テイスティング・ルーム第27回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1974年グレンマレイ・マネージャーズ・チョイス(オフィシャル)
- 1991年アードベッグ(ゴードン・マクファイル)
- 1990年ラフロイグ(SMS ロンバート)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
最初にひとつ宣伝させてください。
ホームページ上にも、実況報告のコーナーを掲載していますが、 モルト・ウイスキーの全蒸留所を網羅したテイスティング・ラリーを 4月の第1週から開始しています。
120ある全蒸留所のモルトを毎週3本ずつ、 アルファベット順にテイスティング していただく企画です。
へえ。すごいですね。
キンクレイスとか、ベン・ウィヴィスとかの希少モルトも飲めるんですか?
ええ、全部入っています。
ただ、量に限りがあるので、折り返しとかゴールの区切りに サービス・モルトとしてご提供するつもりです。
なるほど。
参加していただく方には「シングルモルトウイスキー紀行」の バインダーブックをお渡しします。
飲んだモルトごとに、テイスティング・コメントを書き込める 蒸留所データシートを1枚ずつ差し上げます。
このような形のものですね。
(といって、みんなに見せる) テイスティングしていただいて、自分の記録を残して、 それをバインドしていっていただきたいと思いますね。
そうすると、自分自身の「モルトウイスキー大全」が出来るわけですね。
すこし質問させてください。
4月第1週からだと随分時間が経っていますが 今からの参加でもいいんですか?
ええ、20名くらいを目標にしていますから、まだ大丈夫です。
毎週来れない場合にはどうしたらいいですか?
参加されている方のモルトは取り置きされていますので、 翌週とか翌々週とかに来ていただいてもOKです。
また、前の1か月分をまとめて飲むこともできます。
お好きなペースで、お好きな量を飲んでいただけます。
1か月分まとめてだと1回で12杯。
僕の肝臓じゃ、無理かもね(笑)。
味もわかんなくなっちゃうし。
「Back To ザ・ホワイエ」というわけね。
まあ、そうですね。
「Back To The Basic」で極力スタンダードなもので 行こうと思っています。
カスク好きの私としては、嬉しむべきか、悲しむべきか。
まあ、Sさんとしては悩ましい企画かも知れないですね(笑)。
1974年グレンマレイ・マネージャーズ・チョイス(オフィシャル)
それでは今日最初の1本から行きましょう。
グレン・マレイのマネージャーズ・チョイス。
1974年蒸留で、2002年の瓶詰、 熟成期間は28年です。
今回、正式に日本での販売が開始 されたんですが、実は、昨年5月の スペイサイドのウイスキー・フェスティバルで 蒸留所限定発売のものを、現地で買い求めて、 持ち帰ってきてまして、ここでもKさん他 常連さん方には飲んでもらっていたんです。
ええ、とても良い出来でした。
美味しかったです。
へえ、1974年生まれですか?。
何月ですか?。
74年の4月ですね。
うわぁっ、私とおんなじです。
生まれ月まで。
キャー、うれちい。
アルコール度数は何度ですか?
53.4度ですね。
28歳のお年頃、皆さんの印象を聞かせてください。
色は、琥珀。
少し青みがかった感じ。
ウイスキー・フェスティバルで試飲したときに、あんまり美味しくて お替りしちゃったんですよね(笑)。
でも、気持ちわかりますよ。
樽の種類は?
最初オーク樽で、最後の仕上げだけがシェリー・ フィニッシュですね。
(各自、ノージングに移って)
華やかで、良い香り。
甘くて、埃っぽい。
香水みたい。
前に飲んだときよりは、少し硬いような感じがします。
前はフルーティだったんですが、今日のは溶剤っぽい、あと松脂とか。
柑橘系の味わい。
ちょっと酸味を感じますね。
ああ、なるほど。
皮、ピールの部分。
紅茶のキャンディーみたいな味を感じるんですが。
レモンティーみたいなですか?
ああ、確かにそうですね。
ちょっとタンニンっぽい。
そうです。
甘くて、タンニンぽくて、柑橘系の特徴が出ていて。
鼻に抜けるところはレモンピールみたいな部分ですけど。
香りと味わいとを交互に感じていくと、 とても豊かな気持ちにしてくれますね。
なるほど。
幸せ感がありますね。
渋みと甘味ですね。
結構良いバランスだと思います。
後味に少し革っぽいところも感じますね。
皮って、Peelのこと?
