テイスティング・ルーム第8回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者ながら、
マスターに勧められるモルトをテイスティング、勝手なおしゃべりをしています。
話の内容については、まあ大目に見てあげてください。
今回のウイスキー
- フィンラガン15年(ヴィンテージモルト社)
- 1977年アードベッグ24年(オフィシャル)
- 1977年アイル・オブ・ジュラ25年(マシュー・フォレストPB)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
今回はお休み?
通販関係の会社に勤務する30代の男性。以前は著述業を副業としていたので、表現は独創的。
今回は、参加してますが・・・。
金融関係の会社に勤務する30代の男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい。
とあるバーのマスター。?代の男性。
今日は、ご都合によりTさんがノージングだけのご参加とのことですが、
本当に香りだけで大丈夫ですか?
うん。
なめるだけなら、良いんじゃないの?
い・・・、いや。
今日は、テイスティング・モルトの他に、珍しいものを持ってきました。
ウーロン茶のペット・ボトルが2本・・・。
これは一体何ですか?
6月にスコットランドに行ってきたのですが、
その時に蒸留所で有り難く頂戴してきたモルトです。
どちらも、まだ日本には入ってきていないものということで、特別に用意しました。
どこの蒸留所かは、後で種明かししますから、最初はブラインドで味わってみて、
今まで飲んでみたモルトのどこに近いかを考えてみてください。
こりゃ、楽しみですね。
ちょっとこわい気もしますが…。
まあ、気楽にやってみましょう。
じゃ、最初の一杯。どんな感じでしょうか。
色は、やや浅めの琥珀ですね。
うわ、とっても甘い香り。
とてもフルーティな甘さ。桃とか、杏の香りだね。
これは、まさに白桃ですね。香りの方も味の方も。
味は、すっきりとした桃の甘さですね。
ちょっと人工甘味料っぽいところもあるけれど、いやな口残りもないし、軽快でいいね。
どこのモルトだと思いますか?
桃の香りというと、66年のボウモアくらいしか思いつかないんですが、こんなに軽快ではなかったし。
おいしいけれど、全然思い付きません。
実はこれ、グレン・グラントの5年なんです。イタリア国内向けなんですが。
えっ、グレン・グラントですか?
個性として、割と甘さが前に出てくるとは思いますが、こんなに白桃の香りと味が出ているものは知りませんね。
しかも、とても若いし。
本当ですね。
でも、長靴の国のモルト通は、若くて安くてこんなにも美味いモルトを飲んでいるようですよ。
ちょっと悔しい気もしますね。
(恨めしそうに)本当に・・・。
さて、次のスペシャルは、こちらです。
色の方は、やや赤っぽい琥珀色ですね。
うわあ、すごい消毒の匂い。病院のアルコール臭。あと、ヨード臭。
これは、間違いなくアイラ・モルトだよね。
う~ん、ラフロイグ、ラガブーリン、アードベッグ、カリラ、ポートエレン。
一体どれだろう。
どれかの様でもあり、何種かのヴァッテッドのようにも思える。
味の方も、ヨード臭と病院臭がしっかり残りますね。
う~ん。
さて、何だと思いますか?
