テイスティング・ルーム第7回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- アイランド・クラシック10年(SMS)
- 1981年カリラ19年(ザ・ボトラーズ)
- 1973年ボウモア27年(ブラックアダー)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
今回はお休み?
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
アイランド・クラシック10年(SMS)
今回は、Iさんが仕事の都合で遅れられるそうなので、途中合流を待ちながら、テイスティングの方は始めていきましょう。
おいしいとこ、先に楽しんじゃいましょうか?
賛成~。
今日は、「島物」で、最近出てきた3本を選んでみました。
まず最初の一本は、新しく出てきた10リットル樽詰の、アイランド・クラシック10年です。
ラベル、樽には、蒸留所名は記載されていませんが、中身はタリスカー10年のナチュラルで、アルコール度数は56度です。
色の濃さは、10年で、やや浅めでしょうか。
オフィシャルの10年も浅い色ですから、ほぼ同じくらいではないでしょうか。
(ノージングから)
これ、匂いは、梅酒だね。
トップノートには、ちょっと梅酒みたいな印象もあるけど、
やっぱりこのヨード臭とかはタリスカーの個性だと思うよ。
このヨード臭は、タリスカー特有のものですね。
香りは、やけに梅酒臭く感じるんだけどねえ。(と言いつつ、グラスを回す)
ああ、ようやくヨード臭が前に出てきた。
度数は56度でしたっけ?
ええ、56度です。ナチュラルの10年で56度というのは若干低めですね。
ノージングで感じるアルコール臭は、突き刺すような、強烈な印象ですね。
(テースティングに移って)
でも飲むと、そんなに強さは感じなくなるね。マイルドな印象に変わってくる。
ああ、こりゃぁ意外に甘いわ。
後に残る塩っぽさとスパイシーさは、タリスカーの個性だけれど。
口に入れた最初は、甘さと粉っぽさ。
意外にしっかりと熟成感がありますね。
エイジング・バレルという10
リッターの樽に入っていますから、熟成はドンドン進んでいきます。
早いですよ、これは。
今ここで飲む印象と、一ヶ月後に飲む印象とでも随分変わっていくんでしょうね。
ええ、はっきりと違う表情になってくると思いますよ。
後味は結構しっかり残りますね。
このエイジング・バレルは、樽詰め後1ヶ月くらい、
ここに来てから1週間くらいになると思うんですが、今日の印象は、もう最初の印象とは変わってきていますから。
最初の香り、第一印象は強烈な方。余韻の方も、しっかりと長い。
でも、舌に乗せている時には、甘くて、柔らかくて、タリスカー独特の塩っ辛さやヨード臭は、そっとその背景になっているような。
この味わいが変化していくとしたら、また暫く経ってから飲んでみたいな感じですね。
僕自身は、タリスカーには、柔らかさ・甘さ・熟成感よりは、猛々しさ・塩辛さ・ヨード臭を求めていきたんだけれど。
ちょっと加水してみますか。
加水するとフレーバーは、派手になってくる。
最初のまろやかさが無くなって、プワーっと広がった感じ。
うん、加水した方が僕は好きだな。
喩えは変かも知れないけれど、「ウィスキーらしい味」になってきた。
加水した方が、おいしさ・表情を楽しめる。
タリスカーらしさを求めるなら、加水した方がいいだろうね。
全体の出来としては、10年にしては熟成感がありますね。
ほんとうですね。
Tさん、今日は何にたとえますか。
う~ん、これは「新入社員の女性」かな。
これからどうなっていくのか、楽しみ。
なるほどね。
ところで、Iさん、遅いな。
こんなに面白いタリスカーが飲めないなんて、かわいそう。
ほんと、ほんと。
1981年カリラ19年(ザ・ボトラーズ)
それでは、二本目に行きましょうか。
ボトラーズが瓶詰めしてきたカリラの19年ですね。
ヴィンテージは1981年、アルコール度数は62.6度です。
樽の方は、リ・フィールのシェリーバットです。
以前(2000年12月のTASTING ROOM)、ボトラーズのポートエレンを飲んでいただきましたが、その時の「ボトラーズ・テイスト」の印象と重ねあわせて味わってみてください。
(グラスをかざしながら)
色はそんなに濃くはないですが、シェリーの赤みは出てきていますね。
おいしそうな色が出てますね。
封開け直後だからね、どんな感じになりますか。
…最初は、アルコール臭だね。
うん、トップは、エステル、アルコールの匂い。
あまりアイラっぽい感じはないな。
ええ、カリラ独特のピーティーさはそれほど強烈には出てこないんですよね。
前回のポートエレンよりは、多少ピートの香りも感じられるんですが。
ちょっと土っぽい感じのピート。
うんうん、そんな感じ。
(テイスティング)
黒焦げになった樽が、何年か土のなかで寝ていたような味がする。
水苔っぽい味。
