テイスティング・ルーム第21回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- 1967年マッカラン34年(ダンカン・テイラー)
- 1980年グレンタレット16年(キングスバリー)
- 余市フルーティー&リッチ(オフィシャル)
登場人物
通販関係の会社に勤務。前々回でこのコーナーを卒業したはずの30代。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
Iさんの方から、出張先の大阪から戻れなくなってしまったというIさんの方から、出張先の大阪から戻れなくなってしまったという 連絡が今夜になって入ったもんですから、 急遽Tさんにピンチヒッターとして来ていただきました。
困るんだよね、一週間ぐらい前に言われるならともかく。
ウチからここまで来るのに、どれぐらいかかると思ってんだか。
1967年マッカラン34年(ダンカン・テイラー)
いやいやすみませんねえ。
それでは、早速始めましょうか。
今日の1本目は、ピアレスのマッカラン。
ヴィンテージは1967年です。
熟成年数は34年ですね。
ピアレスというのは、ハントリーに本社のある ダンカン・テイラー社が出している シングル・カスクのシリーズですね。
ダンカン・テイラー社というのは、 ブレンデッド・ウイスキーも出している 現地のブローカーです。
そう、ブローカーですね。
現地におけるスコッチ・ウイスキーの 流通構造というのは、 オンレコの話、オフレコの話、 いろいろと取り混ぜながら、 複雑な仕組みになっておりまして、その中で蒸留所から出荷された樽を購入して、 投資とか転売目的に保有している業者のことをブローカーと呼んでいます。
ブレンデッド・ウイスキーのメーカーや、ボトラーズ物を提供している瓶詰業者は、 直接、蒸留所から樽を買い付けることもありますし、 ブローカーが保有している樽を購入することもあるわけです。
まあ一般論として、蒸留所の立場から言えば公式には認めたくない話ですけど。
本来は、流通の間に立って中継点を担っていたダンカン・テイラー社が、 自社のコレクションを自らのブランドとして出してきたのが、 この「ピアレス」シリーズというわけですね。
最近このボトル、よく見ますね。
Sさんも、いろいろなお店でテイスティングされていらっしゃるみたいですね。
これまでお飲みになってこられた印象はいかがですか。
そうですね、大きく外れたもの、期待を裏切られたものは一本も無いですね。
ただ、どれも開けてからの変化が早いように思います。
どちらかというと、早め、封を切ってからあまり時間が経たない方が良いようです。
60年代の物で、熟成30年前後のものが多いからでしょうかね。
アルコール度数は何度ですか?。
51.2度ですね。
樽の種類は?。
特に、表記はされていないようですね。
色は、少し赤みがかかった琥珀。
シェリー系かな。
フルーティーな香り。
葡萄。
そして、蜂蜜。
杏、梅のような清涼感のある香気。
だんだんと苦味、酸味のある香りが出てきた。柑橘っぽい香り。
ちょっと花のような香りもする。
爽やかさがある花。
金木犀とかかな。
樽の持つ癖のある香りもないし、全体としての香りの印象は良いですね。
味の方はいかがですか。
最初の印象は、ちょっとボウモアに似ている。
香りで感じたとの同じ、苦味のある柑橘系。
フィニッシュはグレープフルーツだね。
確かに後になって酸味は感じますね。
先日飲んだピアレスのボウモア1966は、 このグレープフルーツを10倍強くしたような感じでした。
これ、舌の上に乗っかっている間は、とても甘いんです。
サラサラとした蜂蜜のような印象。
それが、飲み込んだ後になって変わってくる。
スッと酸味が上がってきて、その後から苦味が追いかけてくる。
そう、そこで苦味が追いつくとグレープフルーツ。
マッカランで、こういう味というのはあまりない。
ボウモアとか、ジュラとかでは感じることもあるけど。
この柑橘系は、ピアレスの特徴かも知れない。(笑)
だんだんとグレープフルーツの特徴が強くなってきていますね。
もう、蜂蜜とか葡萄の印象は感じなくなってしまいました。
だんだんボウモアの66年になってきた。
少し苦すぎるかなとも思う。
苦さのなかにスパイシーな感じも出てきました。
粒胡椒とかの。
スパイシーさは、確かにありますね。
タイ料理とかの香辛料のようにも感じます。
スタートは甘くて、途中が苦くなって、最後になってまた甘くなって。
変化してますね。その変化がまた面白くて。
最近飲んでいるモルトは、どうも柑橘系が多くて。
ここ一週間ばかりは、グレープフルーツ祭り(笑)。
それは、ピアレスを飲む機会が多いからですか。
ピアレスも多いけれど、それ以外でも柑橘系多いですよ。
まあ、柑橘系は好きだから良いんですけど。
これは苦味の割には重くなっていない。
酸味と苦味が心地よいモルトですね。
1980年グレンタレット16年(キングスバリー)
それでは、2本めに行きましょう。
グレンタレットの1980年です。
熟成期間は16年ですね。
5年ほど前にキングスバリーが瓶詰して出したもので、 その当時買い求めてストックしておいたものですね。
その当時、マスターはお飲みになられたんですか。
試飲して気に入って、購入した記憶はあるのですが、 その時には店で出さないままにストックしていたものです。
5年間の間にどのように変わっているのかが、ちょっと楽しみです。
(と言いつつ、液体をグラスに注ぐ)
アルコール度数は?