Tさん、これはちょっとだけ舐めてみたら?。
・・・いや、舐めたら最後だから。
この強めのヨード臭と、薬品臭は、ラフロイグですか。
実はこれ、ボウモアなんです。
ボウモア蒸留所で入手した12年物、EC向けの最新ボトリングです。
えっ、こんな味でもボウモアですか?(笑)
最近のボウモアの個性というと、キャンディー・フレイバーの甘さと、若々しいフルーティーさとほのかなヨード臭かなと思うんですが、これと共通しているのはヨード臭の部分だけですね。
12年物で、この味は感激だなぁ。
我々が知っている最近のボウモアは、どちらかというと甘さが前面に出ていましたが、これはややドライで、しっかりしたヨード臭・病院臭が個性となっています。
ここにきて、昔のボウモアに回帰してきているように思われますね。
そう言えば、以前に73年のビンテージで飲んだ蒸留所ボトルが強烈な薬品臭を個性として持っていました。
そうですね。
70年代前半には存在していた、古き佳き個性の復活ですね。
個性的な味ですが、アイラ好きには堪らないでしょうね。
フィンラガン15年(ヴィンテージモルト社)
それでは、最初のテイスティング・モルトから行きましょう。
これは、フィンラガンの15年です。
まあ、中身はまた、カリラの15年だと思われるのですが。
フィンラガンとして出てくるカリラは、大体いつもかなり濃い色なのですが、今日のも、まあ御多聞に漏れずといった色ですね。
やや赤みがかった濃い色ですね。
いまヨーロッパでは、フィンラガンは年数表示なし、ノン・ビンテージのものがポピュラーなのですが、今回は15年という長めの年数表示のものですね。
いま出てくる15年ということは、80年代の半ばくらいに蒸留されたものですね。
そうですね。
そういえば最初に国内に入ってきたフィンラガンは、確か82年くらいの蒸留の、12年物のナチュラルで60度くらいでしたね。
今回のは、加水調整されて43度になっています。
(まずはノージングしながら)
最初の印象は、ピーティ。
最初に香りを嗅いだ時に小学校の予防接種を思い出したんです。
うん、これ、クレゾールや病院臭とかとは、ちょっと違っていて…。
ちょっと懐かしいような香り。
これって、注射の前に腕に塗るアルコールの香りですよ。
そうそう。あの香りでしょ。
さっきのボウモアの余韻が強く残ってしまっていて…。
ちょっと待ってください。
おやまあ。
カリラよりもボウモアの印象が強いなんて、ちょっと考えられないことですね。
(にっこり)
アルコール臭だけではなくて、ブドウのチューインガムみたいな甘い香りも感じる。
確かにフルーツのような甘さも感じられますね。
でも、やっぱり予防注射の前のアルコールが強いよ。
カリラの香りの個性は、どちらかというと歯医者の香りに近いんですけれど、これは体育館で並んで腕に塗ってもらった、あのアルコールの香りなんですよね。
へえ~っ。(ちょっと年代の差を感じて?)
味の方はいかがですか。
う~ん。
最初、舌の上に刺すような刺激があって、その刺激が立ち去った後に、ピートの粒粒が味蕾の上に残ったような印象。
アルコール度数は何度でしたっけ?
えっと43度ですね。
43度ですから、おそらく輸出仕様だと思います。
ピートの苦みが立ち去った後には、ほんのりした甘さも残っているね。
苦さが残るところが個性的ですね。
最近のカリラの味とは違った個性ですね。
本当にそうですね。
余韻も長いように思います。
うん本当に。
ザラっとした口残りが余韻に繋がるんだよね。
ちょっと加水してみますか。
あまり印象の変化はないですね。
やっぱり苦みの余韻が感じられますね。
以前に飲んだフィンラガンは、逞しくて、男性的な印象があるんですが。
確かにシャープでしたよね。
辛口で、キレが良くて。
あれも確か、時間が経つとナッツィになってきたんですよ。
チョコレートっぽい感じも出てきて。
時間が経ってきたら、埃っぽい感じもする。
うん、香りは、埃っぽいな。
味の方は?
苦さと埃っぽさ。
口残りのザラっとした感じは、ちょっとナッツっぽくなってきた。
ところでフィンラガンって、城の名前でしたっけ?