後ろにシェリーっぽい甘さもあるけど。
シェリーの甘さよりはむしろ、焦げっぽさ、土っぽさの方が勝っている。
前にビデオでみたアイラ島の茶色い川を連想するな。
うん、そう。泥炭の地層とかね。
カリラで19年っていうのは熟成期間として長めの部類ですし、シェリー樽仕上げというのは、従来出てきているカリラとちょっと異なる個性を持っていると思いますね。
希少価値ってことですね。
ええ、そうです。
それでも口に入れた瞬間には、アイラ臭が口のなか一杯に広がってきますね。
甘さもしっかりと出ている。
焦げっぽさの個性の方は、余韻の方には残ってこない。
うん、舌の上に乗っかっている間だけみたいだね。
最初の味わいの印象からは、もっとオイリーさがあるかと思っていたんだけれど、それほどしつこく残る感じでもない。
加水してみましょうか。
う~ん、甘さが前の方に出てくる。
結構甘さを持っているみたいですね。
最初の印象は、アルコール度数の高さにだまされてしまいますが。
ボトラーズらしい個性も感じますね。
表面上は、上品で格調高いけれど、しっかりと骨太の特徴があって。
表面は上品なんですけれどね。
時間が経ったら、ピリピリしてきたぞ。
この刺激の余韻は、僕としては好きな個性ですね。
痺れるような余韻が、しっかりと、長く続くみたいな。
僕も、この感じは嫌いではないな。
今まで飲んだカリラのなかで、これほど長い余韻のものは無かったように思いますね。
熟成が長い分だけ、厚みが増してきているんでしょうね。
これはね、「バブルの頃から色気で勝負してきたお局のOL」って感じ。
今日は、「会社にいる人」シリーズですね。(笑)
Iさんは、まだ会社にいるのかなあ。
アイラ好きのIさんには、これは是非飲ませてあげたいなあ。
総括は最後にして、それでは次に行きましょうか。
1973年ボウモア27年(ブラックアダー)
最後は、ブラックアダー瓶詰のボウモア、1973年蒸留の27年です。
アルコール度数は50.2度で、ちょっと落ち着いてきていますね。
今日は10年、19年と来ましたから、最後はしっかりと熟成されたものを選んでみました。
琥珀色、良い色がしっかり出てますね。
(ノージングしながら)
香りは梨、フルーティで面白い。
大吟醸のようなフルーティさ。
果実臭と、ピート臭のバランスが心地良いですね。
この絶妙なバランスは、往年のボウモアが持っていた個性ですね。
樽の種類は?
これは、バーボン樽です。
(テイスティング)
味の方もフルーティ。
全般的には、サラッとした印象なんだけれど、終盤に少しオイリーさを感じる。
軽やかなんだけれど、厚いんですよね。
この舌の上の感覚は面白いですね。
スカっと爽やか、不二家ネクター。
言いえて妙だね。
最後にちょっと残る質感、ネットリ感だよね。
そうそう、「お前そんな奴だったのか」みたいな。
うんうん、わかる。
今まで飲んできたボウモアとはちょっと違う質感を持った面白い一本ですね。
時間が経ったら、ちょっと飴っぽくなってきた。
香りの方は、ピート感の方が前面に出てきたようですね。
これは加水しないで、ストレートで楽しみたいね。
本当に。
50度ですしね。
非常によく仕上がっている、古典的なボウモアですね。
これは、「仕事ができて、周りに気配りができていて、男性社員からも人気があるんだけれど、気が付いてみたら29歳になってしまった女子社員」だね。
ずいぶん長いね。(笑)
フルーティさのあるモルトはスペイサイドにも多数ありますが、フルーティさとピート感とがバランスし、ミックスされているのは、ボウモアくらいしか無いんですよね。
現在のボウモアにはない、往年の個性ですよね。Oldies、Good-daysでしょうか。
予想以上のおいしさです。
三本のモルトに順番を付けると、どうなりますか?
ダントツでボウモアですね。
確かに。でも、他の2本も、それぞれに個性があっておいしいですよね。
タリスカーは、若い割には熟成感があって、結構手軽に楽しめる感じが良いですね。
最近の傾向として、若いモルトでも、熟成感の出てきているものが多いですね。
これは推測ですが、新しい、良い樽を使っているからではないかと思います。
70年代から80年代前半の大量生産の時代には、樽であれば、どんなものでも詰めていたのでしょうが、80年代後半になって、少量生産に移行してから、樽へのこだわりも出てきてフレッシュなものを多く使うようになっているんですね。
なるほど。それで、こんなにも、おいしい!!
「おいしい」は、Iさんの専売特許ですよ。(笑)
カリラは、個性的でとんがったところが、魅力的ですよね。
焦げっぽさ、土ぽっさ、ピートの地層を連想させてくれて。
しかも、上品でありながら、艶めかしい。
これも、確かにうまい。
三本とも、良い出来ですよね。
ほんとうに安定した三杯でした。
コメント的には、つまんないね。(笑)
Iさんは、結局、間に合いませんでしたね。
それでは、お開きにしましょう。
(ガチャリと扉が開き、そこには肩で息をしているIさん・・・)
…今日、でしたっけ?