53.8度ですね。
色は、琥珀というほど濃くはない、飴色ですね。
そうですね。
樽の方は、バーボン・カスクです。
私がグレンタレットに持っている印象というのは、 蜂蜜の甘さと苦さのバランス、ミディアム・ボディという感じですけど。
割とオイリーなものが多いように思いますね。
最初強く、鼻をアルコールが刺激する。
埃っぽい。
日なたの香り。
埃っぽい日なた。
プロレスラーにダスティー・ローズっていう人がいるんだけれど、 直訳すると「埃っぽい道路」(笑)。
そのダスティー・ローズの印象だね。
このモルティさの印象は、モルト貯蔵庫の香りと同じだと思います。
ああ、確かにそうです。
まさに麦芽の香りですね。
ジワっと甘い。
甘くて、ちょっと重くて。
そんなにはっきりした特徴は無いんだけれど、ほのかにモルティで、甘くて。
最初、薄めた砂糖水のように感じたんだけれど、 確かにしっかりとモルティさもあるね。
でも、結構スパイシーなところもある。
うん、後味のところね。
ちょっとだけお酢のテイスト。
質感が、微妙、絶妙なところでバランスしている。
重すぎず、軽すぎず。油っぽすぎず。水っぽすぎず。
甘いのに、その後味はしっかりと残りますね。
舌の上に、今通りましたよっていうような後味。
わかる、わかる。
舌の上に、筋が縦に一本残るような感じ。
そうそう。
かなり舌の上に強く残りますね。
舌の上に残るところに、グレンタレットのパフュームが感じられる。
グレンタレットの個性と言えるかどうか、まだちょっと自信ないんだけれど、 ザラっとした粘土っぽい個性が舌の上に残りますね。
最近飲んだモルトって言うと、シェリーっぽいものとか、 ピートっぽいものが多いんだけれど、久しぶりにモルティさのあるものに 出会ったという気がしますね。
ある友人は、モルティについて、こんな風に言っていました。
モルティという味を理解するのは、とても難しい。
でも、表現するのはとても簡単だ。
モルトを飲んで、よくわからないときにはモルティだと言ってしまえばよい。
誰も、異論は挟まない。
みんな頷くだろうと(笑)。
そのモルティな個性なんですが、時間が経ってきたら、 鼻の方では感じますが、口の方ではほとんど感じられなくなってきました。
確かに。
人口甘味料のような味がしますね。
それは、グレンタレットの個性の1つです。
舌に残るような甘さの部分ですね。
ちょっと変わった飲み物という感じになってきましたね。
味わいが濃くなってきましたね。
辛みも増してきた。
最初は、サラリとした印象だったんですが、 だんだんとコッテリとしたものになってきましたね。
気のせいか、グレープフルーツっぽくなってきた感じが・・・(笑)。
一連の柑橘系・グレープフルーツ症候群ですか?
でもフィニッシュの方は甘味料の個性から、 次第にナチュラルな味わいに変わってきているんですけど。
辛さも、少し渋さに変わってきた。
これぐらいの味だと、いつまでも飲み続けちゃいそうですね。
もう一口、もう一口ってね。
ハーフ・ショットくらいで始めてしまうと、後が怖い。
お勘定がね(笑)。
ひとつの世界があって、その世界に虜になってしまいそうな。
加水したら、個性の強さが無くなって大雑把になってきた。
加水すると、ぼやけてしまったようだね。
余市フルーティー&リッチ(オフィシャル)
それでは、今日の3本目に行きましょうか。
ニッカが3本、シリーズで出してきた余市のシングルカスク12年、 「フルーティ&リッチ」ですね。
テイスティング・ルームでも、 シェリー、ピーティと続けてやってきましたから、 今回が3本目になりますね。
他のお店ではあまりおいてないから、 ISLAYなら日本のモルトも飲めるだろうと 我慢してました。
本当に良かったよ(笑)。
樽は、バーボン・カスクですね。
アルコール度数は?
