テイスティング・ルーム第25回
東京のとあるバーに集まる男女3人。
モルト通とはまだまだいえない初心者からセミプロまでいますが、
自分勝手なことをしゃべっているには変わりありません。
話の内容については、まあ信用できるでしょう。
なにせ呑んじゃってるんですから。
今回のウイスキー
- 1967年マッカラン34年(ハート・ブラザーズ)
- 1970年グレンリベット30年(ジョン・ミルロイ)
- 1974年カリラ27年(キングスバリー)
登場人物
マスコミ関係の会社に勤務。おいしいものをおいしいと言える、20代の素直な女性。
金融関係の会社に勤務する男性。仕事がシビアな割に、舌の方の評価は優しい40代。
昼は国際派ビジネスマン、夜はバー&モルト逍遥の達人。
歯に衣着せぬコメントとおやじギャグが痛快な男性。
とあるバーのマスター。?代の男性。
前回はアイラのヤングガール特集でしたが、 今日はスペイサイドなどの大年増を取り揃えました。
ハッハッハ。
本当はロングモーンを入れて、3本ともスペイサイドにしようかとも 思ったのですが、1本だけアイラ島の熟女も入れておきました。
ロリコンからマザコンへ(笑)。
1967年マッカラン34年(ハート・ブラザーズ)
最初の1本は、ハートブラザーズが出してきたマッカランです。
1967年蒸留の34年ですね。
ご覧の通り、色は薄いのですが、 アルコール度数も41.8度まで 下がってきておりますので、 例のブローカーが慌ててストックを出してきたのでは ないかとの憶測も出ております。
なぜ慌てないといけないんですか?。
アルコール度数がギリギリ。
えっ?
40度未満になってしまうと、 ウイスキーじゃなくなっちゃうんです。
そうそう。
まあ、度数の高い原酒とのブレンデッドとかヴァッテッドにして 40度以上にすれば、ウイスキーになるんですが。
シングル・カスクのモルト・ウイスキーとは言えなくなっちゃう。
なるほど。
どんな個性が出ているか、味わってみてください。
色は本当に薄いですね。
すっごく良い香りです。
トップは、大鋸屑の香り。
オ・ガ・ク・ズ?。
それ何?
のこぎりで材木を切った時にでる木の粉です。
オガクズね、なるほど。
あと、甘いフルーツの香りだね。
ああ、そうですね。
フルーツ、わかります。
クルミですかね。
ああ、クルミ、そうかもね。
本当にすごい甘い香り。
樽の表記はあるんですか?
特に記載はないですね。
個人的には、かなり使い古したホッグスヘッドじゃないかと思います。
(各自、テイスティングに移って)
味の方も、とっても美味しいです。
とても好きな味です。
最初の味わいは、ソフト&メロウですね。
ちょっと刺激を感じるんですけど。
後の方にありますね。
日本には無いけど、シナモンキャンディーにレッドホットっていうがあるの。
甘いけど、ピリピリする。
そんな感じ。
ちょっと時間が経ってくると、グレープフルーツのワタですね。
Sさんの大好きな個性の一つですね。
僕は、葡萄の種っていうんですけど。
たしかに柑橘系の個性はありますね。
ところでSさんは苦みは感じませんか?
今のところは苦みは出てきてないね。
僕はグレープフルーツのワタみたいな苦みは感じますね。
後味はグレープフルーツみたいですね。
ああ、だんだんと柑橘のクセが強まってきた。
最初のシナモンキャンディーから変わってきた。
最初の刺激は、もう感じませんね。
柑橘系の個性は後半に余韻の方で感じますよね。
でも、最初に口に含んだ時に感じる、麦っぽい味わいの個性については、 ソフトな甘さが出ているんだけれど。
ちょっと捕らえどころのない印象がある。
スタートは確かにそうですね。
ただ特筆される特徴ということになると 中盤からフィニッシュにかけての個性になる。
シナモンキャンディーから柑橘系への変化。
で、強いて前半の個性を言うと、ソフト&メロウな甘い麦。
後半になると賑やかな刺激が出て、柑橘系の余韻がしっかりと。
このフィニッシュ好き。
どこがマッカランか、わからないね。
本当だよね。
よくよく見たらハイランドパークだったりして。(笑)
マッカランって言われるとちょっと肩透かしだね。
34年って言ったら、また肩透かしだね。
香りはだんだんクリーミーに。
なってきた、なってきた。
Kさん、加水は?。
加水したらちょっと硫黄とか、ゴムっぽくなってきた。
ほんとだ。
ゴムっぽい。
前半のサッパリした印象から、随分とクリーミーになってきた。
でも、またピリピリした刺激が戻ってきた。
1970年グレンリベット30年(ジョン・ミルロイ)
次に行きましょうか。
ジョン・ミルロイが出してきたグレンリヴェットです。
蒸留は1972年の30年熟成。
アルコール度数は、 ナチュラルの47.3度ですね。
樽は?