いいえ、Leatherの方です。
動物系のニカワのような感じ。
そのあたりが、オイリーっぽさにも繋がっていますね。
ああ、そうですね。
わかります。
Fattyで、ねっとりした感じ。
最初は軽いようだけど、後半まったりとオイリーになってくる。
ええ、しっかりした感じです。
でも、しばらく置いておくと、もっと良い感じになってくるんじゃないかと 思いますね。
そんな感じしますね。
余韻は、ジワジワと続く感じ。これも良い。
本当に心地よい感じですね。
シェリー樽のような、いやらしいクセは感じないし。
フローラルで、オイリーで、クリーミー。
美味いと思います。
今日は、以前飲んだほどにはフルーティーさは感じなかったけれど。
もう少し時間がたつと開いて、もっと良くなってくるのではないかと 思いますね。
そうだね。
1991年アードベッグ(ゴードン・マクファイル)
それでは、今日の2本目に行きましょう。
ゴードン&マクファイルが出してきたアードベックですね。
蒸留年は1991年で、 熟成期間は11年。
ゴードン&マクファイル傘下の会社の スペイ・モルト社から「スピリット・オブ・ スコットランド」というラベリングでリリース されているものです。
輸入元のジャパンインポートシステム向けの 限定ボトリングです。
同社の担当者は、2日で完売しましたと 豪語しておりましたので、もしも酒屋さんで見かけたら 買っておいた方が良いかもしれませんね。
値段も買いやすいしね。
それに、スピリット・オブ・スコットランド自体の ステイタスもありますから。
アルコール度数は何度ですか。
ええっと、52.6度ですね。
注目、ニューリリースのアードベッグですが、 出来のほうはいかがでしょうか?
良い琥珀ですね。
きれいな色ですね。
樽の種類は?
リフィールのシェリー樽、ホッグスヘッドです。
ピーティー。
香り高い。スモーキー。
このアードベッグの良いところは、スピリット・オブ・ スコットランドのステイタスでノン・チリフィルターで、 キャラメル着色もしていないと表記しているところ。
ゴードン&マクファイルの瓶詰めだから、 独占輸入のジャパンインポートが敢えてそういう 表記にしている。
なるほど、そういう読み方もできますね。
ハム。
えっ、なになに。
ハム。
スモークハムです。
ああ、確かに燻製の香り。
あとタールを感じる。
面白いのは11年くらいの年数なのに、 古い感じ、長熟のような印象があるところ。
香りだけでなく、味もおいしい。
結構、アードベッグらしい味わいですね。
一口めは、すっごく甘い。
二口め、三口めからピートが溜まってきて、 甘さとピートのバランスが取れてくる。
それって、昨年年末にアイル・オブ・ジュラを試飲したときに、 ゲストのFさんからうかがった話に似ていますね。
ああそうですね。
ポットスチルにピート香のあるスピリットが溜まってくるときの。
でも、最初に感じる甘さそのものは、シェリー特有の甘さ。
そうそう。
口のなかのポットスチル(笑)。
三口めくらいに、ちょうど良いくらい。
すごく完成度が高い感じがする。
アイラ好き、ピート好き、シェリー好きにはお勧めのモルトかも。
うんうん。
おいしい。
後から少し鼻に抜けるような香り。
ちょっとメントール。
インサイダー情報ですが、間もなくこのスピリット・オブ・ スコットランドから もう一種アードベッグが出るようですね。
僕の聞いた情報では、こっちの方が良いとのことだったけど…。
そうですか。
私の聞いた情報では、 後から出る方がアードベッグらしいものになるとのことでした。
シェリー樽ではないらしいですね。
同じインサイダー情報でも、伝えた人の趣味が入るからじゃ ないんですかね。
なるほど。
シェリー好きと、アイラ好きとか。
お値打ちなんですよね?