アイラ島にあった王国の首都だった場所にあった古城の名前がフィンラガンで、現在も、発掘作業が行われています。
カリラ蒸留所、ブナハーブン蒸留所に行く途中にある場所なので、フィンラガンという名前の付いたボトルの中身は、カリラか、ブナハーブンだと言われています。
ただ、これまでに我々が目にしているフィンラガンは、ほとんどがカリラですね。
1977年アードベッグ24年(オフィシャル)
それでは次に行きましょうか。
次は、アードベッグの1977年蒸留の蒸留所ラベル(DB)です。
今回、新しくボトリングされたヴィンテージなのですが、随分自信満々でして、以前に78年蒸留と75年蒸留が出ているのですが、今回の77年蒸留が最も高価です。
彼らは、77年はとても良い年だといっているのですが、数が少ないから高いのだと言っています。
最近、出されているアードベッグについて言えば、74年蒸留のプロヴィナンス、これが非常に良い出来でした。
他に76年蒸留があって、これは全てマネージャーズ・チョイス。
蒸留所限定発売で、フランス向け、イタリア向け、日本向けの逸品が出ています。
それとコミッティー・ボトリングの限定品が出ていますね。
(ノージングしながら)
麦茶と微かに酢昆布の香りがする。
ああ、本当に。
非常に引き締まった良い香りがしますね。
蒸留は1977年ですが、瓶詰めは今年の2月か3月ですから、樽での熟成期間は24年ですね。
この酸味のある香りは、サウザン・アイランド・ドレッシングに近いものがありますね。
ああ、味わい深い、良い香り。
今回のボトルは以前に出ていたものと同じ、46度の熟成物として出されています。
(テイスティングに移って)
味の方も、香りと同様に、やや苦みのあるスッキリしたモルトという印象です。
深みがあって、すごくおいしく感じます。
深みのある味、コクとか熟成感も、しっかり兼ね備えている。
土っぽいけれど、すごく甘さも残っていて。
ああ、口の中で、すごく膨らみが増してくる。
サンマの焦げた皮の匂いがしてきたような。
うん、するする。
この匂い、やっぱり好きだな。
とても落ち着く香りですよね。
う~ん。
今日は喩えが難しそうだな。
うう~ん。
ここまできて黙っちゃって、どうしたの?
香りだけで言うと、この奥にある香りがねえ、ずんだ餅なんだよね。
おとなしくまとまってしまった印象がありますね。こちらの方は。
おとなしく見えていますが、24年の割には結構パワーありますよね。
青年のパワーと熟年の落ち着きと両方兼ね備えているようにも思えますね。
一番最初の頃のヴィンテージは78年の蒸留で、98年か99年くらいの瓶詰めだったから、20年前後の熟成ですよね。
ここにきて、周りに目もくれず、頑張っている感じありますよね。
合わせて、今回のボトルは飲みくらべてみて、しっかりパワーを維持していますね。
ちなみに余談ですが、このボトルは、アードベッグ蒸留所のマネージャーであるスチュワート氏の子供が産まれた時に選んだものだそうです。
そんな訳で、スチュワートJrの出生証明書も添付されてきています。
へぇ~っ。結構プライベートなこともアニバーサリーになるんですね。
ちょっと加水してみますか。
どこまでアードベッグらしさが出てきますか?
ちょっと甘みが増してきたような気がします。
加水すると、香りの表情が出てくる。
立体的になって、四角い顔と丸い顔の、両方が見えてきたような。
やっぱり香りに甘みと深みが出てきています。
味わいの方には、あまり変化がないね。
そうですね。
度数46度だから、あまり変わらないのかも知れませんね。
ただ、薄くなった分だけ、余韻が短くなる。
余韻の無い、すっきりした後味が好みの人は加水すべきだね。
Kさんは、逆でしょうけどね。
エヘヘ。
脚が長い方が幸せも続くんです。
1977年アイル・オブ・ジュラ25年(マシュー・フォレストPB)
それでは、最後の一本。
アイル・オブ・ジュラの1975年。
熟成期間は25年です。
フォレストさんという方のプライベートボトリングでして、ジュラの蒸留所で樽詰されてから、インバーゴードンで長期熟成されていたものです。
ボトリングの直前になって、その樽をジュラ蒸留所に持ち込んで、そこで瓶詰めにしたということで、こだわりの逸品です。
で、このラベルも、アイル・オブ・ジュラの復刻したものを貼ってあります。
実はジュラ・ホテルのハウス・ウイスキーも、これと同じラベルを貼っているのだと、フォレスト氏が言っておりました。
そこで6月にジュラ・ホテルに行って、この目で確認してきましたが、本当に同じラベルを貼ったボトルが並んでいました。
ジュラ蒸留所とジュラ・ホテルは関係があるんですか?