よくぞ聞いてくださいました。
実は今回、ジョン・ミルロイが2種類の グレンリヴェットを出してきてます。
ミルロイでは、同じヴィンテージでバーボン・カスクと リフィールのシェリー・カスクを カスク番号の一番違いで出ておりまして、 今日のこれはシェリーの方です。
これは余談なんですが、バーボン・カスクの方は、 全量を輸入元のスコッチモルト販売が買取っています。
彼らは両方をテイスティングした結果、 バーボンの方が素晴らしいと判断したようです。
一方、今日テイスティングするリフィール・シェリーの方は、 エイコーンが輸入したものです。
なるほど。
個人的には、グレンリヴェットの30年というとシェリーの方が 雰囲気良いんじゃないかと思うんですが、いかがですか。
そうね。
でも、バーボン・カスクだったら、繊細な個性がありそうな気もする。
バーボンか、シェリーか、どっちが良いか。
まずは、皆さんのグレンリヴェット・シェリーについての感想を聞かせてください。
ああ、本当に良い匂い。
よっ、シェリー党総裁!。
完全に鞍替えだね。
そうそう。
甘い香りが、キャラメルマキアートみたい。
ああ、なるほど。
良い表現だね。
ウッド、Dusty。
あと、シェリーか、キャラメルか。
本当に良い匂い。
味の方はいかがですか?
お・いっし~い。
確かにラベルのテイスティング・コメントには アーモンドって書いてありますね。
口に入れたときに感じる香ばしい味ですね。
でもシェリーらしさもあって、それとキャラメルとの間みたいなところ。
確かに両方のあいだだね。
若干ゴムっぽさも感じる。
でもゴムっぽさも平気になってきました。
不思議ですね。
おいしい。
ああ、アーモンドフルーツケーキみたい。
缶入りで、蜂蜜で固めたような。
下の方に硫黄臭が薄くあるけれど、それが深みになっている。
確かに下地になってますね。
本当にいいわ、これ。
このボトル欲しい。
中身じゃなくていいの?(爆笑)。
じゃ、一緒に買いましょう。
僕が中身を飲んだら、瓶の方をあげるから。
お金の方は折半でいいし。
それは困ります(笑)。
ところで、このラベルの男の人がミルロイさんですか?。
ええ、そうです。
この肖像画だけど、ちょっと楽屋話を。
このジョン・ミルロイの肖像画は、もともとスコッチモルト販売の ミルロイ・ボトリングのために描かれたものだった。
ほお。
それで。
ミルロイがこの肖像画をとても気に入り、ジョン・ミルロイが 自社のボトリングに使うようになった。
エイコーンが輸入するものも(笑)。
確かにスコッチモルト販売ボトリングのラベルに描かれている 画家さんのタッチですね。
いかにもグレンリヴェットのシェリー、長期熟成っていう感じ。
典型的ですよね。
そうですね。
うんうん。
蜂蜜の甘さの他、あとどんな感じ?