そうね。
コストパフォーマンスの点では。
Iさん、300本くらいしか出ていないし、買っといた方がいいよ。
うふふ。そうですね。酒屋さんに行ってみます。
後半も、しっかりとスモークハムの余韻がありますね。
飲めば飲むほど、酸味が出てきて、ピートの上に重なってくる。
最初の甘さとのバランスが出てくる。
少し乳酸系の個性がある。
関係者に聞いた話では、90年前半は、 アードベッグでは古い樽が使われていた。
乳酸系の個性は、その古い樽に由来するものらしい。
アードベッグ蒸留所が再開されたのが90年からですから、 そういうこともあるかも知れないですね。
これもある意味で、口のなかのお芝居ですね。
順番に、いろんな個性が飛び出してきて、 それぞれがバランスと取りながら最後のハーモニーに向かっていく。
グレン・マレーと比較するとアードベッグの方がコッテリして甘いですね。
確かにしっかりしていますね。
その割にアルコール度数は52度くらいで、年数の割に低い。
これも古い樽を使っているせいかも知れませんが。
なるほど、蒸発、欠減が多くて。
色は良い色なんですが。
色も、香りも、味も、気に入ってしまいました。
アードベッグらしいところがいいですね。
ピーティーさがしっかりとあって。
私、元々ピート系だったんですが、最近シェリーに 転向しつつあるじゃないですか(笑)。
そう言う意味で、両方の個性があって、 びっくりするくらい美味しいんです。
これまでに飲んだ中では、あまり経験したことがないんですが 他にもあるんでしょうか?
アイラ島にある蒸留所のなかで、 比較的シェリー樽を使っているのはボウモアですね。
基本的には、アードベッグも、ラフロイグも、シェリー樽は使っていません。
サマローリが80年代に瓶詰めしたラフロイグで 濃いシェリーものがあるんだけれど、 それが素晴らしかった(1967年蒸留、82年瓶詰)。
Excellentだったんですね。
そうです、はい。
もう瓶は古くて、ボロボロでしたけど(笑)。
1990年ラフロイグ(SMS ロンバート)
それでは、本日最後の1本に行きましょう。
ラフロイグの1990年です。
これも日本市場向け、 スコッチモルト販売向けの 限定ボトリングですね。(瓶詰:ロンバード社)
こういうのが沢山あるから、 Sさんが日本滞在が長くなっちゃうわけで。
ウフフ(微笑)。
美しいゴールドですね。
ビーズも綺麗に立っているし。
国際的なモルトの市場として見たときに、 限定品のボリュームは日本とドイツで、 どちらが多いんでしょうかね。
そうですね、以前はドイツ向けが多かったけれど。
現在は良い勝負じゃないかな。
少し前まで日本の輸入業者が慎重でしたからね。
でも、バーの量と質では、東京が世界一。
何度も言ってるけど(笑)。
ドリンカーにとっては、バーの方がキイ・ファクターってことで(笑)。
ああ、これもスモーキー。
ラフロイグの煙ったさ。
最初は、すこし硬い感じ。
強い刺激があるけど。
アルコール度数は何度ですか?
ええっと、56.1度です。
これも若い割には下がっていますね。
少し酢みたいな。
酢酸っぽい。
ちょっと甘い香りも感じます。
鼻を刺すようなところがありますね。
味の方はどうかな?
ああ、びっくり。
林檎ジュースみたい。
確かに最初、甘くてフルーティ。
でもすぐにピートが追いかけてくる。
美味しい。
液体の質感を感じていると、ピーチネクターのような味わいもしてくる。
する、する。
やっぱりジュースみたいです。
ラフロイグって言われると意外な感じがするかな。
後味には、タールっぽいところがある。
ええ、確かに。
それから余韻にはピリピリとした麻痺した感覚がある。
どうですか?。
このラフロイグとさっきのアードベッグ、同じ人が作っているんですが。
う~ん、そういうことになりますね。
えっ、どういうことですか?。
2本目のアードベッグは1991年蒸留。
こちらのラフロイグは1990年蒸留です。
先ほど、アードベッグが1990年に再稼動されたと言いましたが、 再開したのは、実はラフロイグだったんです。
はあ。
つまり再開当初、ラフロイグ蒸留所の技術者たちが、 アードベッグに出かけて行ってアードベッグを立ち上げたわけです。
つまり、同じ人たちが異なる蒸留所の施設で作っていたというわけで。
兄弟みたいなもんだね。
スプリングバンクとグレンスコシアもそうだね。
一昨年にグレンスコシア蒸留所に行ったときには、そうでしたね。
あと、ジュラ蒸留所とブルイックラディも同じですよね。
そうそう1ヶ月だけ行ってましたね。
島を渡って。
なるほど。
すごいですね。
おそらく使用している麦芽も同じだと思いますが。
麦芽のうまみを感じますね。
このラフロイグ、味わいは、かなり濃いですよね。
そうですね。
さっきのアードベッグに負けてないですね。
色は薄いけれど、味は濃厚。
最初のフルーツって言うのは、ちょっとわからない。
フルーツジュースっていうほどの印象は感じないんだけれど。
ああ、ほんとに美味しい。
余韻も、うわべはスーっとした感じなんだけれど、 底の方ではしっかりと続いているところがある。
最初口に入れたときには軽やかなんだけれど、 後に残っているところが厚ぼったくて、ずっとヘビーですね。
ううん、僕はちょっと違うんです。
余韻としての、サラサラ感は最後まで続いているんです。
でも、二重構造になっていて、基底の部分には、 しっかりとヘビーな余韻が、感動のように横たわっているような感じで。
後味に、しっかりとしたピートと甘さ。
本当にしっかりとした出来ですね。
グレン・マレーが、今になって甘くなってきました。
キャラメルみたい。
時間がたって開いてきたのかな。
残念、もうないや(笑)。
それでは、そろそろ総括に行きましょうか?。
Iさんから行きましょうか?