ジュラ蒸留所のすぐ前にあるホテルが、ジュラ・ホテルという名前なんですが、このジュラ・ホテルのオーナーが、どうもジュラ蒸留所の敷地を所有しているようですね。
かつて、蒸留所の敷地利用を巡って紛争していた時期もあったようで、蒸留所を閉鎖していたこともあったのですが、今は解決して、運転を再開しているようですね。
どうもジュラ・ホテルは、ジュラ蒸留所から特別に専用ボトルとして、ハウス・ウイスキーを入れているようですね。
(ノージングしながら)
はぁ~っ、甘ぁあい香り。
確かに甘みもあるけど、アルコール臭も強く出ている。
これ25年の割には、アルコール度数が60.9度もあるんですよ。
甘さの方も、強烈ですね。
香りで言えば、アルコール臭の最初のアタックが印象的ですね。
甘さがすごい。蜂蜜のような甘さです。
香りのきつさ、嫌な感じは無いな。
口に入れると、濃厚な香りが立ち上ってくる。
盛り上がってきますね。
甘さのある、霧みたいな香りですね。
ちょっと前にアランが出してきたアイル・オブ・ジュラの1966年とは、印象の点で対極ですよね。
これはおそらくバーボン樽だと思うんですが、25年の割には、色があまり乗ってきていませんし、アルコール度数は高いし…。
確かに、アラン瓶詰めのジュラ66年は、真っ黒な色でしたね。
度数も44度くらいでしたし。
(テイスティング)
味の印象は、逞しく、力強い。
盛り上がって、甘みが強くて、ちょっと苦みもあって、飛び込んでくるみたいな。
確かに表情は、多彩で豊かだね。
ホワイト&マッカイ社は、ブルイックラディ蒸留所を売却してしまって、シングル・モルトについては、ジュラとダルモアに限定して、全力投球するのだと言ってますね。
リチャード・パターソン氏は、そう言い切ってました。
ジュラ蒸留所は、今回行ってみたらビジターセンターも新設して、きれいになっていました。
ただ、ちょっと不便なんですよね。
アイラ島から、またフェリーに乗って行くしかないですからね。
島には蒸留所しかなくて…。
鹿と羊は沢山いますけどね。
確かジュラ蒸留所は、仕込み水がピート層から染み出してきているんでしたよね。
麦芽の焚き込みはしていないんですが、仕込みの水がピーティーですね。
力強くて、余韻が長くて。香りもきつくなってきた。
甘みもしっかりと残りますね。
じゃ、総括してもらいましょうか?
おやおや、Tさんが、いつも言われている台詞ですね。(笑)
今日のは、ちょっと難しいな。
一番おいしかったのは、アイル・オブ・ジュラですね。
でも難しい。あとは、ちょっとパスさせてください。
フィンラガンについて言わせてもらえば、
前のフィンラガンは、強くて飲めない人もいたと思うんですが、今回のは、こなれているというか、万人向けのものというように感じますね。
アードベッグについて言えば、蒸留所に残っていた70年代の樽が順次瓶詰めされてきているなかで、最後の方の良いところが、この77年でしょうか。
あと期待しているのは、1979年が出てくるかどうかですね。
じゃ、総括しますね。
アイル・オブ・ジュラは、完成度が高くて、パワーと精悍さのあるドイツ車のイメージですね。
アードベッグは、円熟味はあるけれど、個性的な自己主張のあるフランス車。
フィンラガンはう~ん・・・やっぱり若いからな。
軽快なイタリア車のイメージでしょうか。
伝統的なジャガーのイメージは無かったんですか?
まあ、今日のは3本とも、広い意味ではイギリス車だからね。
Tさん、ノージングだけでしたけど、どうですか?。
今日の3本は、みんな酸っぱいウイスキーだから・・・。
(注:最初に登場したペット・ボトル入りのウイスキーにつきましては、もう残っておりません)