プラムを感じますね。
梅酒に漬けた梅。
ああ、なるほど。
そういえば、前回のゲストのFさんが梅酒を持ってきてこられてましたね。
焙煎樽貯蔵梅酒でしたっけ。
あれも、おいしかったですね。
確かインターネットで買えるんですよね。
ええ、梅酒の梅じゃなくて、オーク樽に詰めた梅酒ですけどね。
このグレンリヴェットについて言えば、スタートの個性をあまり感じない。
直接フィニッシュの方に行ってしまうように思う。
トップは、蜂蜜とかシロップの甘さですよね。
口に入れた瞬間はあまり感じなくて、ワっと広がってくる。
最初ジワジワとしたら、一気に盛り上がってくる感じですよね。
変化の仕方が良いですよね。
いきなりグラン・フィナーレ(笑)。
花火が、バンバンあがって。
わかるわかる、そんな感じ。
加水したら、どんな感じですか。
2、3滴の加水なら、ほとんど変わりませんね。
ちょっと渋味もあるけど。
それほど嫌らしいものではない。
知り合いのバーテンダーに言わせると、 開け立てで素晴らしい個性のあるものは、 時間が経っても、それ以上に良くなることはほとんどない。
逆に開け立てでダメなものは、時間が経つことで リカバリーされてくるものもある。
ここまで良い出来のものは、これ以上にはならないと思う。
開け立てから花火ドンドンだもんね(笑)。
1974年カリラ27年(キングスバリー)
それでは、最後の1本に行きましょうか。
アイラ島生まれの熟女ですね。
キングスバリーが出してきた カリラの1974年です。
27年熟成で、 アルコール度数は59.7度ですね。
私と同い年だ。
それって、私がもう熟女ってことですか?。
いやいや、あくまでもウイスキーの年頃ですから。
まあまあ・・・。
今のカリラ蒸留所が建て替えられて、 新たに操業を始めた年ですね。
1974年蒸留のカリラは割と多くの ボトラーから出されていますが、 キングスバリーのこの1本は どんな出来になっているでしょうか?。
色は薄めですね。
ああ、すごい香りだ。
ノージングしなくても、ここまで香ってくる。
すっごぉ~い。
まさにアイラの香り。
アイラ島へようこそ(笑)。
消毒液の香り。
きれいにビーズが立っていますね。
このキングスバリーは、ラベルに特徴があります。
このように手書きなので、ハンド・ライティング・シリーズと呼ばれています。
以前にも、ハンド・ライティングのものはありましたが ラベルのスタイルはちょっと変わっていますね。
前のハンド・ライティングは、”Hand Writing”と書いてあったけれど、 今回のシリーズには書いてない。
個人的には前のデザインの方が好きかな。
筆書きの文字に、赤い絵柄が付いていて年賀状みたいですね。
そうそう。
キングスバリーの社員がラベルを印刷してるの。
プリントゴッコで(笑)。
トップの印象はDustyですね。
香りは、塩辛いウッドとLicorice。
リコリスって、何ですか?
日本だと甘草(カンゾウ)っていいますね。
薬草の一種。
へえ。
1974年蒸留ですから、このカリラはポートエレン・モルティングの 麦芽を使っているはずですね。
そうなりますね。
ああ、アイラのモルトがゆっくりと寝ていましたという 感じの味ですね。
ああ、甘い。
でも、しょっぱくもある。
いいなあ、この味。
本当にいいですね。
まず口の中に入れた時には甘い液体の印象があって、 それから上顎と舌の間から液体が無くなってしまってからは、 舌の上がヒリヒリとした感じとピートの余韻が口の中に ズーっと残っていく。
ズーっと口の中に残りますね。
石炭のようなカリラのピートの個性で。
味わいは、最初の方が松脂と、後半はタールのようなピート。
そして微かにミント。
元気な時じゃないと飲めないモルトだと思います。
ハハハ。
ああ、そう。
度数が高いけれど、それほどには感じない。
それよりも濃度、とても濃いような印象がある。
そうそう。
元気じゃないと、この濃さは受け止めきれないんじゃないかと思いました。
なるほど。
おいしいんだけれど、じっくりと飲めるような感じではない。
甘い石炭。
うふふ。
僕には石炭と言うよりはタールの感じ。
アイラ島の蒸留所の多くが、ポートエレン・モルティングのモルトを 使用しているのに、それぞれに香りや味が変わるのは面白いですね。
ポットスチルの形もあるだろうし、アルコールの濃度も違う。