59.7度ですね。
ヴィンテージは何年ですか。
このボトルを含め、3本とも1989年ですね。
ニッカは、この頃に相当に良い樽を使っているようなんです。
例のウイスキー・ライブで最高評点を取得し、 インターネットで販売している余市のナチュラル・カスクは 熟成10年になっていますが、10年にこだわっていると 良い樽が選べなくなるかもしれない。
熟成12年にしてはどうか、という意見もあるようなことを聞きました。
今年は、ニッカがソサエティに選ばれた記念すべき年ですから、 最高品質のものを記念の限定カスクなどで出してもらいたいですよね。
10月に竹鶴さんがセミナーに来られた時に、 お願いしてみたらいかがですか。
いいですね。そうしましょう。
それでは、3本目の余市は、いかがでしょうか?
色あいは琥珀、良い色ですね。
松の森にいるような。
松の葉っぱ、松葉、青いフレッシュな。
強くて、コッテリした感じの香りです。
私の故郷の、松林の香りです。
これって、フルーティーですかね。
リッチな香りだとは思います。
確か解説には、バナナと書いてありましたね。
バナナと言われれば思えないこともないかな、って感じなんだけれど。
松葉のほうが、そんな感じですね。
私の故郷には、松の木がたくさんあります。
その香りです。
あとだんだん杉っぽくなってきている。
この濃厚な香りの印象は、ドリアンとか、スターフルーツとか。
甘さと酸味が濃厚に出てくるようなトロピカルフルーツの香りだと思いますね。
確かに、そうですね。この香りは南方の果物でしょうね。
味わいは妙。
奇妙というのではなく、良い意味でね。
うん、バナナの濃い味わい。
確かに出ている。
フレッシュなバナナではなくて、ドライフルーツのバナナ。
後が、すごく辛い。
最初、ちょっと塩っぽい。
その後だんだん、香料のようなバナナの味。
これまでのシェリー、ピーティと比較すると、 今日のフルーティーが最も刺激が強いようですね。
リッチというのは確かにわかる。
刺激は確かに強いのですが、飲み干した後には、 喉の奥からホワホワっとした心地よい余韻が上がってくるように思います。
さっきの辛さは、ピートに由来するもののように感じますね。
そうですね。塩辛さとピートが両方一緒になったような。
そうそう。
後味、余韻にも、バナナの香りは強くありますね。
唇と舌に、ジンジンと来る強さがあるんですよね。
それは、僕にとっては、辛さですね。
僕の場合は、ちょっと違って、 すごく辛いカレーを食べた後に残る刺激のような。
ああ、なるほど。
刺激が強くて、麻痺したような感じだね。
味わいは、確かにリッチだね。
ただ、個人的な印象としては、フルーティ&リッチじゃなくて、 スパイシー&リッチ。
僕は、ソルティー&リッチ。
真中のあたりでも、ウッディで、松葉の香りはしますね。
海辺にある松林あたりにいるんでしょうかね。
でも、やっぱり甘ったるいトロピカルフルーツ。
熟したバナナとかマンゴなんかを食べているような 印象はありますけど。
ピリピリした刺激がなくなると、濃厚な甘さが前に出てくるんですよね。
その甘さが、人工的なバナナチップ。
この味わいはとても面白いですね。
これまでに飲んできた自分の中にあるウイスキーの世界観が さらに広がったような感じがする。
アルコール感がなかなか消えないね。
フルーティっていうと、我々日本人は、葡萄とか桃とか林檎とか、 柑橘系とかをイメージとして思い浮かべるけれど、 バナナっていう感じにはなりませんよね。
Sさんの場合は、どうですか。
フルーティの言葉どおりです、果物であれば何でも。
バナナもフルーティです。
あんまりドリアンとかのトロピカルフルーツを食べていない というのもあるけれど、バナナを連想することも少ないように思いますね。
インドネシアの人にとっては、フルーティ。
タイの人とかね。
エスキモーには?