今日は、美味すぎて難しいですね。
ラフロイグは、私の求めているラフロイグらしさもあったんですが、 それに加えて、意外なフルーティーな甘さがあって、 驚いてしまいました。
また、時間が経つにつれてうまみも出てきて、 美味しさの極致という感じです。
今日の1番です。
アードベッグは、甘さとピーティーさはハッキリとしていて、 美味しかったです。
グレン・マレイは、最初柑橘系を感じてすっきりとしていて、 美味しいモルトだと思いました。
ですが、やはりピーティとか甘さとか、 現在の自分がモルトに求めているものとは、 ちょっと個性が違うので評価としては辛い結果になってしまいます。
順番は?
ラフロイグ、アードベッグ、グレン・マレイですね。
じゃ、Kさんは?
今日は、それぞれのモルトの印象をワン・フレーズに まとめようと思ってきたので、それから言いますね。
最初のグレン・マレイは「excercise」、 二番めのアードベッグは「harmony」 最後のラフロイグは「The ラフロイグ」です。
グレン・マレイは、最初に硬い印象があったんですが、 香りと味わいの反復練習によってほぐれてくる感じがある。
松脂から柑橘系へ、タンニンの味わいから紅茶キャンディーに移って、 その後になるとFattyな感じが出てきて。
しっかりとした筋肉質のモルトだと思いました。
アードベッグは、アードベッグらしいピートが、 シェリーの華やかな甘さと素晴らしい調和を作り出していた。
完成度の高いハーモニーがすごい。
単なるミックスチャーではないところが凄い。
ラフロイグは、独特のピートの個性と麦芽の甘味とのマリアージュ。
さわやかな印象と濃厚な味わいのバランス、 基底にしっかりとある余韻の存在感。
僕にとっての「まさにラフロイグ」です。
順番は?
5点満点でいうとグレン・マレイは、3点くらいでしょうか。
アードベッグとラフロイグは両方とも4点~4.5点くらいですね。
個人的な趣味では、鼻ひとつの差でラフロイグの勝ちです。
では、最後にSさん。
僕は、グレン・マレイ、ラフロイグ、アードベッグは、 ほぼ同じくらいのレベルにあると思います。
グレン・マレイは柑橘系で、いろんな味がして、 最後にネスカフェのレモンティー(笑)。
ただ、よくまとまっていると思いました。
アードベッグは、最初甘いんだけれど、 だんだんピートが溜まってくるとバランスが出てきて美味しくなってくる。
ちょっと酸味のあるところも良い。
個人的には、極端なところがあるところが好きだから、 甘さ、ピートどちらも極端だから良かった。
ラフロイグは、最初の印象がライトで掴みにくかったけど、 徐々にピートとタールとタンニンが出てきて、長く残るところがあって、 良かったと思います。
強いていえば、鼻を刺すようなところがあったのがちょっと残念だったかな。
Iさんがもし5千円の臨時収入を貰ったら、どれを買うの。
これですね、ラフロイグ。
1万円だったら。
これを2本、やっぱり。
(爆笑)
だって、美味しいんですもん。