蒸留時間や温度の差もあるだろうし、樽の種類、貯蔵庫の環境も違う。
本当に不思議ですね。
仕上げにミントを入れるか、甘草を入れるか。
Iさん、ここ笑うとこですよ。
ああ、すいません。
27年たったとしても、カリラはカリラで、ボウモアにはならない。
当たり前と言えば当たり前だけど、とても不思議なことですよね。
アードベッグとは全く違う個性を持ち続けていく。
この個性は、結構好き。
重くはないんだけれど、濃いんですよね。
しっかりと存在感がありますね。
カリラが持つ個性は切れの良さだと思うんですが。
このカリラ自体は、カリラそのものの個性を少しおとなしくして、 いろいろスパイスを足したような感じです。
カリラは若いものでも比較的良い出来のものが多いんだけれど、 これを飲んでしまうと世界が違うことが分かる。
背骨に流れているものは同じでも、ステージが違うんだと思いますね。
格の違いみたいな。
普通は10年くらいでも十分に美味いんですよね。
でも、これを飲むと、さらにピーティで濃くて美味いんですよね。
そうそう。
カリラの個性のなかには、Dryとか、塩辛いとかありますけど、 この長期熟成のカリラにはあまり感じませんね。
そう言えば、そうですね。
ハーブの個性はあるけど。
余韻について言えば、自分がこれまで飲んできたカリラの中で 最も長いものかも知れない。
こういうのも悪くないな。
長期熟成だからでしょうかね。
最近はファースト・フィルの樽で、10年程度の熟成で しっかりと味を出していますから。
ただ、味わいの濃さや余韻の長さは、全く違うというわけですね。
今回のハンド・ライティングが4種類が出ているんだけれど、 このカリラが一番美味しかったと思います。
それでは、そろそろ総括に行きましょうか。
Iさん、どうぞ。
入り易かったのはマッカラン。
最初にマッカランで良かったと思います。
そうそう。
僕も、今日はこの順番で良かったと思います。
最後に飲んだカリラは、濃い風邪の水薬をいただいたような感じでした。
今日飲んだなかで一番美味しかったのは、ミルロイのグレンリベットです。
とても印象的モルトで、強烈に満たされました。
グレンリベットは、中身も含めて買いに行きたいと思います(笑)。
じゃ、Kさん。
今日飲んだ順番でいうと熟成年数が、34年、30年、 27年になっているんですよね。
で、アルコール度数は、41.8度、47.3度、59.7度と 段々上がっていってるんです。
個性の強さで言えば、アルコール度数の方に比例していて、 もっとも強烈な個性を放っているのは、最後に飲んだカリラだと思います。
なるほど。
最初に飲んだマッカランについては、これがマッカランなの?っていう 問いかけと、これが34年熟成なの?っていう問いかけがあって、 意外性のあるモルトでした。
本当は、やわらかくて、やさしいモルトなんだけれど。
二番目に飲んだミルロイのグレンリベットは、 シェリー樽の華やかで陽気なところが出ていたと思います。
花火ドンドンで、美味しいモルトでした。
シェリーの嫌らしいクセも出ていなくて良い出来だと思います。
最後に飲んだカリラは、カリラの石炭っぽいピートを背骨に持ちながら、 ヒリヒリした長い余韻と濃い味わいを持っている、 完成度の高いモルトだと思います。
順番を付ければ、カリラとグレンリベットがほぼ肩を並べて抜きんでています。
ちょっと遅れてマッカランでしょうか。
それでは、Sさん、お願いします。
マッカランは、スタートとして良かったと思います。
ただ、掴みにくいモルトだった。
口に入れると個性が変わって行く。
ある意味面白いんだけれど、ある意味リラックスできない感じでもあった。
最後のカリラは自分がカリラが好きだし、リコリスも好きだから、 美味しいと思う。
長熟のカリラとしてよく出来ているとは思うけれど、 落ち着いて飲めるような感じがしなかった。
一番美味しかったのは、ミルロイのグレンリベットですね。
英語でいうとLusciousという単語がある。
官能的という意味ね。
最初からグラン・フィナーレで、どんどん魅惑してくる。
今の状態はベストと思うけれど、これからどうなっていくのかを 見ていきたいと思う。
この状態を維持していけるのかどうか。
やはり私も、このボトルを手に入れたいです。
じゃ、中身は僕ね(笑)。
Sさんたら、本当にいぢわる(笑)。