか?(笑)
同じシリーズで出ている、ポートエレンとかカリラとか、ありますよね。
どちらも1981年でしたね。
僕にとっては、あのポートエレンは最高でした。
赤みがきれいに出ています。
きれいにビーズが出来ますね。
これもなかなか良い色ですね。
ああ、良い香り。
クラクラくる。
幸せなひとときに包まれました(にっこり)。
5分くらい香りで楽しめる。
本当に楽しめますね。
人のネタ、取っちゃ駄目だよ(笑)。
でも、本当に楽しめそう。
そろそろ味わってみて下さい。
ああ、これはこれは・・・。
程良い塩味と甘み。
枯葉の香り。
うんまぁあ~い。
なん、って優しい味だろう。
ボトラーズは、香りだけでは判らないんですよね。
モルトの個性が隠れてしまって。
口の中で、すごく甘く薄く延ばされていくような印象。
ああ、溶けそう。
本当に溶けそうな感じだね。
最初に舌に乗せたときは優しくて上品なんだけれど、 口の中ではしっかりと存在感があって、余韻も長くて、本当に良いなあ。
後半部分の自己主張が、タリスカーらしさなんだろうと思う。
塩っ辛さと甘さと、アルコール度数の強さがちょっとあって、 とても心地良い世界の中にいるみたいで。
とても上品だよね。
アルコール度数の割には、重くなくて、濃くもなくて。
結構デリケートですよね。
それでいて、そのデリケートさが、存在感につながっていて。
繊細。
ベルベットの肌触り。
うまいね、良い喩えだ。
最初、しょっぱさが来て、しばらくしてから甘さがグワッと押し寄せてくる。
不思議な感じだよね。
最初に樽の印象が来て、後から蒸留所のモルトの個性が来るというのが 一般的な感じ方だと思うけれど、ちょっと逆かも知れませんね。
最初にタリスカーらしい、しょっぱさが来るというのは。
ああ、本当にこれは良い。
また、指名して飲みたいモルトです。
タリスカーっぽくないけれど(笑)。
ヨード臭がないですね。
25年熟成というのは少し長いのかな。
いやあ、これは・・・大人の味ですね。
タリスカー・ブランドで、別の酒になったという感じかも。
うんうん。
「原材料はタリスカーだけれど、製品としてはボトラーズです」というような。
調味料は、「気品、上品さと熟成感」でしょうか。
これは絶対加水したくないです。
加水したくないなら、僕が加水したのを舐めてみれば良いよ。
香りは立ってくるけど、やっぱり加水しない方がいいかも。
何だかジュースみたいになってきたぞ。
別の飲み物みたいですね。
甘いですけど、いわゆるデザート・モルトとは違いますね。
ディジェスティフ(食後酒)というよりは、アペリティフ(食前酒)でしょうね。
ちょっと不純かも知れないけれど、モルト初心者の女の子に勧めるのもいいかも。
とってもおいしいよ、口当たりも良いし、大丈夫だから、とか言って。
うん、飲んじゃうよ。これは。
もっと下さい。
おかわり、おかわりとか言って。
Iさんならね(笑)。
飲んじゃう、飲んじゃう。
危ないけど。
大きな声では言えないけど。
インターネットに乗っちゃうけど(笑)。
飲んだ感じとしては白ワインに近いようにも思いますね。
ソーテルヌの白とかに似た印象はありますね。
お屠蘇。
お正月の食前酒と言えば、やっぱりこれですよ。
うまいね。
2002年正月最初のモルトを、これで始めるのは正解ですよ。
上品だし、存在感があるし。
良いムードになりますよ。
ちょっと危ないけど。
高くつきそうだけど(笑)。
そろそろまとめますか。
タリスカー好きには物足りないタリスカー。
ハイランドパーク好きを裏切りそうなハイランドパーク。
そういう意味で、正統派といえるのはグレンゴインですね。
使っている樽も含めてですね(笑)。
Iさんが順番を付けるとしたら?。
タリスカー、ハイランドパーク、グレンゴインの順でしょうか。
タリスカーの上品なバランスには、心を捕まれ、言葉にならず、酔いしれました。
ハイランドパークとグレンゴインでは、 グレンゴインは、あまり知らない世界だったので、 最後がグレンゴインになっただけです。
これから、探訪して深めたいと思います。
僕としては、一番が、タリスカー、その次がグレンゴインで、 最後はハイランドパークですね。
グレンゴインについては、熟成感と自信溢れる樽香が特徴で、 きっとスタンダードと比較して、 及第点60点+20点くらいは取れてるかなという評価。
タリスカーも、ハイランドパークも、ある意味、期待を裏切っているんだけれど、 自分の評価では、プラス・マイナスの出方が逆かなという感じですね。
ハイランドパークは、硫黄臭が強くて、個性的ではあるんだけれど、 シェリーの魅力も十分とは言えないし、僕の評価としては60点-20点くらいのところです。
一方、タリスカーは、上品さと熟成感がすばらしいし、 タリスカーのしょっぱさとのバランスも取れているので、 60点+30点以上が付けられるのではないかと思います。
今日は3人ともバラバラになりましたね。
僕は1番がグレンゴイン。
ほぉ~!
2番めがタリスカーで、3番目がハイランドパーク。
グレンゴインが一番ウイスキーらしいと思う。
味わい、飲み易さ、安心して飲めるのが、これだと思うな。
タリスカーはおいしいんだけれど、別の飲み物になってしまったようで、 ウイスキーらしくない。
上等な杏露酒みたいな感じなのかな。
ハイランドパークは個性が強すぎて、ヘビー過ぎるような感じですね。
ファンタ・グレープに、六一〇ハップに、杏露酒だ(笑)。
確かに、3本のなかでグレンゴインが一番ウイスキーらしいですよね。
強いて言えば、ブレンデッド・ウイスキーのような個性で、 悪く言えばモルト・ウイスキーらしくなくて。
確かに。
タリスカーは、本当に上品で良いですね。
ボトラーズの物は、洗練された上品さが、絶妙に出ています。
Tさんご指摘のように、別の飲み物かも知れませんがね。
私、新年の最初の1本は、このタリスカーにします。
2002年の最初のモルトは、やっぱりね、時間を掛けて、じっくりと。
絶対に加水しないでね。
(うなずく)