彼らには、果物ないですよね。
最近、こういったテーマにすごく興味がありますね。
僕自身はアメリカで生まれて、日本に来てモルトに出会って、 でもスコットランドには暮らしたことがない。
そういったなかで経験してきたことを振り返ってみると、 誰かの書いたテイスティングのコメントを読む、 自分のコメントを誰かに理解してもらうというのは、 とても難しいことのように感じることがあります。
この間、日本のバーで飲んでいて鰹節と表現した友人がいたけれど、 これを英語に置き換えて誰かに伝える、 理解してもらうことはおそらくできない。
イギリス人が咳止めシロップと表現するモルトが、 日本人にとっては、椎茸の味わいとして表現される。
こういう背景にある食文化の違いを飛び越えるようなことはできない。
フルーティと表現される味わいが、フルーツのないエスキモーにとって、 どう表現されるのかとても気になる。
日本人の表現のなかには、ダシが聞いている、 旨みがあるというのがありますが、欧米ではどうなんですか?。
料理人の世界では、「Umami」というのは共通語になっていると思います。
英語として、辞典に載っています。
2本目のグレンタレットは、ダシの香りしますね?
何のダシ?
昆布のダシかな。
こうして、余市のシングル・カスクを3本飲んできましたが、 確かにそれぞれうまい。
シングル・カスクの面白さはそれぞれにあるんですが、 個人的な印象としては、どれも突出し過ぎているんじゃないかとも 思うんですが。
確かに、飛び跳ねていると思いますね。
バランスさせた方が、美味しいウイスキーになるようにも思いますね。
それぞれのシングル・カスクの面白さは、全面的に評価しますけれど。
最初に出たシェリー樽は、よくできたシェリーと思いました。
それよりも後に出た2本の余市の方が、どちらも素晴らしい。
樽の個性よく出ていて、とても好きです。
ソルティは判り易かったですよね。
シェリーも完成度は高かったと思います。
フルーティは、興味深いけれど、個人的にまだ評価として固めきれない感じ。
だんだんスパイシーさが無くなって来たようにも感じますが。
自分としては、甘さとスパイシーさが、行ったり来たりしています。
この変化、繰り返しが、とてもいい。
往復運動みたいな感じですね。
飲んでいる間に、良くなってきていますね。
それでは、まとめに行きましょうか。
Iさんがお休みですから、まずはKさん。
最初に飲んだマッカランは、柑橘系の味わいと、味わいの変化が楽しめて、 完成度は高いと思いました。
2本目のグレンタレットは、甘さとモルティさ、 質感のバランスが絶妙だと思います。
軽すぎず、重すぎずで。
余韻の長さも良かったですね。
3本目の余市は、濃厚でフルーティな世界に引き込んでくれますね。
これまでの世界観を広げてくれたという意味で、自分にとっては良いモルトでした。
Tさんは?
3本とも共通して言えるのは、複雑でスパイシー。
イメージとしては男の飲むモルトという感じでしょうか。
どれも、それぞれがスッキリとしていて。
それぞれの違いを際立たせると、どんな感じですか? 好き嫌いとか。
難しいですね。
うまく言えないな。
どれが好き、どれが嫌いもないし。
今日は飛び入り参加だけど、こういう経験が出来て、とても面白かった。
最後に、Sさん、お願いします。
僕にとって、マッカランは、とても美味しいロングモーンだと思いました(笑)。
ロングモーンか、ボウモア。
まあ突き詰めていくと、ピアレスの味かも知れない。
グレープフルーツの世界を楽しめました。
評点は?
VG(Very Good)です。
グレンタレットの場合は、とても面白い。
また、飲んでみたくさせる魅力がある。
一口飲むたびに、8点になったり、5点になったり、 また、7点に上がったりする。
総合的には、あまり評点は高くないけれど、 自分自身がまだ掴みきれていないせいかも知れない。
余市は、懐かしい故郷の松葉の香りが良かった。
塩辛いのも好きだから、とても好きです。
そういうわけで、評価はGVGです。
フルーティと言われると、ちょっと意外なところもありますから、 人によっての評価はバラつきがあるかも知れないですが…。
そうですね。でも、自分にとっては良い出会いでしたね。
枝から取ったばかりの青い松葉の清涼感は、心地よかったですね。
今日の3本は、とても楽しかった。